top of page

​家畜がこいびと

​​(左独 R18 母乳がでる坂)

「牛乳がどこからやってくるか知っていますか」
 観音坂独歩が、碧棺左馬刻の持っていた牛乳パックを見て、なんでもないことのよう質問した。そんなことは当たり前で、牛乳は牛の乳なのであるからして、牧場からやってくるのだ。わからないものなど、一握りしかいまい。
 馬鹿馬鹿しいことを聞くやつだな、カタギってやつはいつもこうなのか? と交友関係に独歩以外の「テンプレート的に真っ当な」人間がいない左馬刻は首をひねった。
「牛のとこからだろ。牛乳の出所がわからない俺様だと思うか?」
「いやまあ、そうなんですけど。乳牛って、なんかの薬をつかって乳が出るようにしてるわけじゃなくて、妊娠出産をばかみたいなスピードでやって、搾乳できる状態にするんですって」
「そりゃえれえことだな」
「でもヤクザのみなさんだって貸し付けと取り立てを繰り返して、利子で資金繰りするじゃないですか。牛だって同じですよ。妊娠だろうが取り立てだろうが、繰り返し繰り返しひたすらにやっていくとするでしょう。そしたらだんだんそれは作業化していって、自分という自我は消えてそこにはそれを機械的におこなう感情のない生物がうまれるんですよ」
 ぶつぶつと薄気味悪いことをいいながら、独歩は左馬刻の渡したミルクコーヒーを受け取って一口飲んだ。
「こう、テメェはよ。恋人と事務所に二人きりでいるっていうこの状況になにも感慨がねえみたいだな」
「すいません、ほんとに。雨宿りさせていただいて。後日お礼をいたしますので……」
「そうじゃねえよ」
 左馬刻としては、恋人と二人きりで緊張しているとか、そういう思春期的なあまずっぱいものを望んでいるのだが(かれはそういうところは純真なのだ)、どうも相手はそうではないらしいということがわかった。
 どうにも調子が狂うので、左馬刻はイライラして大きなため息をつくと、ポケットのなかでくしゃくしゃになっているメビウスを一本取りだして、口にくわえた。クスリは大嫌いだが、ヤニは好きだ。これくらいの気晴らしがないと、任侠の世界などやっていけやしない。そもそもとしての面倒くささが異常なのに、跡取りがいないというクソジジイに、若頭なんていうめんどくせえポストに据えられて(そこはどう考えても本来もっと年期の入ったヤクザモンが入るべきだった)、あきれるくらい面倒ごとが多いのだ。
「つまり、なにごとも繰り返してルーティーンになっていくと、人間って機械化してしまうんです。つらいとか苦しいとか、そういった感情がなくなってくるんですよね」
「だからテメエはその労基法違反しまくってる仕事がつらくないって、そういうことがいいてえのかよ」
「それはそうなんですけど、ぞういうことじゃなくて……」
 独歩はどういったものかと言いあぐねている様子で、しばらく空っぽのマグカップを見つめていたが、しびれをきらした左馬刻に背中を膝で軽く蹴られ、催促されて口に出した。
「俺、子供の頃、弟に授乳してたんですよね」
「はあ?」
 どこからその話が出てきたのか一切わからない左馬刻は、突然のカムアウトに間抜けな声しか上げられなかった。頭にうかんだのは、おさない子供に哺乳瓶をくわえさせる観音坂独歩の姿であった。左馬刻も、妹の合歓がまだおさないころは粉ミルクをぬるま湯で溶かしてのませたりもしたものだ。
「いや、俺の母忙しくて育休とれなかったんですよね。それで長男の俺が、そのころ活発だった、男性の乳腺を発達させて代わりに授乳させようっていう一種の実験計画にぶちこまれたんです」
「……なんだそりゃあ」
 独歩はそれからエストロゲンがどうのだとか、唖然とする左馬刻を置いて説明を続けた。
