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​ほだし

​​(空独 2019/10/20時点)

 君が死ぬときのこと考えたんだけど、と独歩はほとんど寝そうになりながら言った。
「俺は仏教のことよく知らないからよくわかんないんだが、まあ君も俺も人間だし、死ぬときは死ぬだろ」
「そりゃそうだがよ」
「それで、死んだらさ。葬式が行われるわけだ」
「ああうん」
「そしたら、君は花に埋もれて棺桶の中だぞ。ご丁寧に化粧なんかしちゃってさ。で、俺は僧侶じゃないから君にお経をあげたりもできないし、まあできて焼香くらい。それでさあ。君はどうせ火葬だろうし、燃えちゃうだろ。そんな、燃やすなって言える立場でもないしさ、俺」
 独歩は、うとうとしながら自分の胸あたりにある空却の頭をなでた。さりさりととんがった短髪が芝生をなでたときのような感触を独歩の手のひらに与えた。
「燃えたら、まあ燃えちゃったなあ、位で。特に何もできることもなく葬式はおわっちゃうわけだ」
「そらそうだろ。葬式ってのは儀礼だから、やること終わったら終わる」
 でっぱった後頭部をなでられるのが子供扱いされているようで、不服を覚えた空却は、独歩のはだかの胸から飛び出して布団をまくり、いつもの作務衣を羽織るだけ羽織った。
「ねえお坊さん。遺灰って食ったらだめかな」
「は?」 
 その姿を、独歩はいっそどこぞの詐欺師とでも言った方がいいような、悪巧みをかくしもしない意地の悪そうな薄笑いをして、誘い込むような瞳で見た。如来の目は青だというが、その淫蕩な色をした色は、その青とはいいがたかった。
「ああでも、君のは聖灰になっちゃうのかな。いや俺には宗教的な側面はわからんのだが。遺灰って言ったって、主成分はカリウムやカルシウム、マグネシウムだし。食えないことはないだろ」
「食えるくえねえって、食わねえだろ」
「じゃあ毒島さんのキャンプで、たき火の着火剤として使うさ」
「テメエ、おとなしそうに見えて、結構言うことが乱暴だぜ」
 でも、君は成仏してしまうんだろう、と独歩ははっきりせずどうにも心許なげに言った。これがいわゆる寝物語にするものか、と空却はすこしあきれて、でも自分は彼のそういう、たまねぎの皮をむくように、奥ゆかしく夢想的な性格が好きなのだ、と思えば、独歩のその憂慮でいっぱいのかんばせもただただ愛しい。
「君は成仏して、彼岸に行ってしまうのなら、残った灰くらい俺にくれたっていいものを」
 そう、観音菩薩の名前を冠する相手が、欲しい欲しいと可哀想になるくらいに言うので、空却もこれは笑うしかなくなって、「テメエは本当に、拙僧のほだしだなァ」とそのやわらかい頭をなでた。

 

 

おわり

 

 

 


あとがき
なんかしらんがセックスしてた
ほだしー出家の妨げ
 

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