ペンは剣よりも強し
(六章軸。シェイクスピアが絆10くらいです。
要素・暴力、レイプ、血。鯖の死亡描写。ぐだおくんの気がおかしい。あと、シェイクスピアがぐだおくんのことを純然たるマスターとして好意を寄せて献身してます。)
荒れた大地を歩いていた。獅子王の天罰だかなんだかで、焦土と化し、ぺんぺん草ひとつも生えていない大地。熱いですね、先輩は大丈夫ですか? とマシュが言った。俺は大丈夫だよ、と返して、ただ歩いた。
ここではさすがのシェイクスピアも饒舌にはなれないらしかった。というのも、俺たちのなかで一番重装備なのが彼だったからだ。ああ、本が重いとシェイクスピアは言う。吾輩を連れてくるなど、奇特すぎます。と続ける。訂正、やはり少々うるさい。
だけど、ああだけど、この時ばかりはそれがなんとなく、心のささえだった。どんなひどい光景を目にしても、どんな理不尽にさいなまれようとも、態度が変わらない仲間がいるというのは少し安心するものだ。
獅子王の聖抜に選ばれなかった者たちは、塀の外での過酷な生活に耐えられず、人としてのこころを失ってしまっていた。生きて、資材を持っている人間を襲い、身ぐるみをはがしてゆくけもののような存在。同じ人なのに、なぜこんなことをするんだろう。俺ははじめてそのものたちに出会った時、ひどく胸が痛かった。
だから、殺さないように、とサーヴァントには厳命したし、あの時、飢えたそのものに水をやったのだ。焼け石に水だとは分かっていたけれど、そうせざるを得なかった。シェイクスピアはそれを見て、「ああ、我がマスターは呆れるほど、根からの善人ですなあ! 面白い!」と笑った。笑うなよ、と怒りを覚える自分と、ああいいよ笑ってくれよ、という投げやりな自分がいた。
『前方、またあいつらだ! 三人、六人......九人! 各自戦闘態勢!』
焦土を歩くと、無限に湧いてくる心を失った者たち。ロマニの通信で、マシュ、シェイクスピア、そしてルキウスがおのおのの武器を構える。俺は後方に下がって、魔術礼装の回路に魔力をおくった。
「―――――――――――――ッ!!!」
もはや人間の言葉とも言えない唸り声をあげて襲い掛かってくるその姿は、バーサーカーの様でもあった。手にしただんびらを、人間の稼働限界を無視した動きで振るってくるそいつらは、言われなければ同じ人間だとは思えない。
キィン! という鉄と鉄がぶつかる音が聞こえる。ルキウスが真っ先に飛び出したのだ。マシュも、「いきます!」と盾を構えた。シェイクスピアはというと、「他のお二方、頑張ってください」と呑気なことを言っている。
「お前も働けよ、シェイクスピア!」
「そんなことおっしゃいましても、吾輩、支援くらいしかできませんもので」
「じゃあ少しくらい真面目に......! スキル、国王一座をルキウスに!」
「はい、仰るとおりに!」
シェイクスピアから生まれた魔力の弾は、ルキウスにかかった。次に俺がArtsチェイン! と指示すると、「宝具、打てます!」とルキウスからの返事。
「マシュ、ルキウスの補助を! 一気に片づける!」
「了解です。マスター!」
手足を狙って攻撃したり、宝具を派手にぶっぱなして敵の戦意をそぐやり方は、これまで効果的だった。楽に戦闘が終わるし、なにより、殺さなくてすむ。
なのに、なのに。
「グルァァ!!」
頭が真っ白になった。反射的に振り向くと、倒し損ねたひとりが、俺の方に向かって飛びかかって、それで。
「邪魔ですな」
――――死ぬ。と思ったその時、俺の前に立ちふさがるものがあった。
シェイクスピア。だんびらを自身の腕で受けると、相手の目をぐしゃりとペンで刺した。弾かれただんびらが地面に刺さる。そのままシェイクスピアは、表情を変えずにペンを押し込んだ。
「ギャアアア!!」
ほとんど化け物のような断末魔が、焦土に響く。ぐじゅぐじゅと目から頭のなかをかき回され、内部を破壊された咎人は、ひどく苦しんだようすでのたうちまわった。そして、数秒ののち、動かなくなった。
