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REMEMBER

(ひふど+モブど ひふみのお父さんにレイプされてた独歩の話

 観音坂独歩は、ずっと伊弉冉一二三に断罪されたかった。
 独歩は、フツウの家に生まれて、フツウに育てられたこどもだった。けれど、人と関わるのはどうにもにがてで、こどものくせにお古のラジカセを抱えてブルースロックを聞いているような、かわいげのないやつだった。父親が音楽好きで、いろんなバンドの曲が入ったカセットテープが、書斎においてあったっていうのもある。
 放課後、家から出て遊びなさいと母親に言われて、同い年の子供が集まる公園に行くでもなくラジカセを小脇に抱え、だれもいない近くの川沿いの土手に行くような小学生が当然同級生となじめるはずもない。それだのに、近所に住む伊弉冉一二三という、クラスの中でもいちばんにきれいな子供は、なんでか独歩にしつこく話しかけてきた。
「ねえ、なんでいつもそれもってんの? なに聞いてんの」
「べつに。よく知らない。なに言ってんのかわかんないけど、そんなもんだろ」
「なにいってんのかわかんないのに、おもしろい?」
「そんなの、わかんない。お前も聞けば」
 そっけない態度をとる独歩に、一二三は、土手にすわって、隣でラジカセから流れる音楽を聞いてた。「ほんとだ、なにいってんのかわかんねーね」でも俺っちも好き。と言って笑った顔は、天使のようだった。初めてストレートな好意をぶつけられた独歩は、言葉につまって、音楽に夢中で聞いてないふりをした。 
 それから独歩と一二三は世間で言う友達のように、一緒にいるようになった。独歩の母親は喜んで、一二三ちゃん、となにかにつけて一二三のことを気にかけるようになった。というのも、一二三の家はシングルファザーだったからだ。
 一二三の親父は大概くわえたばこをしてその辺をぶらついていて、独歩が委員会で帰るのが遅くなったときなんかによく会った。そういうときはだいたい、「おう、ヒフミの友達じゃねえか」といって俺に声をかけた。
「あ、こんにちは。ひふみのおじさん」
 独歩がランドセルをしょったままおじぎをすると、なにがおかしいのか、おじさんは笑っていた。男は一二三にあまりにていなかった。かがやくような金髪に、はちみつをとかしたようなひとみのこどもの親にしては、フツウの無骨な日本人って感じだった。
 一二三が、自分の母親は外国人だと言っていたので、それが本当かはともかく、とにかく、ふたりは本当に親子か疑わしいくらいに、似ていなかった。それに、男はまっとうなひとではないんだろうな、とおさなごころにわかるくらい、濁った目をしていた。生命にあふれた、一二三の目とは大違いだった。
 一二三のおじさんは、たぶん、大人として、自分のこどもの友達にしてやることがわからなかったのだと思う。たまに一二三がほかの友達とあそんでいたときなんかに、独りでいる独歩を見つけては、「来い」とだけ言って、まだ細い腕を引っ張って、よりにもよってパチスロなんかに連れてくやつだった。
 小学生の独歩はもちろんそこが、パチンコ屋だなんてわからなくて、ただただすごくうるさいところに連れてこられたな、と思っていた。ジャラジャラと、金属の玉が擦れる音だとか、ピコピコした電子音が広い店内を満たしていて、あたまのなかでながれるお気に入りの音楽もぜんぶジャラジャラした雑音に塗り変わって、聞こえないほどだった。 
 狭い通路を進んで、男は適当ないすにすわる。独歩は「よく見てろ」と言われるがまま、よくわからずはじかれては落ちる玉を見ていた。負けるたびに、一二三のおじさんはたばこの本数を増やす。くさいたばこの煙が、気管に入って苦しくて、でも大人になんていっていいかもわからず独歩はただ男が灰色のレバーをがちゃがちゃと回すのを見ていた。
 たまに、そいつは独歩をいすにすわらせて、レバーを触らせた。全然意味がわからなかったが、言われるままに独歩は触って、煙と爆音に耳と喉をやられながら、レバーをがちゃがちゃとやった。そうすると、男は嬉しそうにしていた。
「俺っちの父さんとどっぽ、仲良いよね」
 そんな独歩と自分の父親の関係を見て、一二三はそういった。そのころは一二三の友達はあちこちにいて、独歩だけってわけじゃなかったから、「独歩うらやましい。俺、父さんにあんましあそんでもらえないのに」とのんきなことを言っていた。
 煙たくてうるさいあそこに連れて行かれるのが、楽しいことなんかひとつもない。それでも、独歩はこのたった一人きりの友達のために、「おじさんはいいひとだ」と言ってやっていた。独歩自身の家族はというと、一二三の父親に懇意にしてもらっていると思っていて、まさか毎回のようにパチ屋に連れて行かれているだなんて思いもしていなかった。
 もちろん、一二三の親父はどうしようもないクソ野郎でしかなかった。小学校高学年になったころ、男はいつものパチンコではなく、自分の家に独歩をあげた。一二三は遊びに出ているようだった。そこで、男は固いベッドに小さい独歩を放り投げると、ランドセルを背負ったまま犯した。なにするの、おじさん。やめて。と暴れる独歩を押さえつけて、男は怪物のようになったちんこを突っ込んで、内臓をめちゃくちゃにつぶして、苦しむ独歩を見て「かわいいな」と頭をなでて、それから、中に射精した。精通もまだの子供には、それがなにがなんだかわからなかった。「お前はバカだなあ」と、唐突の暴力の嵐に呆然とする独歩を見て、男はたばこをくわえた。「泣きやしねえ」
 そういいながら後始末をする男の目はどうしようもなく濁った目をしていたが、そこにうつる独歩の目も、死んだメダカと同じだった。
「俺っちのいないときに、独歩うちに来てんの? ほんとに父さんは独歩が好きなんだなあ。なんかフクザツ!」
 そうやって独歩がパチ屋じゃなくて家に連れ込まれるようになっても、なにも知らない一二三は、やっぱりそんなことを言って無邪気に笑った。お前の父さんは怖いと言えたらどれだけよかったか。恐怖と、快楽に支配された独歩はすっかり男のいいなりで、誰にも言えないまま、内蔵が男の形を覚えるくらいそれは続いた。男は、最中、気まぐれにラジオを流して、有線のヒットチャートなんかにあわせて鼻歌まじりに独歩を抱いた。
 そのころから、かわいそうな独歩はラジカセを持ち歩かなくなった。

