ビューティフルマイディア
(ヴラシェ。やおいえろです)
「美しい」
ヴラド三世は、シェイクスピアの頬をなぞると、そういった。
二人きりの寝室で、シェイクスピアははずそうとしていた首リボンタイを持つ手を止めた。
「美しい、とは? シュミレータが作ったまがいものの月の光でしょうか。ああ、確かにきれいだ。吾輩が、ソネットのひとつでも創作して差し上げましょうか?」
シェイクスピアは、服を脱ぐのを中断して、ベッドに腰掛けたヴラド三世のもとへと近づいた。
ぎしり、と二人分の重さを受けたダブルベッドがきしむ。
「......そのような、意地の悪いことをいう汝は好かぬ」
ヴラド三世は、ふいと顔を背けて、ふてくされた。シェイクスピアは、彼が存外子供っぽいところがあると知っている。恋人の機嫌を損ねてはまずいと、シェイクスピアはそのほほにキスを送った。
「公よ、これで無礼をお許しくださいませ。吾輩が遊びすぎました」
「その程度の献上物で機嫌を直すほど、余は安い男ではないぞ、劇作家」
「ああ、どうか怒らないでくだされ。吾輩、きちんとあなたの言いたいことはわかっております」
シェイクスピアは、ヴラド公にしなだれかかると、「吾輩をほめてくださったのでしょう?」と言った。
「口数の少ないあなたからいただける賞賛の言葉は、エデンのリンゴより甘美な響きでありました。茶化してしまいましたが、吾輩にだって恥じらいがあるが故なのです」
「汝は、すぐ言葉で余をごまかす」
「申し訳ございません。公よ、続きを賜っても?」
シェイクスピアは、ふてくされるヴラド公の手を取って、自分の頬に当てた。
とたん、視点がぐるりと反転する。ぼすん、と枕の感触がシェイクスピアの頭に伝わった。
「続きはベッドの上だ、ウィリアム」
「ええ、かまいませんよ。ヴラド殿」
・・
シェイクスピアは、肉付きのいい尻を突き上げて、ヴラド三世の又座に顔を埋めた。演説のときのように大きく開く口を開いて、衣服をほとんど身につけたままのヴラド三世のペニスを取り出して口に含む。
じゅこじゅこと、大きくストロークをして奥までくわえ込むと、ヴラド公はたまらないという風に顔を紅潮させ、あえぎが口から漏れないように片手で口を押さえた。
生娘のようだ、とシェイクスピアは思う。その生娘に抱かれる自分はなんなのだ、という話であるのだが、自分を求める彼がかわいくて仕方がないからどうしようもない。
「んッ、ぶっ、んん」
ごつごつと喉にあたるペニスは、すっかり挿入可能なほど立ち上がっていたが、それでもシェイクスピアはフェラチオ――――というよりイラマチオのようだったが――――をやめなかった。わっかにした指で根元をしごき、吸い上げるように口をすぼめれば、どくどくと脈打つ彼が感じられた。
「もう、良い......っ、やめよ」
出る、というヴラド三世の言葉を無視して、シェイクスピアは口淫を激しくする。じゅ、ちゅる、と先走りをすすると、ペニスがひときわ大きくなり、口の中にどくどくと濃い精液が注がれた。
「き、きさま」
ぬる、とそこから口を外すと、シェイクスピアはあーんと口を開けて彼が出した精液を見せつける。それから、それをごくんと飲み干した。
「ん、......濃いですな。自慰はなさらないので?」
「......余は、汝がたまにあばずれのように見える......」
「こんなこと、あなたにだけですよ。さあ、続きを。出したのに、もうすっかりお元気でいらっしゃる」
すり、とシェイクスピアはヴラド三世のペニスにほおずりすると、自分のベルトを抜き去って下履きをすべて脱いだ。上半身はきっちりと服を身につけたままなのがいっそ淫猥で、ヴラド三世の情欲をあおった。