「あ~、つまり、テメエはその、プロクラスチンだとかなんとかのホルモン注射で? 乳牛みてえにじゃばじゃば乳をだすミルクタンクになったっっつーことか」
「碧棺さん、おめでとうございます。大正解。そういうことです。今考えたらそれ子供の自己決定権の無視だろって思うんですけど、まあ毎日毎日やってればね、苦しいとか恥ずかしいとかもうどうでも良くなるんですよね。無心って最高なんですよ、何も考えなきゃつらくもない。弟はかわいいし」
「……そうかよ」
「そんなもんですよ。碧棺さんだって、ヤクザになってから人を殺したことだってあるでしょう。それがもし毎日のことになったら、それはもはや日常じゃないですか」
「授乳と殺人を一緒くたにするやつは初めてだっつーの」
 そう言いながら、左馬刻はちらりと独歩のスーツの胸元を見る。ペラペラの胸板から母乳といわれるような、そんなものが出るようなことはどうにも想像しがたかったが、そう言われると確かめたくもある。
 そもそもとして、恋人とはじめて、そう、はじめて! 左馬刻の個人事務所とはいえ個室に二人きりというシチュエーションで、ひょっとしたらこれはもしかしなくても一線を越えることができるのかもしれないなんて極道の男にしてはかわいらしい淡い期待を寄せていた左馬刻としては、どうにかしてこのトンチンカンなあほくさい空気から、そういう色っぽいことに持ち込みたい、というのが本音だった。 
 こんなすがたを舎弟どもや銃兎にみられようものなら向こう一年は笑いものにされてしまうだろうが、惚れた弱みであり、そしてその恋に効く薬などどこにもないのだ。
「いやもうこの年になるとね、あ~胸が張ってきたなと思ったら、風呂場で搾って出しておしまいですよ。みじめさとかもうないですね。無心最高。解脱ってこういうことなもしれん」
「勝手に即身成仏すんじゃねえよ」
「だから、碧棺さんも、そう。乳の出るアラサー男とアナルセックスをね、するとして、まあそれもいつかはルーティンになりますから。気持ち悪がらないで、心をね、殺して……くださったら結構なので……そのね、あはは」
 へら、とへたくそでいっそ不気味と言える笑いを浮かべた独歩は、言うなりそっと荷物をまとめて「それでは」ときれいにお辞儀をして事務所からでようとした。
「おい待てや」
「ヒッ!!!!」
 その頼りなさげな肩をがっちりつかむと、左馬刻はドスのきいた声で「なに帰ろうとしてんだ」と凄んだ。
「ああ! すみませんすみません! ほんとに、自分が家畜同然の汚らわしい生き物だって言うことを隠して恋人になんかなってしまってスミマセン! ああ! なんてお詫びしたらいいか、乳が出るといっても、分泌量は人並みにしかなくて畜産には向かないのでどうかお手柔らかにしてください、俺には先生も一二三もいるのでどうかあの、命だけはお助けください……好きになってしまって申し訳ないです家畜の分際で!!」
「ああ……!?」
 この態度には左馬刻の堪忍袋の尾もぶちりと切れてしまった。自分が慈悲で付き合っていると思われていたのは心外であるし、なにより左馬刻がきちんとこのしょぼくれたサラリーマンのことをかわいいと思って好きでいるという気持ちを詐欺師の出してくる契約書並みに信用していない、ということに腹が立ってしかたがなかった。
「おいクソリーマン、テメェよ……。ヤクザがカタギに手え出すっつーのに飽きたらポイ捨てなんて、生半可な気持ちでやると思ってんならさっさとその腐った脳ミソをとりかえてもらうんだな。……いいじゃねえか、そんなら今からその『家畜』と獣姦としゃれこもうぜ」 
 ひ、と悲鳴を溢す独歩のネクタイをリードのように持ち、引っ張りあげると左馬刻は意地の悪い笑みを浮かべた。