 まあ、それはすべて終わったことで、あのころの小学生だった独歩はもう大人になって、男はたばこの吸いすぎで病気になって死んだ。今日の今日まで厳重にふたをしてきた記憶だ。社会の歯車になってあくせく毎日はたらいて、死んでいく人生で忘れ去られていくもののはずだった。それなのに、なぜ今こんなことを思い出すのだろう。もうあの男は独歩を犯したりしないし、すべて忘れたのに。忘れたつもりだったのに。
「独歩。俺さ、小学生んとき」
 独歩が俺の二人目のかあさんになんのかな、って思ってた。一二三が、あのころから変わらないきらめきを宿した瞳で、独歩を見下ろす。ぎしり、とリビングのソファが、一二三の体重がかかってきしんだ。連勤で疲れている独歩は、ぼんやりと、自分にまたがる一二三を見ていた。
「俺さ、ちゃん知ってんの。俺の父さんと、独歩がセックスしてたの」
「おい、ひふみ」
 一二三が、こうやってさ、と独歩のストライプシャツのボタンを外しながら、言う。「父さん......、あのクソ野郎、家に呼ぶ女と同じこと独歩にしてたから」
「やめろって、なんの話だよ......。ふざけてないで寝かせてくれ」
 独歩は引きつる声で、知らないふりをして抵抗する。できればその話はしたくなかった。一二三は、彼の親に似ていない。それでも、独歩はあの男のことを思い出さずにいられない。一二三はヤニなんか吸ってないし、髪のいろから顔立ちからなにまで違う。だのに、独歩はあの日のーーはじめて男に内臓を蹂躙された日の、燃えるような赤い夕焼けと、部屋にかかるリメンバー・ミーのことを思い出す。「ふざけてんのは独歩じゃん」
「俺見て、今あいつのこと思い出したくせに」
 ぞっとするくらい冷たい声だった。ああ、責められていると思い、独歩は抵抗をやめた。ジャラジャラという音が遠くから近寄ってくる気がして、とっさに口走る。「お前は悪くない、俺が......」
「独歩、バカだよね」
 一二三はならすのもそこそこに性器を突っ込んで、圧迫される腹のなかにうめく独歩を見た。「あいつのこと、なんで庇ってんの」
 息が詰まる。ぎらつく目が見ていた。これを待っていた、と思えた。男の葬式から帰った日の夜のことだった。

 

 

 

 


あとがき
 もっとエロ同人みたいにするつもりだった

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