目
(十四独 独歩の弟説を採用しています)
テレビで音楽番組を見ていた一二三が、「そういえばさ」と言った。テレビのモニタは最新のヒットチャートを流していて、ちょうど一桁台に突入したところだった。
「最近ずっとこのバンド、上位にいるんだよな」
俺は濡れた髪をタオルでふきながら、ふうん、と気のない相づちを打った。テレビに映っていたのは派手な化粧をして衣装をまとった、いわゆるビジュアル系だろうと思われるバンドだ。
プログレッシブとか、オルタナティブとかを好んでいたから、ビジュアル系は趣味じゃなくてよく知らない。そもそも、ビジュアル系といったら女性が好む印象だし。
ただ、ぼんやりと聞いていたその音楽はやけに耳に馴染んでいて、しっくりときた。
特にボーカルの声が、なぜか奇妙な懐かしさを持っていた。テレビの前に置かれたソファに座れば、興味あんの? と一二三が聞いた。
「いや、別に。上手いなと思って」
「お客さんも結構この手の話するんだよね。14th mooonっていうんだって、ボーカルの子。まだ十代なのに歌がすっごいうまくて、そんでかっこよくてメジャーにでてから人気だって」
「お前にかなうやつなんかおらんだろ」
「いやまあ、俺はホストじゃん。カリスマでも、芸能人みたいなアイドル性はないぜ」
「嫌味にならんのがむかつくな」
俺はため息をついて、テレビをまた見る。ボーカルの少年は、黒髪をながく伸ばしていて。ところどころ金がまじっていた。ビジュアル系というだけあって、ゴシック風の服装をしていたが、やけに似合っていた。
たしかにこれは女性ウケするだろうな、と思って眺めていれば、不意に画面の向こうの彼の目と、自分の目が合った気がした。どこかでみたようなコバルトブルーが、こちらに向いたとき、ぞく、と背中にしびれが走った。
責められている、と思った。どうしてかはわからない。ただ、これ以上見ていたくなくて、一二三の手からリモコンを奪ってチャンネルを変えた。
兄さん、という声がどこからか聞こえた。家をでてからもう何年もたつのに、その声はどこまでも追いかけてくる。人間の記憶で一番最初に忘れるのは声の情報らしいのだが、弟の声は未だに俺を責め立てる。ああ、ごめん。俺のせいでお前は。
切り替わった画面では、いまブレイク中だというオオサカのピン芸人がギャグを言っていた。一二三は爆笑していたが、俺はどうしても笑えなくて、ソファに沈み込んで目を閉じた。
あとがき
四十物十四が観音坂独歩の弟説、好きです