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フォーチュンクッキーの割れる夜

(【第4回】11/11(日)お題「明日」#深夜の帝独ワンドロワンライ一本勝負)

くそみたいに綺麗な月だ。観音坂独歩は、ぼうっと空を見て、公園のベンチで缶コーヒーを飲んでいた。はあ、と息を吐けば、白い蒸気がぽっと宙に浮いて、冬の訪れを感じさせる。

「あ、観音坂サン。いたいた」
 よっす、と誰もいない公園に、ふらりと夜闇に紛れた黒猫のような足取りで有栖川帝統がやってきた。「待った?」と聞かれ、独歩は、「いや、別に。俺もさっききたところだよ」と返した。
「待ってたくせに。俺にきーつかわなくてもいいのにさ。年下だぜ?」
 帝統は、軽い足取りでストンと独歩の隣に座った。「シゴトでも気を使って、俺にも気使ってたら、観音坂サン死ぬだろ」
「簡単に死なないよ。もう何年社会人やってると思ってるんだ」
「でも、いっつもしにそ~な顔してるし」
「俺の顔が暗いのはいつものことだろ......。今日だってクソ課長にお前の顔みてるだけで運気が下がりそうだとかわけわからんこと言われて......。ハハ、運が悪くなる? 俺の顔のせいで?」
 ぶつぶつと独歩がいつものごとく喋るのを、帝統は、呆れたような顔をして聞いていた。こうなるとどうしようもないことは、短い付き合いだがよく知っていたからだ。
「あんさ、観音坂サンの顔見てツキが悪くなるなら、俺もう内臓ぜんぶなくなってると思うんだけど」
「ああ、そういえばそうだっけ。有栖川くん、明日は大負け確定だな」
「ばーか、ギャンブルに確実なんてねーよ。そうじゃないと、スリルもなにもないだろ」
 帝統が言うと、独歩は「そうだね」と適当な相づちを打って、缶コーヒーをすすった。「じゃあ、明日のニュース。星座占いで有栖川くんが最下位だったら、俺の辛気臭い顔の勝ちだ」
「はあ?」
「どうせ、これから嫌ってほど見るんだし。明日の朝にはきみの運勢どんぞこだって話」
 月を見上げて、独歩はそんなことを言った。それから、体を横に倒して帝統の肩にもたれかかる。ふわりとした髪が風に吹かれたススキのように、帝統の耳をくすぐった。
「ちょっと、急になんだよ」
 帝統が首を捻ると、シアンの目とばちんと視線が合った。上目遣いでじっと見られ、照れ臭くなって帝統は舌打ちをし、顔を背けた。
「キスしてくれるかと思ったのに、やっぱり俺の顔見るの嫌なんじゃないか」
 フフ、と独歩はうすく笑う。断じてそうではない、と帝統はムッとして「明日、ぜってえ腰たたなくしてやる」と言い、独歩の腕を引っ張りあげた。
「わ、なんだよ。コーヒー零れる」
「ホテル行こ。こんな寒いとこでじっとしてられねえよ」
「若いな。もう少し喋っててもいいだろ」
「煽ったのそっちじゃねえか。今日はぜってー顔隠すなよ。そんで、明日の運勢は一位だ」
 帝統がぐいぐいと腕を引き、独歩はそれにつられてあるきだした。

 

 

 

 


あとがき またホテルいかせてしまった

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