串カツ屋にて
(銃独 かっこいい入間さんいない。串カツ屋で喋ってるだけ)
「二度漬けダメなんですっけ」
たべかけの串カツをつまんで眺めながら、入間さんが言う。俺は、チープな揚げ物と、高級そうな風体の彼の組み合わせは変な感じだな、と思った。しかも、ソースを切らして困っている。「なんですかね。ソースを共有するからだめだってよく聞きますけど」
「使い回すなんてけちくさいと思いません?」
入間さんは、どうしても二度漬けしたいらしかった。物思いふけっているような表情で、子供みたいなわがままを言うの面白い。さっきからちらちらとこちらに視線をよこしている遠くの女性グループも、まさか彼がソースで悩んでいるとは思うまい。
「あ、キャベツで掬ってかけるって書いてありますよ」
「へえ」
俺が携帯端末でさっと検索すると、追加するときは野菜などにつけてかけ直すと書いてあった。入間さんはそれを聞いて、ゆでキャベツをスプーン代わりにして串カツにソースをかける。「なんで教えてくれないんでしょうね」
入間さんは串カツをぱくりとやり、咀嚼してからまじめくさって言う。俺は、ビールをごくごくと飲み下して、「いや、まあ。教えてくれないことなんて、世の中にたくさんありますけどね」と適当に返した。
「貴方が、どう思って毎回ヨコハマまで来てるのとか?」
次の串をとって、入間さんが言う。めんどくさい彼女か、と俺は思いながら、「おごってもらえるからに決まってるじゃないですか。入間さん、いっつもおいしいとこばっか連れてってくれるし」となんだかこれはこれで、年上にたかっている大学生みたいな台詞を口にした。
「シンジュクまで往復千円はしますけど。それに、時間もわりとかかりますよね」
「それはそれですよ」
「時は金なりっていいません? 観音坂さん。それ、貴方にとって一番高いものだと思うのですが?」
緑のきれながの目が、俺を見る。俺は、ついついじっとりとした目で、彼を見返した。そなこと言われたら、俺なんかにかまっている時間こそ、無駄中の無駄だ。
「千円と、時給に換算したら最低賃金を下回りそうな俺の一時間を使って入間さん買えんのか。すげえな。やっす。一二三なんか指名するだけで月に一千万余裕でかかりますよ」
は、と笑ってカツを食べる。ソースがしみて、やたらうまい。
「バカにしてます?」
「してないですよ。とくにメリットなく俺にかまってるのがばからしいと思っただけで」
「メリットがあればいいと」
「あるんですか?」
「部屋とってる、って言ったら」
コン、とどこかのルームキーを、入間さんはテーブルの上に置いた。俺はつい、けらけらと笑う。「入間さん、おっそい。あと串カツ屋でそれはダサい」
「うっせえな」
入間さんはふてくされて、ちょっと乱暴に、串カツをソースの器につっこんだ。しかも、二度漬け。
あとがき
串カツたべたい