The answer is blowin' in the wind.
(幻独 別にタイトルの歌の歌詞とは関係ない)
「シロクマの毛は実は透明で、オオカミに一番近い動物は柴犬なんですよ」
夢野先生は、俺が持ってきた和菓子の詰め合わせから栗まんじゅうをひとつとって、言った。
彼は小説を書くひとだから、ものをよく知っているなあ、と思いながらお茶をすする。「へえ。そうなんですか」
まあ、嘘ですけど。お決まりの台詞が、夢野先生から飛び出す。
「嘘なんですか?」
「さあ。ググればわかりますよ」
「確かに」
しれっと言う夢野先生に、笑ってしまう。そうだ、調べればわかることだ。シロクマの毛のことも、オオカミのDNAも。インターネットは偉大だ。大抵のことはなんでも載っているから。
「あなたも真面目ですね。幼なじみのほうは、小生の話をひとつも聞きませんよ」
「それは、すみません。うちの一二三が失礼なことを」
「母親みたいなことを仰いますね」
振り回されても憎めない、だいじなたったひとりの友達の呑気な顔を思い浮かべる。「まあ、腐れ縁なんで」
夢野先生は、ふむ、と言うと、「面白くない」と続けた。
「すみません。つまらなくて」
「いいえ。小生はまだ24ですが、あと5年はやく産まれていたとしても、彼をどかせそうにもなくて、拗ねているんです」
「はあ」
なんて、嘘ですけど。夢野先生は、よくわからないことを言うと、なつかしいフォークソングをうたいだした。
「ボブ・ディラン」
なつかしい、と言うと、有名ですからね、と彼は続けた。
「さっきの発言について、小生の口から言えることは、シロクマの毛は透明だというのと真偽は同じだ、ということです」
「それ、ググればわかってしまうじゃないですか」
「ええ」
答え合わせしたいなら、調べてもいいですよ。無事では返しませんが。夢野先生は、緑の目をきゅっと細めて言った。
その瞬間、背筋を走ったのは、どういう感情だったのか、自分でもわからない。ただ、知らないままの方がいいな、と思った。シロクマの毛のことも、オオカミのDNAも、そして、さっきの言葉の真偽も。
夢野先生は相変わらず、ディランの曲を口ずさんでいる。
あとがき ディラン好きで……。