悪夢
(王者の遊戯 関羽×劉備 十八禁)
「最早すべてが違っていますね」
兄者が子龍に兄弟にならないか、と言った時、そう突っ込みを入れた時の関羽の兄貴の目は、いつもの「ヤバい」ときの目をしていた。普段通りの口調、声色のくせに、目だけがぎらぎらと恐ろしく光っていた。だから俺が代わりに騒いでやらなきゃならなかったんだ。
「やだよ! 兄貴ったら、兄弟は一緒に寝ましょうって言うじゃん。これ以上狭くなったら寝れねーよ!」
あの時慌てていたのは子龍が兄弟になったら寝床が狭くなるからじゃなくて、いやそれもあるのだけれど、この話を続けたら絶対によくない事が起こると分かっていたからだ。それを起こすのはいつだってあの目をした関羽の兄貴で、被害者はそんなつもりは一切ないであろう兄者になる。俺はそれを知っている。いけないのはその発言だけではなかった。兄者は人との距離感がどうにも近い。子龍の肩を掴んで引き寄せている姿なんかは、俺をはらはらさせた。隣の兄貴が何を思うか心配でこっそりその表情を伺うと、やっぱり目の色はあの凶暴なまま変わっていなかった。
ああなるともう兄貴は理不尽にもいつもの冷静さなんてどこか遠くに放り投げてしまって、俺たちが足をつけているここではないどこかに意識をやってしまうんだ。そのくせいつも通りの姿を取り繕うのは驚くくらいに得意なもんだから、兄貴がそうなっていると気付くのは至難の業。子龍なんかじゃまず気付けないだろう。他人なんてもってのほかだ。俺はこの状態の兄貴について誰とも、関羽の兄貴本人とも話題にしたことはなかったし、誰も俺にそのことを聞いてくる者はいなかった。肝心の兄者さえ、兄貴のそれを特に気にしているようなそぶりを見せたことはない。さわらぬ神にたたりなしということなのか、それともこの兄貴の面倒な性質でさえもあの穏やかな笑みでまるっと受け入れてしまっているのか、俺が判断できるほどに兄者の心の中は単純じゃないことをこの付き合いでよく知っている。
今回の戦で、俺たちは城も落とされ、兵も失った。帰る場所もない。ないない尽くしの根無し草に逆戻りしたこと自体には不満はなかったけれど、それを止められなかったことが何よりも胸にきた。失われた命のことを考えると、ぎりぎり胸が傷んだ。それでも悲しみに浸るよりも今は前へと進むのだと兄者は曹操のところに行くなんて言うけれど、そこでなんとかなる補償なんてどこにもない。兄者のことだからなにかしら考えがあるのだろうとは思うものの、よりにもよって曹操を選んだ兄者の気がしれなかった。学がないとよく言われる俺にだってその危うさが分かったくらいだ、兄貴に分からないわけがない。なのに、それなのにあの時、いいんじゃないかなんていい加減な返事をした関羽の兄貴は、やはりどう考えても上の空だった。兄貴、こんなときにいつもの考え事はやめてくれなんて言えたらよかったのだけれど、そう言って兄貴の中のそれを共有するような勇気がなかった。自分の中に閉じこもってしまった兄貴は、きっと俺の知る兄貴ではないだろう。そこにいるのは頼もしい義理の兄ではなく、愛とか嫉妬とかそういうものにまみれた関雲長という男だ。俺が考えた結果じゃなく、本能が触れない方がいいと言っていた。
・・
俺たちはまず曹操がドンパチやっているという戦の地へと向かうことにして、いや本当はあいつなんかの手助けなんかしたくないのだけれどそこは兄者が言うから我慢することにして、その日は野営になった。いつもなら子龍は別で、俺たち三人は一緒。そう決まっている。でも今日はそれじゃあよくないんだ。俺の頭にあるのは兄貴のあの目だった。だから寝ましょうかと言う兄者に向かって、俺は首を振らなければならなかった。
