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​みないひと

​(TT5 配納)

 ビクター・グランツは、無口で、ひととコミュニケーションをとるのが苦手だった。なにかをしゃべろうとしても、吃音のような、つっかえつっかえの喋り方しかできないものだから、当然じろじろと見られるはめになり、付随的に人に見られるのもあまり得意とは言えなくなっていった。
 ただ、ビクターは手紙を書くことはすきだった。自分の障害をきにせずすらすらと思いを伝えることができるので、当然かれはそれを使ってコミュニケーションをするようになった。
 したがって、荘園にたどりつき、サバイバーの仲間と顔を会わせたとき、ビクターは真っ先に一枚の名刺を取り出して見せた。 
【ビクターグランツ。話すのが得意ではありません。連絡は手紙でお願いします】
 そうしてつとめて笑顔でビクターがお辞儀をし、愛犬をつれて去ると背中にいくつもの視線が突き刺さり、人一倍人目を気にする彼は身が震えた。
 そんなビクターを見ようとしないひとがいるのを、数日して彼は気づいた。
 イソップ・カールという、初日に一通きり【イソップ・カールです。職業は納棺師。よろしくお願いします】とだけ書かれた簡素な手紙をよこした男はマスクをつねにつけていて、高い背を丸めぎみにし、ひとの集まるところを避けていつも座っていた。
 ビクターが共用スペースに現れると人々は彼をよく見ようとしたものだが、イソップは寧ろ、目をそらし怯えるようにすがたを消してしまうので、話すのが苦手なだけで別段人が嫌いなわけではないビクターは『自分を見てこない』彼ととくべつ仲良くなれたら、きっと親友になれるかもしれない、と思ったのだ。
 そうして飛んで帰った自室で相棒に餌をやりながら、ビクターはイソップに手紙を書いた。あの気弱そうな青年について知りたいことはいくらでもあって、彼は興奮ぎみに紙にインクを走らせた。そして、書き終わると自分の好きな花を、押し花にしたものを添えた。とにかく自分がされて嬉しいことをしてあげようと思ったのだ。
「ウィック、頼むよ。届けておいで」
 パートナーの配達犬に書き終えた手紙をくくりつけながら、ビクターは彼から返事が来るといいなあと強く願った。 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき
見られたくない人と、見ない人だから仲良くなれます(?)

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