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愛煙家におくるレクイエム

(銃独 たばこのはなし)

「俺は別に喫煙席でも禁煙席でもいいんですけど」
 カフェのソファに座って、サンドイッチを見ながら独歩は言う。銃兎は、手に持ったたばこの灰を灰皿におとして、「お嫌でしたか」と聞いた。
「いや、俺はべつにいいんです。だって、たばこ吸うのなんて個人の自由じゃないですか。まあ、副流煙がどうとか、ありますけど」
「さいきんはそのせいで、吸うところがなくて困ります」
「全席禁煙とか」
「そう」
 銃兎は、なんとなくで灰皿にぎゅうと押しつけて、灰皿にたばこを押しつけた。別に、好きで吸っているというわけじゃない。ただ、やめられないだけだ。
「喫煙者がそんなに嫌われるなら、お酒だって、もうゲロ吐き所とかつくるべきなんですよ」
「また突飛な」
「迷惑ってカテゴリなら、副流煙より酔っ払いのほうが嫌じゃないですか?」
 駅前に倒れてるサラリーマンみると、こんなんになりたくないなって思います。と独歩は言って、ハムサンドをかじった。大ぶりのサンドイッチは、中身がいまにもはみだしそうだ。
「俺が吸わないのは、まあ、興味がないってだけなのと、あと一二三が吸わないんで」
「ああ、同居人が」
「はい。たばこ吸わなくたって生きてけるじゃないですか。わざわざ、この世の中で、ただでさえ高いたばこ税の十倍はらって買うなんて、物好きか馬鹿ですよ」
「私もそのひとりなんですが」
 ポケットから箱をとりだし、銃兎はまたたばこに火をつけた。コンビニでもらったやすいライターがおもちゃみたいな音をたてて、ほのおをあげるのを、独歩はぼんやりとねむそうに見ていた。
「まあ、入間さんはいいんじゃないですか。たばこ吸っても」
 独歩は、誰かのまねをするように、どこかの歌の歌詞を口ずさむようにつづける。「たばこをすってもすわなくても、人間しぬときゃ死ぬ」
 入間さんなんか、明日にも死にそうだから、いいんじゃないですか。独歩は薄く笑った。
「はは、それが恋人にかける言葉か?」
「だって、汚職警官の恋人なんでろくでもないもんやってるんですよ。俺。ムショにぶち込まれるか、なんかで死ぬか。あんたってそうでしょ。どうせまともに死にゃしない」
 だからいいんです、たばこくらい。たんと吸えば。独歩はそういって、銃兎の吐く煙を吸ってゲホゲホと咳き込んだ。

おわり

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