ルキウスと、マシュが俺の心配をして駆け寄ってくる。何をいってるかは、正直わからなかった。ただ、目の前で人らしい人が死んだのが、ショックだった。そしてそれを殺したのが、シェイクスピアだったというのも、俺には受け入れがたかった。
「なんでしょうか?」
シェイクスピアは、死人の目からペンを引き抜くと「おお、汚い」と言ってマントでぬぐった。そして、俺を見て首をかしげる。
「殺すなって......言ったじゃん......。シェイクスピアは、人が、好きなんだろ......なんで......」
俺はそれを言うのが精一杯だった。シェイクスピアは、人が好きだと言った。だから、ああ、だからシェイクスピアは『それだけはしない』と思っていた。
「といいましても。あれはもう人間とは呼べません。吾輩は人の描く紋様が好きなのです。面白いから好き。面白くなければ、価値などない。吾輩を聖人君子と一緒にされては困ります」
俺のショックなど意にも介さず、シェイクスピアはけろっとした表情でそう返した。
「なんですか、吾輩を化け物でも見るような顔をして。はは、マスター。今のお気持ちをお聞かせ願いたい!」
「シェイクスピアさん、やめてください」
「おお、マシュ殿。申し訳ない。オーダーに応えなかったのは、吾輩の不徳でありますが、それでもマスターが死ぬかもしれない、という場面で敵を"生かすべきか、殺すべきか"となりますと、とるべきは後者です」
だれもがシェイクスピアの弁舌に押し黙った。それは圧倒的正論だからだ。なら、それなら。
「......殺させたのは、俺の責任だ」
先輩! とマシュが悲痛な声をあげる。ルキウスも、そうではありません、と否定する。
「そうですな。マスターのせいです。いくら不殺の命を受けていても、令呪で縛られたわけでもなし。マスターを襲う不届きものは、殺してしまうのが道理ですぞ」
そんななか、当のシェイクスピアだけが、俺を肯定した。さあ、もっと面白い顔を見せて欲しい、と言わんばかりの期待に満ちた顔で。
「殺されぬように、殺して行くのです。さあマスター。行きましょう。あなたの花道が、面白きものでありますよう!」
シェイクスピアは高らかに言った。俺たちは、倒れた咎人に背を向けてあるきだした。
・・
夜になると、山を目指す俺たち一行は適当なところでキャンプをする。徒歩での移動は時間がかかる。まあ、そんなことももう何回もしているのでとくに文句はない。俺もすっかり旅に慣れてしまったな、と思う。
設営がおわると、ルキウスは見張りに出ると言って外に出たので、男性用テントのなかには俺とシェイクスピアだけになった。
俺は、まだ昼のシェイクスピアの行動を許せずにいた。あの人だって、すっかり正気を失っていたけれども、死にたくないから人を襲うのだ。死ぬのは怖い。俺だって、誰だって怖い。なのに、それを殺すだなんて。
「なにか言いたいことがおありで? 昼のことでしょう。吾輩サーヴァントにとって重要なのはマスター。まあ、他の聖杯戦争ではそうでない場合もありますが、今回は人理の危機。人間の歴史、営みすべてが消えてしまうなど、物語を愛する劇作家たる吾輩には耐えられない! 今回は弱きサーヴァントの吾輩とてあなたの助力になりたいと思って召喚に応えたわけです。まあ、面白そうというのも、理由の一つですけれども」
「......だから?」
「だから、邪魔者を殺しました。至ってシンプル。明瞭快活な答えでは?」
シェイクスピアは、不満げな俺に向かってなんでもないように言った。とてつもなく腹が立った。
「俺は殺すなって言ったよな」
「ですから、昼間言ったでしょう。令呪で縛られているわけでもなし。吾輩は吾輩の判断で、やりたいようにやることだってありますぞ、マスター」
「でも、あんな簡単に人の命を奪って――」
