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楽園のひと

どむさぶユニバース ランヴェ めっちゃ湿っぽいし意味分からん)

 かれは逝った。千年来かつて地上に存在し、また、世人の目に触れたうちで最大の勇者は。かくも鷹揚、かくも強力、かくも勇敢、かくも気前よき友人に似る者決して現るまじ。
 ――ガウセルム・ファイデント

 めでたしめでたしでおわる物語なんて存在しなくて、更に言えばそんなものを期待するやつはとんだ愚か者だ。
 それをランスロットは今の今まで、意識をしたこともなかったし、自分がその【愚か者】であるだなんて、思いもしなかった。
 しかし、思い知らされた。ランスロットは、魔術医に案内された温室の扉を前にして、棒立ちになっていた。今自分がどんな表情をしているか、想像にやすかった。手はぶるぶるとふるえ、ノブがガチャガチャときたない音をたてた。
 こんなこと、剣を握ったときはいままで一度だってありやしなかったのに、ノブを回す手に力がどうしても入らない。
 本当にばかだった。ただ、domもsubも抜きでとなりにいてくれるだけで、それだけで満足だったし、それがずっと続くだなんて、信じ切っていた自分が。後悔したって、しきれない。
「......ハハ」
 乾いた笑いがこぼれ落ちて、それは白い床にはねてぱちんと消えた。
 今更なのだ。ほんとうに今更。ヴェインはうまれながらにsubで、どうしたってdomが必要で、でも俺たちはばかだったからパートナーにならなかった。それでいいと無邪気に思っていた。こどもみたいに。
 イザベラは散った。王都には少しずつ平和が戻ってきている。だのに、かれだけ、ヴェインだけが。苦しい戦いや、拷問に耐えたこの身が、そのことを考えるだけで、引き裂けそうな痛みに見舞われる。
 この扉を開くことは、ランスロットにとって、それだけおそろしいものだった、けれど、ランスロットは開けた。【そうするしかなかった】。だって、なぜなら、そうしないといつまで経っても前に進めない。
 緑の植物に囲まれた部屋で、ヴェインは眠っていた。
 ひゅ、とうまくすえない空気が音をたてる。ひどいめまいと吐き気がした。
「ヴェイン」
 震える声で、ランスロットが声をかけると、地面にねころがったからだが起き上がる。
「ランちゃん」
 ヴェインは、変わらないみどりのうつくしい瞳で、ランスロットを見て――いや、「見て」はいたいのだろう。けして目はあわなかったから――へらと柔和に笑った。
 そのまま、温室の椅子に座ったランスロットに酔ってくると、Kneelの姿勢をとった。ランスロットは、ああ、と声をだして、頭を撫でてやると、幸福そうな顔をしてヴェインはそれを享受した。
 ランスロットは、幸せそうに、kneelを続ける幼なじみを見て、夢の中にいるようだ、と思った。
 実際、ヴェインはずっと幸せな夢を見ている。夢のなかにいるヴェインは、誰に対しても「こう」だ。ヴェインにとって、【ランちゃん】はランスロット本人でなくても良い。なぜなら、かれにとってその記号が示すものは、世界だからだ。
 ランスロットが思っているより、ヴェインのいる世界は狭くて、ちっぽけだった。きっと、井の中の蛙よりせまい。ランスロットと、自分。その二人がいれば、ヴェインにとって世界だった。
 イザベラを打倒して、王都に平和が戻って。もうそこでヴェインのなかのsubは限界だったのだ。パートナーの居ないsubが、この世界でひとり生きていくことは難しい。しかし、ランスロットはヴェインのパートナーにならない。となればどうなるか。
 ヴェインのなかには、自分と、ランスロットしかいない。最後に残ったのは、世界だ。
 ヴェインは世界という概念のsubになった。
 そして、操り人形の糸がぷつりと切れたように、サブスペースに入って、そこから出てこなくなった、世界に対してサブスペースに入って、入りっぱなしになったヴェインは、ずっと幸せな夢をみて、この温室でどうぶつのようになっている。
 かれは永遠に続く至上の幸福を得た、と言う魔術医もいる。ランスロットは、たしかにそうかもしれない、と、しあわせそうにkneelの姿勢を続ける幼なじみを見て思った。
 だけど、もうほんとうのヴェインは戻ってこない。こんなの、死んだのと同じだ、と心中で吐き捨てる。
 ヴェインはたしかにしあわせだろう。けれど、ランスロットはこの上なく、不幸だった

 


おわり

 

 


あとがき
意味分からんねごめんね

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