仏罰なんてくそくらえ
(空独 ドラゴン×人間 えちえち)
「おいこらドラ息子! きちんと掃除をせんかい!」
あさ四時の境内に、頭のかたい灼空の怒鳴り声が響いた。ご近所迷惑だろふつうにそれは、と商店街の人々のことを考えるだに不満はつのるが、どちらかというとあの人たちは面白がっているだろうな、とも思えてきてどうにも反論には根拠として弱い。
どうせ、空却くんは元気でいいですネ、なんて唐揚げやのキムさんに言われておしまいに決まっている。迷惑なんていう文字を母体に忘れてきたような人間しかこの商店街にはいないのか? 空却はブルーベリー・ガムを噛みながら眉を寄せた。
「掃除してるだろうが。ルンバがよ」
「ルンバにさせるやつがあるか、これも修行の一環だと言うておろうが。やるべきことちゃんとせい。腐っても僧だろう」
「ルンバだって掃除機やぞうきんと変わりゃしねえよ。掃除をするツールを適切に運用してるだけだろうが。アナログが一番偉い時代は終わってるんだよくそじじい」
「ああ!? そんなことを言って。自分が楽をしてどうする。修行を怠ると、仏罰がくだるぞ」
「こんなことで仏罰が下ったらよ、仏さんの度量ってのは結構狭いもんかもしれねえって思っちまうよ」
「こら、観音菩薩像に向かって舌を見せるな! 無礼だぞ!」
むんずと灼空は小柄な空却のスカジャンの襟元をひっつかむと、またいつものように布団で簀巻きにした。
・・・
「なんか今空却くんのお父さんからメールきたんすけど」
学校が終わるやいなや、獄の法律事務所に転がり込んでヴィジュアル系バンドの雑誌をめくっていた四十物十四は、ふてぶてしくポテトスナックを食いながらスマートフォンを見ると、そんなことを言った。
「あ?」
たった今トウキョウ出張のホテルをおさえようと宿泊施設斡旋サイトとにらめっこしていた天国獄は、わりあいドスのきいた声で返事をした。このクソ忙しいのに、毎日毎日当たり前のように――とくに同じラップバトルチームという免罪符ができてからはいっそうひどい――やってきては我が家のようにくつろいでいる18歳バンドマンを元ヤン仕込みのメンチでにらみつける。
「いやなんか、空却さんが大変らしくって」
「なにが? あいつしょっちゅうろくでもねえことやってんじゃねえか」
「それが、仏罰がくだったとかで」
「は?」
空却のやつなにやらかしたんだよ、という怪訝な気持ちになり、それに親の灼空からの呼び出しとあれば答えないわけにもいかず獄はパソコンをスリープモードにすると、どっこいせと椅子から重い腰をあげた。
「仏罰ってなんなんすかね」
「いや、まあなんかろくでもねえことだってのはよくわかるが」
・・・
小さめの大型犬のような大きさで、色は緑、光るうろこが頭の先から尻尾まで桜貝のように並んでいる。燃えるような赤のたてがみはふわふわしていて、さわり心地が良さそうに見えた。
「おう、よく来たな」
そんなどこからどうみても「この世の物ではありませ~~~~ん!」という姿の化け物から、波羅夷空却のダミ声が聞こえてきたので、あまりのことに獄は卒倒しそうになった。
「まあ、あのですね、こう……。私も本気で言ったわけではありませんでしたが、仏の御心でしょうか。簀巻きにしていた布団のなかが妙に騒がしいもんで開けて見たら、このありさまでして」
平身低頭の姿勢で、灼空が言う。
「わ~~~~! 空却さんかっこいいっすね! ドラゴンすか? いいなあ、自分もそういうの憧れるっす!」
「憧れんな十四!」
「まあな、俺くらいになると、ちょっと人の枠から外れちまうこともあるみたいでよ」
「なに自慢げなんじゃこのクソ息子!」
同時にぺしん、とはたかれた十四と空却は、痛がりながら顔を見合わせる。
「まあとにかく、これを直して貰う当てがあればいいのですが。たしか、天国獄さんはトウキョウに医師の知り合いがいたと耳にしたことがあります。仏罰とは申していますけれど、きっとそんなことはないでしょうから、なにか原因あってのことでしょう」
「ああ、そうですか。今日ちょうど、シンジュクに用事があって出張に行くところでして。それなら紹介するくらいできるとは、まあ、思います」
「それはよかった……。おい、ドラ息子、むやみやたらに飛ぶんじゃない!」
「十四もよろこんでねえで話聞け話を」