「なあ、兄者。やっぱり今日はなんか眠れねえや。関羽の兄貴の薬膳じゃたりなかったかな、腹減って仕方がねえんだ」
「兄弟は一緒に寝るんですよ。約束でしょう」
「いやさ、ちょっと鳥でも焼いて食べるだけだから。まだ兵が来るかもしれないし、ついでに見張っとくからさ」
「そうですか」
心の中でごめんな兄者と謝って、ついでに兄貴を呪って、俺は外に出かけた。残念そうにしょぼくれる兄者には後ろ髪を引かれたけれど、今は絶対に戻れないし、戻ったらどうなるかわからない。いや、俺がどうにかなることはないだろう。ただ、戻って俺が目にするのはなかったことにしたかった現実だ。そしてそれを前にしたとして、俺はどうしていいか分からない。逃げていると言われればそうかもしれないけれど、今のところ兄者たちの「それ」に対してどんな態度を取ってしかるべきか決めあぐねている最中だ。
もし俺が今すぐに振り返って駆けだして、寝床に飛び込んで有無を言わさず兄者の手を引いて関羽の兄貴との関係を問いただすことを兄者が望んでいるとしたら、今すぐ戻って行って寝床で大騒ぎする役目を負ったって俺は構わない。二人は実は「そういう」意味で愛し合っていて、俺がそうしさえすれば打ち明けられるのだというのなら喜んでそうするだろう。そのあと兄貴に殴られたって、マズい朝飯がいつもより大盛りになっていたって文句は言わない心づもりだってできている。または思いつめた兄貴に無理やりそういうことを強要されていて、そうしさえすれば事態が進展し二人とも救われるのだというのなら。けれど兄者は何も言ってこない。何も変わらない。これではどうしていいか分からない。
俺はそれがつらかった。どうにもできず、こうしてぶらつくことしかできない。言われなくても動けばいい、そうして今までやってきたとは思うのだけれど、自分の行動がもたらすだろう結果を並べているとどうしても行動に移せない。俺たちは生まれたときは違えども、死すときは同じと誓った義兄弟だ。兄者のことが心配な反面、関羽の兄貴のことも俺は好きだ。不器用さが祟ってたまにああやって変になるだけで、明日には元通りの兄貴がぐるぐる機嫌良さそうに薬膳の入った鍋をかき混ぜていることを俺は知っている。そうしたら、俺もこんな悩みなんかすっかり忘れて「げえ、またそれかよ!」なんて言えるのだ。肝心なのはその変になった兄貴のことを、兄者がどう思っているか。
そうやって、うんうんと唸りながら考えにふけっていたからだろうか。不意にあの日の兄者の言葉を思い出した 。「愛していますよ、大事な義弟ですから。もちろん、お前も」そうやって兄者が誤魔化すから、俺はどうしたらいいかわからなくなってしまう。兄貴が瞳に狂気を宿す夜が来るたびに、こうして悩んでうなされる羽目になる。あれはいつのことだっただろうか。詳しい時期は覚えていない。いや忘れたかったからそうしたのだけれど、その内容までは上手く忘れることが出来なかった。ずいぶん前のことなのに、細かいところまでやけに覚えている。嫌な冗談みたいな、ほっといたら夢だと思い込んでしまいそうな、そんな記憶だ。
・・
その日も、戦で多くの犠牲がでた。俺はやりきれない気持ちで、軍勢を問わず倒れた兵や、悪意を持った奴らが好き放題荒らした村を見ていた。そこは運悪くも戦場に近く、争いに巻き込まれてしまった農村だった。焼け焦げた家屋、無数の矢、死体は物盗りによって裸に剥かれたものが多かった。たしかそうだったはずだ。兄者は悲しそうな顔をして、足元に転がっている子供の亡骸に突き刺さった矢を抜いてやっていた。関羽の兄貴はというと、鍋の中の「薬膳」という名前がつけられた得体の知れないなにかを無言でずっとぐるぐるかき混ぜていた。何もかもが引き上げてしまったせいで、物音をたてるのは俺たち三人ばかり。その俺たちだって、ほとんど言葉を交わしたりはしなかった。俺はいつもみたいに騒ぐ気はしなかったから、兄貴の薬膳も黙って食べた。正直なところを言うと、食べられたもんじゃなかった。あの日は特に。
