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人生相対性理論

(ノアラカ。なんかよくわからん話)

「星晶獣のおまえにはわかるかわかんねえけど」
 ラカムは、たばこに火をつけながら、そう言い置いた。夜も更けたグランサイファーの甲板には誰もおらず、ノアとラカムのふたりだけだ。
 シュボ、と音がして、煙がくゆる。それは体にわるいものだと誰かに聞いてから、ノアはラカムにたばこをやめて欲しかったが、いまさらやめれるもんじゃねえよといわれて毎回その要望は却下されていた。
「空は広くて果てしないが、人生ってヤツも果てしない。お前にゃ俺なんか、生まれました、はい死にました。そんな感じだろうけど。その間のいろいろが、俺ら人間にはとてつもなく長いし、波乱に満ちてる」
「そうだねラカム」
「ほんとにわかってるか? その返事」
「わかってるさ。たとえば、そうだな。君と旅をして、いろいろ知った。いろいろね」
 例えば、君の肌とか、とノアがちゃかすと、ラカムはカッとなってうるせえと肩を小突いた。
「いっちょ前に冗談なんか言いやがって。生意気だ」
「生意気になったのは君の方だと、僕は思うけどね。初めて会った君は、オイゲン、オイゲンって――」
「うううるせえな! ほんとにかわいくねえ」
 俺は真剣な話をしてるんだぞ、とすねるラカムがノアはかわいかった。ちいさいこどものラカム、大人になったラカム。どちらもノアの大事な相手に相違ない。
「ごめんよラカム。話を聞かせて」
 ノアが謝ると、ラカムは、クソ、と悪態をついて、たばこをいったん口からとって、スキットルに入った酒をあおった。
「人が恥を忍んで、柄にもねえことをいおうってのに。酒が入ってなきゃ繰り返しいうもんかよ」
 ラカムは、だから、と続ける。
「俺は長々と、お前と旅をして、ソレを墓までもってくワケだ。どこでおっ死んだって、俺の人生のきっと半分以上お前だ。いろいろあって果てしない人生の、果てしなさだけ、お前がいる。生まれて、死ぬまでのあいだをゆっくりスローモーションで歩いてるわけだからな」
「うん」
「不公平だと思ったんだよ。俺だけスローモーションで、お前は倍速。お前にとっちゃお前の長い長い一生のなかで、俺なんか、短いランプの点滅以下だ」
 悲しいぜ全く、といって、ラカムはぷはあと煙を吐き出した。もくもくとそれは風に流れて消えた。ノアは、消える煙をじっとみて、それからふふふと笑った。
「何わらってんだよ。そんなに俺がセンチメンタルなことをいうのが可笑しいかよ」
「いや、君は、僕のことがとても好きなんだと思うと、嬉しくって」
「......あったりまえのことを堂々と言うな。恥ずかしいだろ」
「君も大分恥ずかしいことをいっているよラカム」
「わかってらあ」
 短くなってきたたばこの火を潰して消すと、またラカムはスキットルを取り出した。いい加減酒臭い、とノアは思う。
「生まれて死んだ君のことを、ずっと覚えておくよ。濃縮したら一瞬かもしれないけれど、僕はきみの生命の瞬きを忘れたりしないさ」
「約束してくれよ、そうしないと、死んだ俺が浮かばれねえ」


おわり

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