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What makes him human

(テリアフェ たびはじまって仲間ふやしてるとこくらい)


 まともに死ねやしないと思っていたから、ここでくたばるのも当たり前だとテリオンは生きるのを諦めた瞳で草むらに横たわっていた。たべかけのリンゴがそばに転がっていて、テリオンはそれを拾い上げることもできずに見て、これが大樹になるとき自分を糧にしてくれればいいと思った。
 このまま誰にも知られずに、自分の過去も解らないまま、現在も未来も失って闇に消えていくことを夢想した。知られず朽ちることがさみしいわけではない。テリオンはさみしいと感じるほど人のぬくもりを知らないのだ。それを悲しいことだと思うこともできない彼は、ただ衰弱していく体となりゆきに任せて今まさに意識を閉じようとしていた。生に執着できるほどに、生きていない。生きることがどういうことかもまだ知らない。
 人間らしいしあわせとか、よろこびとかそういったものはテリオンにとっておとぎ話のなかの幻想でしかない。笑い合える家族も、帰るべきよりどころもない。テリオンがこれまで生きていたのは、死なないためで、生きるためではない。生きるという前向きな気持ちで心臓を動かしたことは、記憶にある限り一度も無かった。
「ああ、案外早かった」
 盗賊なんてきなくさいことをやっているのだから、どうせろくでもない死に方をすると解っていた。今生に未練なんかこれっぽちもなかったから、死ぬのは怖くなかった。ヘビに噛まれた腕がしびれる。毒が体を循環し、細胞をむしばんでいくのを想像した。もう死ぬ、と自分でもわかった。おやすみ、わりあい苦しくもなく死ねてよかったじゃないか。貴族に捕まって見せしめに嬲り殺しにされるよかだいぶいい。自然に殺されるなら甘んじて受け入れようと、テリオンは目を閉じた。次目が覚めたら、きっと向こう側に行っているだろう。
「――おい、あんた! なあ、生きてるか。死ぬんじゃないぞ、まだ早い。解毒薬を今調合してやるから、諦めんな。聞こえるか、まだ助かる!」
 直後、うるさい声が聞こえて、テリオンは目を覚ました。やかましいと文句のひとつも言ってやりたかったが、唇はうまく動いてくれなかった。ぼんやりとした視界に映ったのは、薬師が決まって身につける緑のベスト。それで、テリオンは自分がどうやら幸運にも(もしくは不運にも)一命をとりとめることに成功したのだとわかった。それで、生きたくもない人生がまた続いていくのだと理解して、うんざりした思いで薬師の手当を受けていた。
 ありがとうなんかいうものか、とぼんやりとうつる金茶のとさか頭を見ながら、再び消えゆく意識に身をまかせた。どうか自分は生きていませんように。目が覚めたら、死んでいますように。


・・・

 

