荘園教室
(TT5 ルキ納 ジョゼフと)
「君、あの魔トカゲと仲が良いんだって?」
ジョゼフは、写真機を分解掃除しながらイソップに聞いた。イソップは化粧箱のなかに突っ込んでいた顔を上げて、怪訝そうな表情を見せる。口元が見えないから、表情に乏しいように見えるがどうもそのぶんイソップの瞳は雄弁だ。
「ルキノ先生となかが良いかって……、ハンターと仲良くするサバイバーがあるものですか」
「でも君ってば、私じゃなくて彼と話すのが好きなようなのだもの」
「あのねえジョゼフさん、僕は生きてる人間が苦手って言いましたよね」
「"生きてる"って言うんだね、私たち(ハンター)のこと」
青く白目のない、光った石がはまっているような目を細めてジョゼフが皮肉ると、「しゃべる死体はありませんよジョゼフさん。死体ってのは厳かでなくっちゃ」とイソップは淡々と返した。
「単に彼が――、僕の修復技術や保存の知識に興味津々ってだけです。もとの姿さえわかれば、戻せますからね、僕は。生物の標本や復元なんかにも応用できるようで」
「ふうん。まあ研究狂いなあいつのよく考えそうなとこだね。でもなんだって彼に肩入れするんだい。私にも構っておくれよイソップ」
「あなたのやることっていったら、美味しいお茶と、お菓子と、お話じゃないですか。言ったでしょう。社交は苦手だって。それに、上流階級めいた遊びは身の丈にあいません」
いつだかなんだか、豪奢な服を着せられてピアノを弾かされたのを根に持っているらしいイソップは、じとりとジョゼフをにらみつけた。ワルツもピアノもやれるくせして、見せたがらないのは宝の持ち腐れだとジョゼフは不満そうに口をとがらせる。
「だって彼は素敵ですよジョゼフさん。おおよそ人のかたちをしていないし、賢い方です。この間、魚の透明標本を作らせてもらいました。骨が光るんですよ、とてもきれいで」
「それで、彼の研究助手になるって? トカゲと君のコンビって、なんだか嫌だよ私は」
「なるなんて言ってませんよ」
「だってルキノがそういうんだもの、親愛なる助手カールくんって。かわいいのかね生徒が。やんになるよもう。まあ、元々は人間の彼がうろこを剥ぎたいっていうなら、君しかいないとは思うけども」
「いやそれは、僕じゃどうにも……」
それを言うと、イソップは少しすまなそうな声で、「堅すぎて削げなかったし、そもそももとの写真でもなんでも、姿がわかるものがないと僕にはどうにもできませんから」と返した。ジョゼフは、ああ、もう試したのか、と、察しがついてこの話題を取りやめた。
「ルキノに先生お勉強教えてってしててもいいけどね、あんまり肩入れするもんじゃないよ。ハンターなんだしさ」
「それあなたがいいますか?」
「だって私は責任のとれる大人だもの。君もコレクションにしたっていい」
「うえ、遠慮させていただきます。それなら助手に就職しますよ……」
「冗談だよ! オタクはどうしてオタクとつるみたがるのかね。私とも遊んでったら」
大人げなく言っても、イソップはもう返事をしなかった。ふてくされたジョゼフがすっかり組み上がった写真機を不備がないか見ていると、イソップも化粧箱の点検を終えて片付けを始めた。
「いやですよ、ジョゼフさんとは、こうしてお互い精密なものをいじくって話しているくらいがちょうど良いんです僕」
「やだよイソップったら。君とはゲームでも”遊べ”ないし」
「あなたがハンターになりそうなゲームにいく馬鹿じゃないですよ」
うんざり、という態度を隠しもせず、イソップは鞄を手に立ち上がった。