・・・

「なんだ、もうびしょびしょにしてんじゃねえか」
「あ、えっ、なんで……。んぁ、あ!  さきっぽひっぱらないでください!」
「おーおー、出る出る」
 ジャケットを脱がされ、ストライプのワイシャツ一枚も姿になった独歩は、背後から抱え込まれるように左馬刻に胸を執拗に責められていた。
 布と擦れる胸の先端を親指と人差し指できゅうとつねられれば、まるで独歩の胸はそうされるのを待っていたかのように、シャツの胸の部分をじわりじわりと白いほとばしりで濡らして、はしたなくその濃い肌色の部分を透けさせてみせるのだった。
「まだ服の上から軽くさわっただけじゃねえかよ」
「だって、こんな、自分でやるのと違いすぎますっ」
「やらしいなあ、なにが無心だよ。ほんとはいつもここでオナッてんじゃねえのか?」
「そんな、そんなことないで、あっやだ、ひっ、ああっ!」
「弟におっぱいあげながら、そんな風にみっともなく喘いでメス声だしてたんじゃねえのかよ」
「ああ……ああ……、言わないでください、言わないでっ!」
「ミルクのにおいぷんぷんさせて誘ってるくせに、なにが無心で解脱だって?」
 そうして、独歩の恥じらいを煽るように、耳をべろりとなめ、そして乳首のまわりにはしる乳腺を刺激するように平たい胸をむにむにと、そこにまるでミルクがながれているのを知っているかのようにもみしだいた。
 そうして、絞り出された母乳が、びゅうびゅうと勢いよくシャワーのように飛び出すたびに、独歩はたいそうよがり狂った。アラサーの男が、年下の男に絞られて母乳を出しているなんていうみじめでどうしようもなく恥ずかしい光景がそこにあると頭でははわかってはいるものの、もうすでに独歩の体は、他人に乱暴とも言える手つきで搾乳されるよろこびというものを完全にわからされてしまっていた。
「気持ちいいか? 弟のために後生大事にとっといたもんを、淫汁として消費されちまってよ」
 そういう独歩の体のこともすべて分かっているという風に、左馬刻はことさら強く乳首をつねりあげた。
「あ、ん~~~~~~~ッ!!! あ、あおひつぎ、さ、あ、やめっ、んはあッ!」
「きもちいいか?」
「や、あん、あ、き、気持ちいいですっ」
「なにが? 詳しく言えや愚図が」
「その、あおひつぎさんに、俺の、はしたない家畜おっぱいをさわっていただくのが、気持ちいいです……!」
「そうだなあ、こんなの、恋人の俺様じゃなきゃみせられねえよなあ。テメエの、経産牛以下のだらしなくてみっともねえ姿をよ」
 そう言うと、左馬刻は張り詰めた凶悪な肉棒を独歩の尻のあわいにすりつけながら、ミルクをたれながす勃起乳首に大きくかぶりつくと、はむはむと甘噛みをして、それからじゅうううと吸い付いた。
「あああッ、吸わないで、吸わないでくださ、あ、ああん、んッ、ん~~~~~~~ッ!!!!!」
「あっめえ、こんな甘いもんだっけか?……イったのか。俺様に吸われてイキながら、ミルクたらしやがって、こんなんでイクくらいなら、赤ん坊に授乳しながら発情してたんじゃねえかよ、くそ雌牛」
 びくびくと震える独歩が達したのだと察知した左馬刻は、執拗に乱暴な言葉をかける。責められながら、後ろにずりずりと擦り付けられるものに気づいてしまえば、すっかりぐずぐずになった独歩はねだるように尻を押しつける動きをするほかなかった。
「どうした、なんもしてねえのに母乳ぴゅうぴゅう噴き出して」
「あおふひつぎ、さん。だましててすいません……。でも、勃ってくれてうれしいです。ねえ、こんなからだで構わないなら、おねがいだから、抱いてください……」
 好きなんです、こんな変な体質でも、好きでいてくれますか? 独歩の口からこぼれた問いには、左馬刻は答えずただその口をキスでふさいだ。

・・・

「独歩、独歩……、なあっ」
「ふ、んッ! ああっ、や、……、あおひつぎ、さん! くるし、おなか破けるっ」
「る、っせえ! 俺様もいっぱいいっぱいだっつうの!」
「ふぐっ、はあ、あっ! 出てるっ、出てるから……! 動いたらおかしくなる!」
「びゅうびゅうだしやがって、事務所がミルクくさくなったらテメエのせいだから、なッ!」
「はああん! 乳首、ぐりぐりしたら、だめですッ!」
 事務室の奥にある、大きめのソファの上でバックから左馬刻は独歩を犯した。処女地を乱暴に踏み荒らすのは気分がよく、そのうえ相手がどういうことか淫乱だというのだから男の征服心や独占欲というものをこの上なくみたした。
「あ、あっ、そこもう行き止まりだから! つかないでくださ、あ、またイクッ! あおひつぎ……さん……! もう、つよい、つよいからっ」
 左馬刻の亀頭と、独歩のS字状にうねった結腸への入り口の肉の輪がまるでキスをするようにちゅうちゅうと吸い付いている。
「おい、出すぞ、聞いてんのか」
「はい、ありがとうございますっ、しっかりいただきますっ」
 まぐわったまま、左馬刻はたっぷりと射精をした。
 これではらめば、乳のみ子もできてよいのになあ、と揶揄するように左馬刻がいうと、独歩は、「碧棺さんの子なら、ほしかったなあ」というのだった。

©2019 by NEEDLE CHOO CHOO.com。Wix.com で作成されました。

bottom of page