つまらない女
(斎土)
土方歳三は女遊びの激しい男だった。女を弄ぶなどいやな男だ、とそしられようものだが、彼はとんだ美男子であったので、女泣かせの色男、などとはやし立てられていた。
「土方さんもいい男だったけど、斎藤さんも相当に美男だよ」
自分に抱かれる女がそう言って頬をなぞって微笑んだのを見て、斎藤は「じゃああんたはつまらない女だね」と言いたくなってただ薄ら笑いを浮かべた。
「ねえ、副長はどういう風にあんたを抱いたんだい?」
「やあね、嫉妬?」
「そんなんじゃないさ。そんなんじゃ……」
くすくすと笑う女に甘い言葉を囁きながら、斎藤は冷えた目で女を見た。土方さんが、あの高潔な男が抱いたと言うからどんな女かと思えば、自分とあの人に抱かれて嬉しそうにする阿婆擦れだ。なんであの人はこんな女なんか抱いたんだ、と斎藤は怒りすら覚えて、女の腰を強く握り、肉棒を打ち付けた。
「あッ、ああ!」
「僕ァ、あんまり喘がない女が好きだなあ。副長の前でも、そうやってひどく喘いだのかい?」
責めるような声色になっていた。こんな女が、一夜でもあの人の寵愛を受けたのが嫌で嫌で仕方がない。こんなもの、自分で塗りつぶしてやる、と斎藤は一際強く腰を振ると、女の腹の上で精を吐き捨てた。中で出すような馬鹿なまねをするほどには理性はなくなっちゃ居なかった。自分の精を女の腹に手で塗りつけて、斎藤はそこでようやっと満足した。
・・・
「斎藤さん、最近女を抱いて回ってるんですって」
少女がさして興味もなさそうな顔で、斎藤に言った。斎藤はかりかりと頭をかいて、情けない顔を見せてへらりと笑う。「ああ、ばれちゃったかあ」
「だって、あの色男のお下がりだったら、いい女ってことじゃない? こんな下世話な話をして悪いけどね」
そんな彼の心情を知ってか知らずか、沖田総司は小さくため息をついて、ばれたら土方さんにしばかれますよ、と口にした。
「あの人もおそらく知ってるでしょ。知ってて何にも言わないってことは、どうでもいい女ってことじゃない?」
緩くカーブする髪を揺らして、斎藤はまた笑う。沖田は馬に蹴られて死んでしまえ、と斎藤を静かに罵倒して去った。
「あの人が本当に好きになった女なら、俺だって抱いてみたいね……」
そう言いつつも斎藤が本当に抱きたいのは、あのまっすぐな瞳をした気高い青年なのだ。土方のお下がりを抱いて回るのも、「土方の本命」が居ないことを確認したいがためでしかない。もし土方が本当に遊びでなく誰かを好きになるなら、きっと自分なんかに抱かれるような女ではないだろうという確信が斎藤にはあった。というより、そうでないと斎藤が嫌だった。心が潔白な人間の相手は、おなじくらい清くあってくれないと困る。そうでなければ、斎藤は嫉妬に狂って相手を殺してしまうだろうから。
そこで斎藤は、屯所の庭で雀を見ている土方を見つけて、「ああ、副長!」と、今日初めて屈託のない笑いを浮かべて声を出した。沖田との会話を聞かれていたろうか。聞かれていようがいまいがどうでもよかった。
「あんたの抱いた女を抱いたよ。女を見る目がないね!」
土方は切れ長の目で斎藤を一瞥すると、「お前もな」とだけ言った。