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プレイヤー

(ジュンナツ+プロデューサー)

 君をアイドルにすべきじゃなかった。そう俺が言うと、榊夏来は困ったような顔をして、「プロデューサー、どうしてそんなことを言うの」とかえしてきた。ガラハッドの演技の練習は順調に進んでいた。このドラマで、また夏来はアイドルとして有名になるだろう、と俺は感じていた。けれど、それは本当にいいことなのだろうか? と、その反面思うのだ。
「君と、冬美旬くんは、昔誘拐されかかったんだろう。この間、春名くんから聞いたんだ。知らなかった。俺は君たちを危険にさらすためにプロデュースしたいと思ったわけじゃないんだよ」
 俺は、不思議そうな顔をしている夏来に、新聞の切り抜きをみせた。それは、つい最近、人気女性アイドルが握手会で男に刃物で刺されて重傷を負ったというものだった。
「こうなるかもしれない、そう思うと恐ろしいんだ」
 顔を覆って、俺はため息をつく。俺がスカウトしたのは、こういう目にあわせるためじゃないのだ。でも、高校生の、まだ子供の彼らをスカウトしたのは、紛れもなく俺なのだ。
「誘拐は懲役3年。もうきみたちをおそった男は出所している。だから、君たちが有名になればなるほど、危険性は高まるんだ。名前と顔が割れてしまうから。男たちが、またきみらを襲うことになんてなれば――」
 ひどい焦燥感にかられる。夏来は、なにも言わないで、俺の言葉を聞いていた。沈黙は、金。黙って俺の話を聞いている彼は、事務所の窓からさす夕日をバックにしているからか、神父かなにかのように思えた。
「でも、プロデューサー。俺、High×Jokerは、全員揃わないと、ユニットじゃない......。それに、俺は......、このままアイドルをやってみたいって、思ってる。だって、ジュンがあんなに楽しそうにしているのも、俺みたいなのが......、誰かになにかしてあげられるっていうのを教えてくれたのも、315プロだから」
 うれしいんだ。と言う夏来に、俺はなにも返せなかった。色素の薄い、銀の髪が夕日に照らされて光っている。夏来は薄く、ほんとうに薄く笑っていた。まだ未成年の、年若いこどものする顔じゃない、と俺は思った。
「それに」
 夏来は、顔を伏せて、小さな声で、「少しだけ、そうなったらいいって思って......。おかしいことだけど、ジュンを守るために、危険なことが起きて欲しいだなんて」とこぼした。
「おーい、練習の続きするぞ」と、遠くから春名の声が聞こえる。夏来は、「呼ばれてるから」と、席を外した。
「どうしたらいいんだ」
 俺は、一人になった事務所で、夕日を浴びながら、頭を抱えて泣きそうになった。神様、どうしたら。

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