それでまた今日みたいに野営をして、三人で寝ていたんだ。まだ残っていた小屋に野郎ばっかり三人がぎゅうぎゅうにひっついて。とくに狭くもない小屋なのに、誰からともなくそうした。むさくるしいと思うかもしれないけれど、結局はそれが一番安心するんだ。けれど、それが俺には災難になった。
学がないとか、ただ暴れるだけとか、そういうことを言われるけれど、それは難しいことを考えるより行動するのが性に合っているだけ。俺だって単純なわけじゃなく、むしろどちらかというとよく気が付く方だ。しかもあんな凄惨な戦場に立って、神経が余計に過敏になっていた。なるなって方がおかしい話だ。向かってくる奴等を片端から斬っていって、それでも味方はやられていった。子供の泣き叫ぶ声や、助けを求める悲鳴、間に合わず死んで行くものの断末魔がまだ耳にこびりついていた。戦場に出るのはなにもはじめてってわけじゃない。何度も見たし、聞いた。けれど、それで平気になるものでもない。まあつまりは怖い夢を見た後の子供みたいに途中で目が覚めてしまって、眠れなかったわけだ。でも明日は早朝にここを発つ予定だったから、体力は回復しておかなきゃならない。だからぎゅと目を閉じて、眠くなれ眠くなれと頭の中でずっと念じていた。
「......うう、ふッ」
念じている間、どこかから呻き声のような、息漏れのような物音が聞こえて、俺は何事かと身を強張らせた。あの廃村からは少し離れた場所にあるとはいっても、死肉につられた獣や金品目当ての悪党どもがやってこない保証はどこにもない。もしかしたらと思い俺は寝たふりを続けたまま、側に立て掛けてある蛇矛にそっと手を伸ばす。
「......兄者」
ささやくような声が耳に入り、俺はその手を止めた。なんだ、兄貴が寝言でも言ってんのか。そっと手をまた戻す。それにしても兄貴ってば、寝言でも兄者のこと言ってんのかよなんて、笑いそうになってしまう。関羽の兄貴は兄者のことになると、人が変わったようになる。今日の戦でも兄者のことを馬鹿にした敵兵はみんな兄貴にぶったぎられたし、味方でさえ、どさくさ紛れに斬ろうとしていた。そんな兄貴がどんな顔して夢を見ているのかも気になってしまって、寝返りをうつふりをして、そっちに目をやった。もしそうしなければ、俺はまだ平和に眠るという選択肢を選べたかもしれなかったのに、と今でも思う。
兄貴、なんでそんなことやってんだ。
そんな言葉は口から出る前に丸呑みしてしまった。まるでこれが夢なんじゃないかなんて思ってしまったくらいだ。確かに、確かに兄貴は寝言を言っていた。そして、呻いていたのは獣でも悪党でもなく、兄者だった。だけどこんなのって、こんなことが起こっていただなんて誰が想像できるだろう。
隣に寝転んで安らかに眠っていたはずの兄者は、うつ伏せになって、自分の服の袖を噛むようにしてふうふうと息を殺していた。いつもぼんやりしていて、ときどき鋭い意志を宿す深緑の目は今にも涙がこぼれ落ちそうなほどに潤んでいるように見えた。それは俺の目がまだ暗さに慣れていないから錯覚を起こしたんだと言い訳するにはどうにも苦しくて、たまらず目をそらした。いつもあまり揺らがないあの瞳が、あんなにどろどろになっている様子を俺は今まで一度も見たことがなかったんだ。
「......もう少し、静かに」
