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​罪の影法師

​(TT5 傭納 モブとの行為を匂わせる表現あり 暗い!!!! R18)

 ナワーブ・サベダーは、いやな耳鳴りがして目が覚めた。今日はもうあの悪趣味なゲームはないはずだし、そもそも自分はメンバーに選出されていないから、その音がするはずもない。
 だのに、あの暗号解読機のガタガタ、ギイギイという気味の悪い騒音が、ひっきりなしにしていてナワーブの気分を悪くした。
 それは彼に戦場のことーー血なまぐさいあの罪の記憶をフラッシュバックさせるので、おそろしくておそろしくてたまらなかった。どうにも一人でいたくなくて、ナワーブは爪を噛みながら共用スペースに震える足で向かっていた。
 夜遅くであったから、無論共用スペースには誰もいない。たのむからだれか起きていてくれよ、というナワーブのため息が室内に反響した。
 うわんうわん、という耳鳴りは、暗号解読機の音からどんどん戦場の雑踏だとか、悲鳴や怒号、泣き声、命乞い、そういうものに変わって、いよいよ気分が悪いどころの話ではなくなってくる。
 ああ、助けてくれ! 助けてくれ、おれは別にこんなことがしたいわけじゃなかった、違う、生きるためにはそうするしかないだけで、人殺しとは違う! 殺したじゃないか、殺したじゃないか俺は、いや、違う、違う……!´
 そう胸のなかで唱えても、彼を責める幻聴は大きくなるばかりでどうしようもない。ナワーブはふらふらとした足取りで椅子に座ると、テーブルクロスに向かって「ちくしょう」と悪態をついた。グルカの仲間たちが、お前のせいだと、お前が悪いと責めてくる。
「うう、ちくしょう。俺は……俺は悪くない、俺は……」
「……ナワーブさん?」
 悪夢のなかに没入しかけていたナワーブの耳に、澄んだテノールが滑り込んできた。泣き濡れた顔をあげると、いましがたゲームを終えてきただろう、ボロ服のイソップ・カールがほとんど破損した化粧箱を持って立っていた。
「……イソップ」
「ああ……今日は、僕以外帰れませんでした。他のかたは……、朝になればまたお部屋にリスポーンしていると思います」
 イソップはそれだけ説明すると、頭を下げて去ろうとした。あまり人とかかわるのが好きでないらしい彼は、びっこをひいて(足を怪我しているらしい)寝室へと帰るつもりなのだろうと思われた。
 一人でいたくなくて、ナワーブはそんなイソップを呼び止めた。
「イソップ、寝れないんだ。暗号解読機の音がして……。怖くて。すまない、俺らしくもない」
「たいしたお慰めも、できませんけど」
 イソップは、すこしの間かたまっていたが、人が怖い彼にしては珍しく、ここに留まってくれるらしかった。
「いいんだ……、今は一人でいたくない。死んだやつらが俺を責めるんだ。それがうるさくてたまらない……」
 ナワーブがフードを深く被って、恐怖に震えながらぶつぶつと言うと、イソップはまた足をひこずりながら彼のそばまで来た。そして、椅子ではなくぺたりと床に座ると、「本当に、僕にはたいしたお慰めもできないんです」と言って、ナワーブの膝に手を当てる。
「おい、座れよイソップ……。足が痛くて椅子は無理なのか」
「いや、お慰めですよナワーブさん……。それとも趣味ではないですか?」
「なにが、ーーーーおいまさかお前」
 イソップの言う【お慰め】がなにか思い至ったナワーブは、はっとしてイソップを見た。彼はただ、銀の目を細めて、それから地面に顔を落とした。
「ぼ、ぼくね、ナワーブさん。僕、養父の方針で、いちど従軍したこともあるんです。亡くなった、みよりのない傭兵さんや軍人さんを、きれいにしてあげないといけなくて」
「わかった、わかったイソップ。俺が悪かった、俺はそうしろなんて言ってない」