日本昔話のアニメオープニングのようにまたがり飛ぼうとし始めた十四と空却を、大人二人は慌てて止めた。こんな姿、どうかんがえても大勢に見せて良い物ではない。
・・・
馬鹿高い新幹線をつかうより、愛車と一緒にツーリングしたほうがよっぽど有意義だ。
バイクはいい。風を切っているときは自分と愛車だけの世界だ。
「なあ、もっとスピードでねえの?」
「るっせえ、俺は法定速度をきちんと守る単車乗りなんだよ。っていうか法律屋が刑法違反したら意味ねえだろうが」
ふわふわとなんや風船かそういう旗のようにスカジャンの腹あたりをくくりつけられ、かぜになびいている空却が声をかけてきて、獄の愛車とのタンデムは終了した。
「おまえスカジャン着てるなぞのヘビみたいな生き物くくりつけて高速を爆走するのって、めちゃめちゃ変な目で見られるんだからな」
「サービスエリアのコロッケうめえ」
「聞いちゃいねえ」
もうはやくこの、人間の範疇を超えてまでいつものペースを崩さない波羅夷空却という男をさっさと病院にぶちこみてえ、と獄は噛んでいたたばこを吐き捨てた。
「ポイ捨て」
「るっせえおじさんもちょっとはルールってやつを破りたくなるもんなの」
やけぱちになった獄は、ぶるんぶるんとエンジンをフル回転し、法定速度を大きく上回る速度で高速道路を爆走した。
・・・
神宮寺寂雷は、突然やってきた知り合いに眉根ひとつ動かさず、また、龍になった空却をみても「興味深いね」とだけ感想をこぼした。
いつだって彼は冷静で、そして不可思議なことに目がない変人だと獄は分かっていたので、「いいから、検査してくれねえか? 違法マイクっていうやつの仕業かと俺は思ってるんだが、違法なマイクってのは、肉体も改変できちまうものなのか?」
「いいえ、獄くん。それはないはずです。精神の干渉のみですから、そんな体細胞まで買えてしまうようなことはできないはすだ。一種の催眠術のように、彼が周りに龍のように見えるという幻影効果を発動している場合はべつだろうがね」
「そうか、お前でもわからないのか」
「私にはどうもコレはマイクの仕業じゃない、ということしか言えないですね。ええと、波羅夷空却くんですか。すこし長期入院をして、通院してくださいますか? ああ、でも……病院は今ベッドの空きがありませんから、どうしたものか」
ううん、と寂雷はうなる。空却は、宙をくるりとまわると「せっかくトウキョウにきたんだから、入院なんかしてないで、観光でもしたいもんだけどなあ」とのんきに言った。
「先生、ご来客が。営業の観音坂様です」
診察室の扉がノックされ、ナースから声がかけられた。そこで、寂雷はぴんとひらめいて、「いま来ている彼。私のチームメイトなのだけど。彼に面倒を見て貰いつつ通院するというのはどうだろう」とにこりと菩薩のような微笑みを浮かべたのだった。
・・・
「空却ちんうまいね~。なんかなに? ドラゴン? なのに超料理うめえじゃん」
伊弉冉一二三という、ホストにしてはいやに家庭的な男がへらへらと笑って中華鍋を揺すっている。パラパラのチャーハンが、きれいに弧を描いて炒められていく。
空却が前足で器用に包丁を握ってネギを輪切りにしていると、一二三は物珍しそうに「めっちゃきれいじゃん、三つしか指ねえのに器用だな~」
「まあ、家で散々作らされてっからなあ」
空却はぐるる、と機嫌良さそうに喉を鳴らすと、尻尾につけた数珠をしゃらしゃらと揺らして喜んでネギを切った。
観音坂独歩というサラリーマンはてっきり断るだろうと思っていたが、寂雷の言葉にはめっぽう弱いらしく即答で「了解です!」と元気よく応えていた。
陰気なやつだと最初空却は思ったが、そうでもないらしいということは同居して数日でわかった。植物の世話が好きらしく、自室に置いてある植木の手入れをしたり、園芸雑誌を読んでいるのを覗き込めば「空却くんも興味あるのか?」と言って体に空却を巻き付かせて読んでいた。
空却はべつだん園芸には興味が無かったが、まあボトルシップをひっくり返しそうになるよりはマシかと一二三が部屋にこもっているときは独歩と一緒に配信されている映画をみたり、彼が仕事でいないときは部屋の掃除をしていた。
ガムが欲しければ観音坂独歩の無駄にでかい通勤用鞄にはいっておけば良かったし(コンビニでせがめば買ってくれた)、興味本位で職場までついていったら怒られたものの弁当をわけてくれた。言動や挙動が不気味なわりに、やさしいやつなのだろうと思われた。