その囁き声は兄者の背中に覆い被さるようにしている兄貴から発せられていた。兄貴の右手は兄者の服の合わせ目に突っ込まれていて、もぞもぞ何かを行っているようだった。それが何か分からないくらい幼かったら、まだ救われたのかもしれない。けれど俺にはそれで何が起こっているのかよくよく分かってしまって、そして全てを理解してしまって、ぞわぞわと背中の辺りを変な感じが駆け巡った。まさか、まさかのことだった。
慣れてきた目は、いよいよその悪夢の詳細をはっきりと写すことになった。俺は別にそれを望んでいなかったし、出来ることならこのまま寝てしまえばよかったのだけれど、何故だかそこから逃避する気にはなれなかった。兄者のあの目を見てしまったせいだろうか。あの、溶けてぐずぐずになった目が頭から離れない。朝も昼も夜も、一緒に過ごしてきたはずの兄者の姿が、俺のなかでどんどんぶれて歪んでいく気がした。まるで初対面の人間のようだとさえ思える。
兄者の気に入りのゆったりとした服はもうめちゃくちゃになっていて、腰帯と黒の下履きは床に打ち捨てられていた。それでもかろうじて袖に腕を通したままだったので、兄者の肌があまりさらされていないのは幸いだったと言える。薄明かりでもよく見える兄者の白い肌は今の状況じゃあ娼婦のそれにも似て目に毒だったし、なによりそれを這う兄貴の手が見えてしまうのは嫌だった。もしそれが直接はっきりと見えていたら、俺は頭がどうにかなっていたに違いない。
「......っ、ふ、んんっ」
腕が動くたび兄者の体はぶるぶると震えて、顔はいっそう袖に押し付けられた。どうされているか、後ろはどうか、それを見る勇気は無かった。代わりに俺は恐る恐る、兄者を暴かんとする関羽の兄貴の顔を見ようと目を動かした。こんなことをするやつが、どんな表情をしているか知りたかったからだ。俺の知らない間に二人は義理とはいえ兄弟の枠を越えてしまったのか、それとも単に昂った性欲の処理を二人でやってるのか、兄者のどろどろの熱に浮かされた顔では分からなかった。
一瞬、一瞬だ。それだけでもう十分だった。ちらりと盗み見た兄貴の顔は、愛する人へ向ける慈しみの色にも染まっていない。かといって性衝動に駈られた獣の顔もしていなかった。そこにあったのは冷たい、ただいつもと変わらない兄貴の顔だった。兄貴は俺の捕ってきた猪や鳥をさばくのと同じように、兄者の体を暴いているように見え、俺はそれが恐ろしくて、ぎゅっと目をつぶる。
兄貴、なんでそんなことやってんだ。そんな怖い顔して、なにがしたいって言うんだ。事態を飲み込めない頭のなかをそんな言葉がまたぐるぐると回った。そんなふうに回る言葉の合間に、目を閉じたせいで過敏になった耳にぐちぐちだのぐちゅぐちゅだのいやらしい水音が入ってきて、たまらずまた目をうっすら開けてしまった。目を閉じても、開けていても、悪夢を見ているみたいだ。これじゃあ何も見なかったことにして寝ることもできやしない。
兄貴たちの間に言葉はほとんどない。こういう行為ではお決まりの「愛してる」とか「好きだ」とか、そういうことを聞けたなら、もしくは兄者の「嫌」とか「止めて」とかいう言葉を聞けたなら、俺はそれに名前をつけてやることだってできた。なのに、兄者は袖を必死に加えて悶えるばかり。兄貴はただそれを見ながら、兄者に手を這わすばかり。
「ッ、ん! んんん、う、うーーっ!」
不意に、兄者の声が甲高いものに変わった。丸まるように曲がっていた背がぐいと反らされるようにして跳ね、それでも必死に口を抑えて息を殺そうとしていた。達したんだろうか。兄貴の手の中で。そんな悲鳴は一瞬のことで、すぐに荒い吐息に戻る。隣で眠っている俺に聞かせまいとしているのだろう。残念ながらその俺は起きてしまって、寝ることも出来ず視姦行為を行っている。こんな悲しい事ってない。兄貴はそんな兄者を抑え込むように、ぐっと背を折り曲げて背後から兄者の耳元に顔を寄せて、ささやいた。
