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AM6:51 ゴミ捨て場

(じろどぽ )



「おれはーーーー」
 諦めたような声で独歩は言った。朝焼けの淡い光に照らされて、不健康そうな顔はいくぶんかよくみえた。
 ゴミ捨て場に横たわってさえいなければ。
「こんな姿、君には見せたくなかったな」
 薄ら笑いを浮かべる独歩は、ひどく疲れていて、なんならそこらに傷さえあった。夜のうちに揉め事に巻き込まれたのは明白で、うち捨てるように投げ出された長い手にはマイクが握られていた。
「独歩、なんかあったのか。とりあえず兄ちゃん、警察? とか、呼ぶ、いやまず怪我の手当てが先か?」
 寝ぼけ眼でゴミだしに来た二郎は、まさかサラリーマンが燃えるゴミの日に捨てられているなんて思いもしなかったものだから戸惑いを隠せない。地頭がいいわけではない二郎が混乱していると、「ごめんな」と独歩が謝る。
「自分で帰るから……。ちょっと、オヤジ狩り? はは、情けない。に、巻き込まれただけだし」
 カッコ悪いとこ見せちゃったなあ、と変なことをきにしてぼやく独歩は弱々しくて、助けてやらなければならないように二郎には思えた。
「自分で帰れるわけねえだろ。ほら、俺んち行くぞ。肩かしてやるから……」
 指定のゴミ袋を投げ捨てて、二郎はその満身創痍のからだを持ち上げる。ぐったりとしていて自力で立てないようで、おぶったほうが良さそうなくらいだった。
 薄っぺらくて軽い体だな、と二郎は驚く。そういえば初対面のときはなよなよしたやつだなと思ったっけ、と中央区で会ったときのことを思い出した。
「ああ、ごめん。本当に……。俺のせいなんだ。もう3日も寝てなくて、仕事も長引いていたから、急にぶつけられたフロウに切り返せなかった。笑えるだろ、優勝チームのDOPPOがこのざまかよ、って言われた」
 情けない、という言葉を皮切りにぶつぶつと念仏のような懺悔を繰り返す独歩は、二郎に弱った姿を見られたのがそうとうこたえているらしかった。二郎は、黙って独歩を背負って歩く。勝手に攻撃をしかけてきた通り魔が悪いのに、何をそんなに自分のせいだと責任を抱え込むのか。
「独歩はつえーだろ。誰だって3日も寝てなけりゃ、リリックも出てきやしねえよ」
「ごめんね。二郎くん」
「なんで俺に謝んだよ。っつーか怪我してんだから黙ってろよ独歩」
「いや、だって。君を失望させただろ。こんな、みっともない姿」
 してねえよ、と二郎はすぐに返した。するわけがない。兄ちゃん以外ではじめてカッコいいと思えた相手だ。決勝戦での番狂わせを起こした根性も、コンテナヤードでの預けた肩の頼もしさも知っている。
「カッコいいやつがいつもそうだとは限らねえだろ。兄ちゃんだって回線落ちでグッズ戦争に負けるし」
 メソメソしている兄を慰めたことだってないわけではない二郎は、背中の独歩にそう言った。独歩はカッコいいし、そもそもその辺のやつらに本気なんかだせない性格だってことも二郎はよくわかっていた。
 カッコいい大人でいたかったと怨み言をいっていた独歩は、二郎くんのほうがよほどカッコいいよ、と頭を二郎のジャンパーに預ける。途端に二郎は顔を赤くして、当たり前のこと言うな、と怒って見せた。




おわり

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