RUN! RUN! RUN!
乱独。恋人同士です
恋人に、女の子とキスをしていたところを見られた。
「いや、僕は何もしてないけどね! 不可抗力だったんだけどね!」
飴村乱数は、ひた走りながら思考を口から洩らす。
そういうお誘いをしてきた女の子は160cmは余裕である子で、しかもヒールを履いていたのが不味かった。真剣なお付き合いをはじめてからそういう遊びをやめた乱数は、誘いを断ったはいいが、あろうことか彼女は、155㎝しかない乱数の口元に押し付ける様に自らの唇を重ねてきたのだ。
小悪魔っぽくくすりと笑った彼女がどんなつもりだったかは知らないが、乱数にとっては迷惑千万。こんな所を見たとあれば、あのネガティブの塊でできてる恋人は勘違いしない筈がない。
乱数の恋人は一度怒ると長い。前なんてうっかり怒らせて1週間は口を聞いてもらえなかったのだ。その時の乱数の状況たるや、散々なものであった。声を掛ければ無視をされ、顔を会わせれば背を向けられる。メールもメッセージにも既読はつかない。
日常の些細なことでそうなるのだから、浮気現場(っぽいもの)を見られたとあれば、どうなるかなんて想像するのは容易い。
乱数はもうあんなことは御免なのだ。
「別れようとかそんな最悪な展開、冗談じゃないんだからねっ!」
乱数は走った。現場から逃げるように立ち去った恋人を探すべく全速力で、なりふり構わずただただ走っていた。
「どーーーーっぽ!!!!」
シブヤの人混みに紛れた恋人を見つけて名前を呼ぶと、驚いて逃げようとしたので、即座に捕まえ人気のない場所まで連行する。逃げようとした割にはろくな抵抗はなかった。
「あの、独歩、あのね」
「......5秒だけ言い訳を聞く」
独歩は強く乱数を睨みつけ、冷たく言い放つ。傍目から見ればいつも通り陰気な顔をしているだが、乱数は彼の声が少し震えているのに気がついていた。素直じゃない上に極度のネガティブ思考の彼との付き合いはさほど長くはないが、能面の様に張り付いた無表情の裏側くらい、不安がっていることくらい、乱数にはお見通しなのだ。
「まえに遊んでたお姉さんが、また遊ぼう~ってしてきたの。勿論僕には独歩がいるからお断りしたのはいいんだけど、彼女、何を思ってか知らないけれど勝手にキスしてきてさー。だから不可抗力なの! 別に浮気とかじゃないから! 僕、独歩一筋だから!」
だから乱数は、口を挟む暇を与えないよう、全力でまくし立てる様にして説明をしてやった。
言い切った後、恐る恐る様子を窺う。表情は変わっていない。怒っているのか、それとも。
「......8秒」
「えっそこ!?」
気にする部分がずれている。必死に言った自分が馬鹿みたいじゃないかと一瞬過ったけれど、それが卑屈な独歩の精一杯の虚勢だと知っていたので、もう言い訳などどうでもよくなった乱数はこの愛しい恋人を力一杯抱き締めた。
あとがき なんかいままでのどれよりもラブい