「いいのですよ。吾輩にとってはアリを潰すごとく。人間だろうと、怪物だろうと。殺さねばあなたが死んでしまいます。それは吾輩も困る。あなたの行く末をもっと見ていたい。だから殺す。そこに差異などありません」
シェイクスピアは、手にした赤い本をぺらぺらとめくりながら、答えるのが退屈だという顔でしゃべる。ああ、やはり、ひとのかたちをしていたって、人間とサーヴァントは本質的に相容れないのか。俺は悲しい気持ちになった。悲しくて、くるしくて、目の前のキャスターが憎らしくて。
「なっ、ぐ、マスター! あ、カハッ」
「令呪を以て命ずる。『抵抗するな』」
気づいたら、シェイクスピアの胸のリボンを引っ張りあげていた。シェイクスピアは弓なりになって、体を反らせた。首が絞まって、苦しそうだった。しかし、俺が令呪を使ったので、抵抗らしい抵抗はしなかった。
「なあ、シェイクスピア。俺がこんなひどいマスターだったら、俺を見殺しにしたか?」
「カ、ハ、......ぐ、愚問ですぞ、ハ、マ、スター。慣れないことを」
「うるさいッ!」
ガシャン! 俺はそのまま乱暴にシェイクスピアをテントの床にたたきつけた。いろんな荷物がちらばって、音を立てた。
「誰だって、死にたくないんだ。死にたくないから、生きるために犯罪に手を染める人だっている。この特異点は、そういう特異点なんだ。俺と同じなんだ。みんな! なのに、お前は! 死にたくないって気持ちが分からないから、お前は!」
シェイクスピアにまたがって、衝動に任せてその顔を殴る。ゴン、とかガンとかいやな音がして、シェイクスピアはそのたびにうめき声を上げた。殴りながら、ぼろぼろと涙がこぼれた。シェイクスピアは、俺にされるがまま、殴られていた。
「――はは、でも、こんなの日常茶飯事か。死んでも令呪で霊基復元、カルデアにもどれば健康体。そんなことばっかりしてるからな。この程度じゃだめだよな」
鼻血をだしてひゅうひゅうと息をするシェイクスピアが、なぜだか魅力的に見えた。俺の手によってこんなふうになっているのだと、そう思うと、自分のどこかの枷がカシャンと音をたててはずれる音がした。
「なあ、シェイクスピア。ふつうに死ぬよりつらいことって、なにかな」
そのとき、自分がどんな顔をしていたか、わからない。
・・
抵抗するなという、令呪によるしばりを受けたシェイクスピアは、ろくろく俺に逆らえない様子だった。口では「やめてください」とか、「バカなことを」と言っても、俺がこの大男を組み敷く間なにもしてこなかった。血まみれで、口だけでさとそうとするシェイクスピアを見ると、弱くてかわいらしい生き物を相手にしているみたいで興奮した。俺のペニスは自然と勃起し、制服のズボンを押し上げていた。
「こういうの、慣れてないだろ。マスターに、性処理の道具にされて、もう死んじゃった方がましって思うようなことされるなんてさ。それやったら、お前も死にたくないって気持ち、分かるだろ」
「マスター、どうか、正気に。貴方とて、こんなこと本意ではないはずです」
「うるさいな。もう後戻りなんて無理なんだよ。俺は、お前を犯すよ。シェイクスピア」
そう言い放ったときの、おびえた表情がすこしかわいかった。俺は乱雑にシェイクスピアのベルトを外して引き抜くと、ズボンをずらした。ブーツに引っかかって、ろくに下がりやしなかったけれど、まあそれで十分だ。愛を確かめる行為ではなし。
シェイクスピアのペニスは、完全に萎えていた。まあ、当たり前だろう。二、三擦ってみたものの、反応は全然しなかったので、俺は諦めて唾液を手にぺっとはくと、シェイクスピアの尻穴にぬれた指を差し込んだ。
「ヒッ」
小さい悲鳴が上がった。セックスをするための器官ではないそこは、かたくなに俺の侵入を拒んだ。しかし俺はそれを無視して、乱暴に指をつっこむ。
「痛いっ、痛い痛い! ます、たー! 痛いですッ」
