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​太陽のゆりかご

(ホー炎 義父子パラレル設定 若炎とショタホ


 
 街頭モニターにうつっているのはいつも全能のナンバーワンヒーロー・オールマイトだ。轟炎司は、白い歯を見せて笑う画面の向こうの彼をぎろりとにらみつけるように一瞥して、逃げるように自宅へと急いだ。
 惨めな気分になるのはいつものことで、堅苦しいスーツの第一ボタンが首を締め付けるヘビのようにも感じられるのもそうだった。
 険しい表情で一軒家の戸を開けると、びゅん、と風を切ってちいさなこどもが飛び出してきた。
「炎司さん!」
「こら、むやみやたらに個性を使うな、啓悟」
「だって、今日やっと飛べるようになったんですもん」
 炎司のおおきな顔面に抱きつくようにして、くりっとした目が不服げに炎司をみおろす。
「訓練がんばったって、褒めてくれてもいいんですよ」
「飛ぶのくらい当たり前だ、コントロールをできてから言え」
「はあい」
 不器用すぎる性格のせいで、炎司がこの子供――鷹見啓悟を褒めてやれたことはあまりない。それでも啓悟はうれしそうににこにこと笑って、この義父のことを甘ったれた声で「炎司さん」と呼ぶのだ。
 炎司自身も子供というものに対してどう対応するのが正解なのかわかっていないが、昔個性婚を考えた相手の女性は「あなた、こどもを育てるの向いてない」と言って首を振ったのを思い出すに、多分あやまった態度を取っているのだろうというぼんやりとした自覚はあった。それなのに、この子供は。
「あのね炎司さん。今日新聞にあなたが乗ってたんですよ。もうおれのスクラップブック、なくなっちゃいそう」
「貴様は、まだそんなことをしているのか」
「だってだって、おれ、炎司さんの活躍はぜんぶとっときたいんですもん」
 顔にはりついたまま、啓悟が言う。炎司はそれをひっぺがしてTシャツの首元をひっつかんでぶら下げると、ぐえ、と啓悟はカエルが潰れた様な声を出した。
 公安で出会い成り行きで引き取ったこの少年は、いささか義父の炎司になつきすぎているきらいがあった。ここまで自分に好意的に接してきた人間などいまい。そう本人に言えば、「見る目ないですねえ」とぼやくだけだった。

・・・

 食卓につくと、啓悟は出来合いのハンバーグを頬張り、機嫌よさそうにぱたぱたと足をぶらつかせていた。事件のせいか彼には子供らしからぬ落ち着きがあったが、こういうところはまだ十歳の子供にひとしい。
 炎司はしばらくもごもごと言いづらく、まごついていたが、がちんとフォークでハンバーグの肉片を刺すと、
「誕生日」
 とぶっきらぼうに口にした。
「はい?」
「誕生日、なにが欲しいかと言っているんだ」
 親らしいことをするのがどうにも照れくさくて、刺したハンバーグを口にも運べず固まっていると、啓悟は目を輝かせて、「誕生日プレゼント!」と飛び上がった。
 天井にゴチン! と頭を打って、痛みに手を頭にやった啓悟は、「ほんとうにほんとうに、くれるんですか」とにっこりと笑って炎司を見下ろした。
「ああ、まあ。父親らしいことも、してやろうかと。たまには……」
「うれしい。あの、あの炎司さん。俺うれしいですよ。えっと、欲しいもの、どうしよう」
「すぐすぐには決めんでも、いいから。はやく座って食べろ」
「あ、はい。プレゼント、プレゼントかあ」
 ホークスは心底うれしくてたまらない、と言う顔で口元をゆるませる。しばらくそうやって考えている様子だったが、あ! と思いついたように声を張り上げ、もじもじとやりながら、炎司をおねだりするときの顔で見た。
「あの、じゃあ。炎司さん」
「は?」
「炎司さんが貰ってたぬいぐるみあるでしょう。スポンサーから。グッズでるとか言って。俺、あれ欲しいなあ。炎司さんの、フレイムヒーロー・エンデヴァーのぬいぐるみ……」
 そんなものでいいのか、と炎司は拍子抜けして、同時に「そんなものでいいのか」と声に出していた。
「そんなものって!」
「いや、だな。オールマイトじゃなくていいのか。子供がすきなのはあいつだろう」
「なんでそういうとこ自信ないんですか。俺はあんたに憧れてるのに」
 も~~、と啓悟はほほを膨らませて拗ねる。炎司は、そういうものなのか、と首をひねりながら、「それでいいなら」とハンバーグを口にした。
「それがいいんですよ」
 いつか絶対分かって貰いますからね、と啓悟は釈然としない炎司に向かってそう言った。


 

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