「あ、目を覚ましたか!」
 残念なことに、テリオンは生き延びてしまった。うっそうとした森ではなく、宿屋と思わしき天井が意識をとりもどした彼を迎えた。視界に紛れ込んできたのは、とさか頭の男だ。そいつは快活そうに笑って、よかった、とテリオンに言った。なにもよくない、と命拾いした盗賊はうんざりした表情で彼をじっとりと見る。
「あんた、死ぬところだったんだ」
「助けてくれなんて頼んでない。薬代は払わないからな。だいたい、金もない」
「いや、いいって。俺が勝手に助けたんだ、お代なんかいらねえよ。宿代も俺が払っとくさ」
 薬師の男はそう言ってひらひらと手を振り、苦笑した。その言い方から、慣れているような雰囲気があった。おそらくこいつはとんだお人好しだ、と人物観察に長けるテリオンは感づいて、舌打ちをする。無償の施しをするような馬鹿な人間のことが、テリオンは一番苦手だった。欲にまみれ利己的な人間ほど扱いやすいものはない。反対に、無私の者は考えていることがわからないから相手にしたくなかった。
「おい、薬屋」
「アーフェンでいいぜ」
「誰が呼ぶか。お前と仲良くする義理もない」
「ふうん。まあいいけどよ。あんた、旅してんのか? そんならまだ動かないほうがいいぜ。あと二日は寝てろよ」
「二日も寝てられるか。俺には手持ちがないと言っているだろう」
「だから、俺がみんな払っといたって。おかゆいるか? 台所借りて作ってきたんだ」
 器に盛られたかゆを匙ですくうと、ふうふうと息をかけてアーフェンという薬師は冷ましてテリオンの口に近づける。そんなことまで世話をされてたまるか、とテリオンは自分でやれると起き上がってアーフェンから匙と食器をとった。
「なにも入ってないみたいだな」
「なんも変なもんいれてねえよ。そんな目で見るなって」
 テリオンが無礼なことをしても、アーフェンはとくになにも思わないようだった。怒ってどこかへ行ってくれればいいのに、笑うばかりの男にテリオンはやりにくいと感じた。
「後悔するぞ」
「なにを?」
「俺を手当したことだ。よく知りもしないやつを助けるっていうのがどういうことか、解らないのか?」 
 すっかりかゆを食べ終えて、体に気力がいくらか戻ったテリオンは枕元に置かれた自分の荷物から刃物を取り出すと素早くアーフェンの首元に向けた。ガチャン、とベッドサイドのテーブルに置かれた食器が床に落ちる。なにも持っていない薬師は、目を見開いてテリオンを見た。
「ちょ......、おい、なんだよ」  
「死にたくなかったら、荷物全部置いてとっとと出てくんだな」
「な」
「こういうこともあるってことだお人好しの世間知らず」
 盗賊だとテリオンが正体を明かすと、アーフェンは合点がいったとあっさりショルダーバッグを彼に渡した。「そうだな、運が悪かったぜ」
「やけに聞き分けがいい」
「こういうこともあるって言ったのはあんたじゃねえか。荷物盗られんのは嫌だけど、苦しんでるやつほっとくほうが俺はもっとつらいからさ。なんでももってけよ泥棒。俺は出てく。命だけは勘弁してくれ」
「..................、ああ、くそ。やめだやめ」
 調子が狂う。こんなやつからものを盗ってもなんにもならない。テリオンは興ざめして、刃物をしまうとどかりとベッドに腰を下ろした。アーフェンは安堵した風にはあ、と息を吐いてそばの椅子に座り直す。
「あ~、死ぬかと思ったぜ」
「今じゃなくてもじきに死ぬ。お前みたいにばかなやつは、他人に利用されて野垂れ死ぬのがお似合いだ」
「ひどいこと言うなあ」
 アーフェンは、すねたように口をとがらせる。子供のようだ、とテリオンは思った。さっきまで自分に危害を加えようとしていた相手の面倒をまだ見るつもりらしい青年は、テーブルからガラス瓶を持ってきてテリオンに水をやった。
「ひどいことがあるか。俺は当然のことを言っている。いいやつほど早く死ぬって知らないのか?」
「はは、なに言ってんだよ。じゃああんたも早死にだって」
「は?」
「わかんねえ? あんたいいやつだぜ。結構さ」
 にか、と笑って、アーフェンはテリオンを見た。テリオンは居心地がどうにも悪くなって、寝る、と言って掛け布団を頭までかぶって目を閉じた。こんなやつと一緒にいたら期がおかしくなる。眠りから覚めたら、アーフェンが居なくなってくれることを祈った。このまま話していたら、午後の木漏れ日のような暖かさと優しさがテリオンの冷たい心を溶かしてめちゃくちゃにしてしまいそうだったからだ。
「起きたらさ、名前教えてくれよ」
 だれが教えるものか、テリオンはぎゅっと口を結んで、いまにも飛び出してしまいそうな高鳴る心臓をおさえ込んだ。

 


おわり

 


あとがき
 テリアフェ、陰陽カプでよすぎるという話でした。こういう感じの出会いがいいなっていう妄想ねつ造満載でお送りいたしました100%つよめの幻覚。すち~む版でまんまと好きになってしまった一気に攻略してしまったよ。普通にアーフェン主人公でプレイしたら一番最初に出会いそう(近い)なのが盗賊のテリオンっていうのほんとにありがとうございますごちそうさまでしたスケベしてくれ~~(願望

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