「それでね、ナワーブさん、僕ね……、戦場がこわい兵隊さんを、慰めてあげるのも得意だったんですよ」
 ああ、そんなことがあるのか、と、忌み嫌う戦場の象徴のようなことを言われ、ガタガタと震えるナワーブの太ももを撫でて、イソップは人前ではけして外したことがないマスクをそっと上にずらすと、ぎこちなく笑って彼の股ぐらに顔を埋めた。
「お、おいイソップ。やめろ、しなくていい。そんなこと」
「こうしたら、みんな上手だねって言ってくれるんです……。見たことないなんて仰らないでくださいよ。傭兵さんでしょう」
 そうして慌てるナワーブがイソップを押し退ける前に、彼は慣れた手つきでズボンを寛げると、萎えたナワーブのペニスをパクリとくわえて奉仕をしはじめた。
「はむっ……。ん、んっ。久しぶりに舐めるから自信ないけど、んちゅっ、どうですか」
 舌を出して、つるりとした亀頭を熱心になめしゃぶり、竿を手袋を外した手でしごかれる。直接的な刺激に、嫌でも体が反応してしまい、ナワーブは焦った。
「んちゅ、んっ、ナワーブさん意外と大きいですね……、僕の顔くらい、あるんじゃないですか? 男の子で、きちんと兵士さんです。だから平気ですよ、んふっ、あむ、興奮してきました?」
「や、やめろ、イソップ! イソップ、聞いてんのか、おい……! ん、やめっ、なあっ」
「いやです。……さ、さいていですよねっ。でも、僕をね、こんなにしたのはきみたちなんですよ。ナワーブさんだって、こうやって、僕みたいなひとを無理矢理駐屯地で抱いたでしょ。卑しいイソップはっ、人間なんかじゃないんです……。荘園に来て、人間扱いしてもらっても、だめなんですっ。人間以下に一度されてしまったら、戻れるわけ、ないじゃないですか……」
 ナワーブは黙った。イギリス兵や、傭兵のなかまには最低なやつらがいて、落とした村の女を抱いていたやつもいた。
 つまり、イソップもその被害者なのだろう。ナワーブの罪の象徴みたいなそいつに、彼はなにも言えなくなってしまった。
「んっ、ナワーブさん、おつゆがたくさんでてきた。よかった、ちゃんと気持ちよくできてるんですね。はあっ、これ、久しぶりだから……っ、すっごい……」
 ずらしたマスク越しに、とろりと目をとろかせてイソップはナワーブの肉棒に頬擦りする。
「お願いです。お慰めしますから……。僕のからだってね、人間の皆さんに屈服するためにあるって、ジェイが、皆さんが教えてくれたんです。僕ももうね、浅ましく発情しちゃってるんです」
「お前、どんな人生送ってきたらそんな」
「どんな人生? 僕にとっては普通ですよ……。ね、ナワーブさん。夜が怖かったら、明日が来るまで僕がきみのそばにいますから」
 だから、僕にお情けをくださいよ。
 眼下には、美しい青年の情欲に濡れた顔があった。マスクもなく、ほかの誰も見たことないイソップの哀れな顔といったらなかった。こんな人間を産み出してしまう、俺たちとはなんなのか、鬱々としながら、ナワーブはイソップを自分の部屋に連れ込んだ。
 そうしてやるしかなかった。みじめになるから、そんなことをしないでほしいなど、ナワーブの立場で言えるはずもなかった。
「ナワーブさんが、気が進まないのは分かってるんです。でも僕はだめなこだから、仕事ができなきゃ、こうするしか生きてる価値がないんです……。ね、ナワーブさん……」
 戦争はクソだ。ナワーブは舌打ちをして、そういうイソップの口をふさいだ。

 

 


おわり

 

 

 

 

 

 

あとがき
 傭兵なんて職業のやつが、女子供美少年を食ってないわけないだろがよ!!  と思いました(最低ないいわけ)
 

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