「殴られて平気なんだからこれくらいいいだろ。死ぬわけでもなし。ワイバーンに腹裂かれて死んだり、ゴーレムに殴られて死んだことだってあったろ。これくらいでなに言ってんだ?」
「それと、これと、は、ああッ」
ぐにぐにと内部を適当に擦ったりもんだりしていると、急にシェイクスピアが高い声をあげた。
「なに、ここがいいの」
「よくない、よっよくないでぇ......っん、ですから! ......は! もうやめてくださ、い......はっ」
口を押さえて、よがるのを隠している様子のシェイクスピアだったが、声が甘いのはもうバレバレだった。
「気持ちいいの? 経験とかやっぱあるんだ。パトロンとかと、こういうことしたんでしょ。まあ俺シェイクスピアの生前とか、あんま知らないんだけどさ」
気持ちいいなら、それはただのご褒美だ。意地悪い気持ちがふつふつと湧き上がって、俺は指をさっさと引き抜くと、ならしもしないそこに自分のペニスを乱暴にぶちこんだ。
「あっ、あ――ッ!!!」
ペニスがみちみちという音をたてて侵入していく感じがした。俺はシェイクスピアの両足を持ち上げて肩にかけると、血が出るのもお構いなしに最後まで挿入した。
「は、はいった......。入ったよ、シェイクスピア」
シェイクスピアの体内は人でないとは思えないほどあたたかく、どくどくとうねっていた。俺は、シェイクスピアの胸に体をぴったりと預ける。当たり前に心臓の動くおとはしなかった。丸まるように腰を曲げた体位で、シェイクスピアははあはあとつらそうに息を吐いた。気持ちがよくてそうしているのか、痛さに耐えているのかは俺には判断がつかなかった。
俺は、男の本能として、射精感に身を任せて、腰を動かした。
「ううぅ、あぁ、あぁ......! うううぅうっ! あ、あっ、いた、あつい、ま、ますたあッ!」
シェイクスピアは、パンパンと体が打ち合う音がする旅に、涙を流して声を上げた。俺はそれを無視した。せいぜい苦しめばいいと思った。
「お前が殺した、人間は、もっと苦しかったんだぞ! お前には、わかんないだろうけどなッ! 死にすぎて、感覚の麻痺した、ばけものめッ! 死ねッ、よがり死ね! 腹上死はまだないだろ。経験させてやるよ。怖い思いいっぱいしろッ! そしたら、また霊基復元してやるからさあ!」
俺はもう自分が何を言っているのか分からなかった。なぜだかぼろぼろと涙がこぼれた。
「はあっ、あ、そんな、奥ッ! ばっかりいっ! 痛い、しんでしまいますっ、へんになるッ!」
「死ねッ! 俺に犯されて死ね! 死にたくないって、命乞いして死ね!」
「ふっ、はひっ、ヒュ、し、しぬ」
「だから、死ねっつてんだろ!」
ごんっ、と音が鳴るような勢いでつくと、シェイクスピアは血にまみれた顔をいっそうひどいものにして苦しがった。ひゅうひゅうと、浅い息を繰り返すシェイクスピアは、もう死ぬな、という顔をしていた。ああこいつもう死ぬのか、と思うと、なぜだか無性にむなしくなった。あっけなすぎると思った。余裕綽々で、人間の脳をペンでかきまぜていたサーヴァントと同じとは、ちっとも思えなかった。
「ま、ますたあ、いたい、しぬ、ひどい、た、たすけ......」
シェイクスピアは、うつろな目をして、加害者の俺に弱々しく手を伸ばした。その手は、俺の頬をゆっくりなぞると力なくぱたりと床に落ちた。
それから、シェイクスピアはピクリとも動かなくなった。
「死んだ......」
きらきらとヒカリの粒子になって消えていくシェイクスピアを、俺は呆然とみつめた。あとは、下半身を露出した俺だけが残った。
俺は、自分の手の甲に刻まれた令呪を見た。夜が明ければ、三画に戻る令呪。これで霊基復元したとき、シェイクスピアはなんと言うだろうか。
「やあ、マスター! 吾輩を殺したお気持ちは?」
なんて、陽気に聞いてきそうだな、と思って、俺のやったことは全部くだらないことのように感じた。
なんで自分が熱くなっていたのか、わからなくなって、俺はうずくまって泣いた。
(むなしいおわり)