春待つハイドレンジア
(ポップン ジャクヴィル 花とRENAISSANCEネタ)
梅雨の時期だというので、雨に弱い植物を室内に入れる仕事がジャックに課せられた。趣味のことなのだから自分でやれよな、と思いながらも、ジャックはもくもくと野外においてあった植木鉢を温室へと運び込んで並べた。
一人では管理できないほどの植物を育てるというのはいかがなものか。色とりどりの宝石のように花弁を開くそれらにうんざりして、ジャックはため息をつく。
「ご苦労。今日は逃げなかったようだな」
急に、音もなく忍び寄ってきた影に背後から声をかけられて、ジャックは飛び跳ねる。「なんだよ、足音くらいはさせろって」
「上司に生意気な口をきくな。さて、これでひとまずは大丈夫そうだ。雨は恵みというが、こうも降りしきられると困ってしまう。根腐りしては気の毒だ」
「あのな、せめてこういうことは自分でやってくれよ自分で」
「暇だろう」
「暇だけど」
相変わらずなにを考えているのか解らない上司だ。解らないんじゃなくて、本当になにも考えていないのかもしれない。このクソ雨の多い季節にハイビスカスを育てようとするのだから、意味が分からない。こういうのは夏じゃないのか? 過去、梅雨でも管理をきちんとすればきれいにそだつのだなんだか、ハイビスカスの苗を飢えながら長々とうんちくを垂れていたがジャックはおやつを食べながら全部聞き流した。
「花には水をやらなけらば枯れるのだし、部下には仕事をやらなければ」
「うげ、誰が花だよ」
「放任栽培でも良く育ちそうだ」
上司――ヴィルヘルムは実に機嫌良さそうに、ざあざあと雨の降る外を温室の窓から眺めた。去年、丹念に窓際のつちくれを掘り返して腐葉土やピートモスを混ぜ込んだかいがあり、質の良い青の紫陽花が咲いている。扇型の葉から、しずくがしたたり落ちるのを見ているヴィルへルムが何も指示しないので、ジャックは所在なさげに突っ立っていた。
「なんだ、行かないのか」
「あんたなあ、俺が言うことを聞かなかったら追い回すくせして......」
「私がいつもお前を追いかけているようなことを言うな」
「いや、そうだろ。実際」
「――まあ、その通りかもしれないが」
「はあ」
「私は忍耐強いほうだ。待つのは得意だぞ、ジャック」
「そりゃ、ガーデニングなんか趣味にしてるやつはそうだろうよ」
ジャックは、それだけ言うと、ここに居る理由もないと判断して温室から出た。ヴィルヘルムは紫陽花を背にして、それを見送る。彼の胸にぶら下がった、青の石がきらりと輝いて、ふたりを見慣れない(もしくは見慣れた)姿でうつした。
おわり
あとがき
タグリクエスト:六番トリクル・トリクル(歩く・宝石・あじさい)
紫陽花の花言葉は忍耐強い恋だそうです。RENAISSANCEの英才教育を受けたのでそういうかんじです。おじさんもこの年になってぽっぺんの二次創作をするとおもいませんでした。
作業BGM:キャトられ☆恋はモーモク(ほんとうです)