この生活がいつま続くかはわからなかったが、他人に面倒をみてもらうという生活は空却には存外ここちよく、もうちょっと、あとちょっと続いてくれればいいのだが、と独歩の通勤バッグの中でおにぎりをほおばっていた。
・・・・
永遠はないと呈したのは、そういえば仏陀ではなかったか。諸行無常であるからして、この生活がこの通りに履行されていくことなど、ありえやしなかったのだ。
独歩が部屋に帰ってくると、一番に飛び出してくる一二三の姿も、その後ろをするりと飛んでいるちいさな竜の姿もなかった。
おかしいな、と思いて、ダイニングテーブルをみやると、一二三のかわいらしい字で「ごめん! 今日ちょっとヘルプはいっちゃった!」という書き置きがあった。
なるほど、同居人は仕事らしい、と納得したところで、犬がくうんくうんと鳴くような鳴き声が、自分の寝室からしていることに気づく。
「ああ、空却くん。俺の部屋勝手に入ったらだめだろ……。ただいま……」
その声の持ち主がだれか分かっている独歩は、ため息をついて自室へ向かった。まるでこの先が罠と知らずに入り込んでくる野生動物のそれと似ていた。
「空却くん?」
部屋に入って声をかけると、もぞもぞと毛布の膨らみが動き、赤いたてがみの緑のへびじみた生き物が顔を出した。しゅうしゅうと息を吐いていて、尋常ではない雰囲気を感じる。なにより、彼が一度も人語を話していないのが気にかかった。
「空却くん、調子がわるそうだね。先生に連絡するから、ちょっと、まっ、て、ねええッ?!?!?!?!」
独歩が携帯電話を取りだして、寂雷に連絡しようとすると、いきなり空却は飛びかかってきた。ふしゅるふしゅると熱のこもった息を吐いて、それが彼の異常を知らせている。
「うわ、くうこう、くん! なにしてっ」
彼はもはや人間ではなかった。言葉が通じておらず、ただただ暴れ回るひとつの龍と化していた。その、どう見ても、発情しているといわんばかりのグロテスクなドラゴンのヘミペニスははみ出していて、コレをおさめてやらねばどうにもならないだろう、と思われた。
「よしよし、空却くん、発情期みたいなのがあるならあるって言ってくれよ……。いま楽にしてやるから……。触って出せばいいんだよな? たぶん」
独歩は意を決して、うなる空却を抱え込むと、そのゴム状のヘミペニスに一二三がおいていったボディクリームを塗って、二本まとめて丁寧にごしごしとしごきはじめた。
「これであってるのかわからんが、空却くん、気持ちいい?」
あいた手でたてがみや角を弄ってやると、ぐるぐると甘えるような仕草で喉をならした。どうもこれで正解だったらしい。ゴム風船が膨らむようにペニスを膨らませる空却だったが、一向に彼は射精もしないし、勃起がおさまることもなかった。
ふうふうと苦しげに息をする空却に、どうにか力になってやれないものか、と独歩がシアンしていると、彼の着ているグレーのスウェットの腰の部分からヒヤリとした物がはいってきて独歩はおもわず声をあげた。
「ひえ!」
独歩のしりのあわいに当てられているのは、明らかに東洋龍の空却のもので、それがつんつんと尻穴にあてられているのだからたまったものじゃない。
「だめだって、そんな、落ち着いて空却くん。後で後悔するのは君なんだぞ」
そういっても聞かないらしく、肩をがぶがぶと甘噛みしながら、空却は独歩の肢体にからみついてそのすぼまりにぼこぼことした尻尾の先端を差し込んだ。
・・・
龍の尻尾をずちゅずちゅと出し入れされてもう何分が経っただろうか。アナルバールのように珠が連続する空却の尻尾は、入れると前立腺を押しつぶし、出すときにはがぱりとアナル縁を広げていく。
こんな破廉恥なこと、どう責任をとったらいいのだろう、と独歩は焦りながら、それでも腰を淫らにゆらして雄に媚びることをやめられない。
「ふおっ、あっ、それだめっ♡ おなか、おなかつぶれるっ♡」
ごつごつとした尾に容赦なく前立腺を押しつぶされ、ごりごりと擦られて独歩はだらしなく舌を突き出してよがり狂った。勃起した陰茎からはだらだらと精液と先走りを流して、何度か達したことがうかがえた。ぐぽぐぽと卑猥な音をたてて絶えず出入りを繰り返す空却の尾が腹のなかを蹂躙し、独歩の肉壺をうまそうに味わっている。