「......入りましたね」
俺は顔がかっと熱くなるのを感じた。兄者は達したんじゃなかった。今、本当に兄者は、兄貴の。そりゃあ、こんなことしてりゃあそうなるのが当たり前なんだろうけど、頭の中で考えるのと現実に起こっていることを見るのではわけが違う。下半身に目をやるまでもない。しばらくして始まった規則的な、そして生々しさをもった動きがそれを証明していた。
強くて優しくて時々抜けている俺たちの兄者が、なすすべもなく奪われるように犯されている。世の平和を願い正道をすすむ高潔な人間が、後ろに男を咥えこんで鳴いている。しかもそれは取るに足らない見知らぬ男ではなく、恐ろしく普段のままの関羽の兄貴だ。俺は兄者が、その体の奥の方まで兄貴に貪り食われているのをただ見ることしかできなかった。どうしたらいいのかわからない。全部兄貴の顔のせいだ。兄者の衣が引っかかったままの俺たちのに比べると細い腰に手をかけて揺さぶっている今でも、兄貴は平然としている。感情をどこかに落っことしたみたいに冷徹な表情でぐずぐずにとろけた兄者を見下ろしている。兄貴は黙って兄者の腰をひっつかみ、腰を動かした。それに合わせて兄者は切なく鳴いた。もう俺は起きてしまっているから、必死に声を抑えようとする兄者の徒労に同情して、せめてあまり見ないようにと寝返りをうつ振りをして背を向けた。幸い二人は行為に耽っていて、俺が起きてしまったことは悟られずに済んだのだった。
・・
朝起きると、まるで何もなかったような風に兄貴は野菜を切っていた。兄者もあんなことがあったのに平然としていて、ほんとうに何もなかったかのように思われた。あれは夢だったんだろうか、なんて何度も何度も目をこすったくらいだ。
でも俺はどうしてもそれが夢には思えなかった。どうしても真実を確かめたくて、でも直接聞く勇気もなくて、俺にしては臆病とも言えるほどに遠回しに、兄者に聞いたんだ。関羽の兄貴には聞こえないように、こっそりと。
「兄者、兄者は......」
関羽の兄貴のことが好きなのか? その質問が、兄弟愛としての「好き」という回答を求めているように見えないように、真剣な表情をしてみせたつもりだった。それは二人の兄が昨日みたいなことをしていることを知っているぞ、という通達にもなってしまうことは重々承知の上だった。
「愛していますよ、大事な義弟ですから。もちろん、お前も」
なのに兄者はすこし目を丸くしたあと、俺たちの兄としては百点満点の答えをさらりと返してきてしまった。
返す言葉も見つけられないまま、俺は押し黙った。その目の前では、兄者ひとりが、全ての事態を腹のそこに収めてしまいこんでいるという風に、とろけるような笑みを浮かべていた。完璧な、いつもの兄者の笑みだった。
・・
地には戦の跡が残っていても、空には星が瞬いている。俺はそれを見上げて、ため息をついた。
あれからすぐに、関羽の兄貴の心は知れた。兄貴は賢人ぶってるくせに、本当は俺みたいに体が先に行動してしまう正直な男だから。ちょっと気を付けてみれば、兄者への重っくるしい愛情でできた化け物が兄貴の中にすんでいることくらいお見通しだった。
けれど、兄者は。兄者のことはさっぱりだ。あの日なぜごまかしたのか、なぜあんな顔で笑ったのか分からない。兄者にら俺にどうして欲しくて、あんなことをいったのだろうか。あの日からずっと俺は同じ悪夢の中、身動きがとれないままでいる。
おわり