きたないきれい
(TT5 探納 あざについて)
ゲーム開始を待機していると、となりに座ったイソップ・カールがなにかもの言いたげにちらちらとこちらを見てくるので、ノートン・キャンベルはためらいがちに口を開いた。
「なにか?」
険のある言い方にしたつもりは全くないが、イソップは自他ともに認める社交恐怖症であるから、びくりと肩を跳ねさせ、おどおどとまわりを見渡すと哀れっぽく「キャンベルさん」とか細い声で言った。
「僕の顔になにかついてる?」
「ああ、いや。キャンベルさん。違うんです……違うんです、いや、これからゲームですから、少しでも顔を見ておこうかと……。そう、そう思っただけなんです。本当に、それだけで」
「そういうことか、顔、見ておくかい」
「僕、本当に人の顔が覚えられなくて、すいません。見てもすぐ忘れてしまうと思います……生きてる人の顔、怖くて。ただ、キャンベルさんは、納棺するときどうしたらいいのかと、そう、思って」
ぶつぶつと、挙動不審で早口ぎみに話すイソップは、なるほど明らかに対人コミュニケーションは慣れていなさそうだとすぐにわかった。ノートンは、つとめてやわらかい態度をとって、「どういうことかな」と続けた。
「いやあの、その。キャンベルさんはお顔にアザがあるでしょう。ふつう、そういうアザがある方は、死化粧で消してしまうんです……。ご遺族の判断にもよりますが、だいたいはきれいな、生前のお顔にするんです。でも、キャンベルさんは、生きているでしょう。だから、困っている、そうとても困っているんです」
ノートンは、じぶんの茶色く変色した顔の皮膚を触った。これにまつわる記憶は、あまり人に話したくないものだ。ノートンが機嫌を悪くしたのを過敏に感じたのか、イソップはもう怯える小動物のようにのっぽの体をちぢこまらせて、「ああ、ああ、すみません。すみません」と謝った。
「気を害してしまったなら謝ります。キャンベルさん。でも、もしあなたが望むなら、僕はその顔を綺麗になおしてさしあげることができます……。人形への化粧でも、もちろん、あなたの顔に直接でも……」
「それが正しいと思うかい? うそでもきれいなほうがいいときみは思うのか」
責めるような声になるのをノートンは感じていた。イソップは、善意でいっているのだろうが、ノートンには侮辱に感じられ、腹が立ったのだ。
「それは……、それは……。みにくいよりは、美しいほうが喜ばれますから、そうだと思います」
「じゃあ、これは醜いかい」
「そんな、醜いなんて。ひきつった肌が、なんだというのでしょうか。『いきものとして醜い』よりはずいぶんましですよキャンベルさん……。ただ、なおせるものは、なおしてしまっていいという、そういうだけの話で……すみません。出すぎた真似をしましたね」
それきり、イソップはだまって机に顔を落とした。親切のつもりだったのだろうな、とノートンは考える。
パリン、と音がどこかで聞こえた。ゲームが開始する合図だ。磁石を握りしめ、ノートンは目をつぶる。いきものとして醜いとは、どういう意味なのだろうか、小綺麗に見えるイソップの、致命的な醜さとはなんだろうか。ノートンはもし、叶うなら目の前でそれを暴いてやりたいと思った。
それを取り出して見たとき、どれほど高揚するだろうか。ノートンは自分の焼けた肌を触る。
おわり
あとがき
五億回かかれてそう