「うあっ♡ もう、もう、ほぐれただろ……。はやく挿れて、終わらせて、はやく……」
独歩はぱんぱんになった空却のヘミペニスを撫でて、性交を終わらせようと催促する。はやくこの快楽から逃れたい一心の行為だったが、尻を突きだして雄のちんぽをハメ乞いする姿はただの媚びにしか見えなかった。空却はずるりと尻尾を抜き出すと、そのゴム風船のようなヘミペニスの片方を、ぴとりと独歩の尻穴に添えた。
「はやく、はやくしろって……えっ、あ……あああっ!」
ずぷりとアナルにペニスを押し込んで、もう片方のペニスを独歩の肉付きの悪いふとももに挟むと、空却は律動を始めた。ぷくぷくと風船のようなヘミペニスは更に膨張し、腹の奥、結腸弁を押し上げるまでとなった。
「はあッ、ああ! すごい、腹がっ、やぶれるっ♡ 死ぬつ、死んじゃう……!」
突起がぼこぼこと散在する龍のペニスは、一度入るとなかなか抜けることはない。緩やかに体を揺さぶられ、奥の弁をごつごつと押されると電流の様に快感が背中を駆け巡った。
四つん這いの体勢で下を見れば、グロテスクなペニスが自分のものと擦れ合っているのが見え、あまりにも卑猥な光景。龍のトゲのついたペニスが、自分のものと擦れてどうしようもなく気持ちが良い。
「はあ、あっ、おっ♡ 空却くん♡ 気持ちいい?」
独歩が空却の爪を撫でながら聞くと、空却はぐるぐると喉を鳴らして機嫌が良さそうに応えた。龍のながい舌がべろりと独歩の唇をなめて、独歩は誘われるように振り返って、キスを請う。緩やかに結腸弁を殴られながら、長い舌で口内を蹂躙される。空却の舌先からぷしゅ、となにか液体が出てきたかと思うと、独歩は瞬時にガクンと体を前のめりに倒れた。
「えっ……、ッ、~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」
その瞬間、独歩は絶頂した。背をそらし、足先を丸めてびくびくと体をはねさせる独歩は突然のことになにも考えられない。
「は、あっ、空却くんっ♡ なに、ああっ」
体が熱い。独歩は真っ白になりそうな頭の片隅で、自分の腹の奥がきゅうんと収縮して、その、空却の陰茎を受け入れるためにがぱりと開いたのに気づいた。体が孕みたがっている。独歩は男で、子宮などなかったが、体がもはやこの龍のメスで、子を産む準備を始めているとそう感じられた。ほしい、精液が、この雄の精液がほしい。
「はあ、ああ! はやく、奥に、奥にいれて……♡ 精液だして、孕ませてください、どうか……」
独歩はみじめに懇願のことばを口にしていた。それに興奮したのか、空却の律動はよりはげしくなり、独歩の肉穴をめちゃくちゃにかき回した。返しのとげで腹の中をぐちゃぐちゃにされ、陰茎をこすられ、もはや悲鳴じみた声をあげながら、独歩は種漬けをねだった。
「んっ♡ やばっ♡ いく、イくうっ♡ はやく、出して♡ イって♡ どうなってもいいからッ♡」
下品な声を上げながら、ポルチオをサンドバッグにされて独歩はイキ狂った。そして、空却のペニスがひときわふくらんだかと思うと、多量の精液を独歩の腹に吐き出した。
「んひいいいいい♡ あついっ、精子あついっ♡」
なかなか空却の射精がおわることはなかった。人間の何倍もの量をぶびゅるぶびゅると腹の中にぶちまけて、胎内を精液でいっぱいにしていく。
「はひ♡ まだ……まだ出てるッ……♡ くるし、気持ちいい……つ♡ もっと♡ もっとください……♡ 受精するまで出して……」
白濁した精液は、独歩の腹をだんだんと膨らませて、擬似的に妊娠でもしているような格好にしていった。倒錯した快楽で頭がいっぱいになった独歩は、だらしない顔であへあへと喘いで腹をさすった。
風船がしぼむようにやがて空却のペニスはしぼみ、独歩の後穴から引き抜かれた。ぶびゅううと尻から精液が漏れ、シーツの上に広がる。独歩は未だ絶頂し、舌を突き出して痙攣していた。
「はー♡ はー♡ すご……、こんなの、戻れなくなる……っ」
力なくうなだれる独歩の陰茎からは、勢いをなくした精液がだらだらとよだれのようにひっきりなしに垂れていた。
性交が終わって満足した空却は、未だ人語を話さない。独歩はゆるゆるとした動きで携帯電話で寂雷にメールを送った。
おわり
あとがき
すいませんでした