「このまま、座ったままでもよろしいですか?」
シェイクスピアは、ヴラド三世の首に腕を回すと、ペニスの上に腰を落とした。
「ん。......んん、慣れませんな、やはり何度やっても」
ずぬぬ、とゆっくり中を暴かれる感触に、シェイクスピアは顔をしかめる。つらそうなシェイクスピアに、ヴラド三世は腕を回して口づけた。
「......っん、ふ、んん」
シェイクスピアは一瞬驚いたものの、目を閉じてすなおに舌を絡めてきた。よく回る舌は厚ぼったく、それをヴラド三世は夢中になって食んだ。
そうこうするうちに、陰嚢が彼の尻にぶつかる感触がした。ヴラド三世は、口をはなすと「......全部入ったな」と言った。
「これで、続きを、ッあ!」
「仕返しだ、ウィリアム」
「そ。んな、ああッ、っぐ、ずるい、ですッ! ぞ! はあッ」
はぐらかしたくせ、先ほどの言葉の続きをねだるシェイクスピアへの仕返しに、ヴラド三世は腰をゆさゆさと揺らして対抗した。奥のいいところにあたるのか、シェイクスピアは普段の饒舌はなりをひそめてヴラド三世の肩に顔を埋めてみもだえた。
「そうして、いらないことを言わない、ん、貴様は、好ましい」
「は、あ、あッ......。では、普段のわがはい、は、ッ、好ましくないと?」
「そうは言っておらぬ」
すり、とシェイクスピアの後ろ髪をヴラド三世は撫でる。慈しむようなそれに、シェイクスピアは身を震わせた。
「あ! それ、いや、ですぞ」
「ん、これか?」
シェイクスピアがびくびくと震えるたびに、優位に立てたのが嬉しいのか、ヴラド三世は腰を動かし奥をつきながら、そのうなじをわしゃわしゃと撫でる。
「あっ、あなたッ、こどもですかっ、あ! まっ」
注挿を激しくすると、シェイクスピアはとうとうあえぎ声しか上げなくなった。お互い頂点が近かった。ヴラド三世が対面座位の状態からそのまま正常位にシェイクスピアを押し倒し、スパートをかけると、くたりとシェイクスピアの両手が外れて、シーツをかくだけになった。
「あッ、あ、あ、ッ! あ、もう、なかッ! 出ッ」
終焉は近かった。ヴラド三世は、目の前がちかちかとして、半ば理性が吹き飛んだ状態だった。のけぞる白人特有の白い首筋が、やけにうまそうに見えて、ヴラド三世は衝動的にちゃりちゃりと鳴る胸元の金の装飾を引きちぎって、そのまま緩くなったリボンタイを外した。
「あ!?」
ヴラド三世は、シェイクスピアが目を丸くするのを無視して、そのまま首筋を暴くと、牙を突き立てた。ぶつり、と皮膚が破ける音がするのと、シェイクスピアの中に精液が吐き出されるのは同時だった。
「あ~~~~~~~ッ! あ、は。はあッ、ああ......」
くたり、とシェイクスピアはベッドに力なく倒れる。射精はしていなかった。シェイクスピアにとって、彼とのセックスにおいて射精せずに極まることなどままあることだった。
ヴラド三世はすっかり理性を手放して、シェイクスピアの血のついた口を服の袖で拭うと、「余の生まれ年のワインを思い出す」と言った。
・・
「それで、お聞かせ願えるのでしょう?」
シェイクスピアは、情事のあとがのこる体を、どうせ上半身は服をきているのだからとそのままにして下半身をマントでかくし、ヴラド三世に聞いた。
ヴラド三世のほうも、ほぼ脱いでいない状態だったので、黒いコートに精液が点々とついている以外は、ぱっと見ではこの場でセックスが行われていたとは思えなかった。
「ああ、余は、汝が美しいと言ったのだ」
「そうでしょうとも」
わかっていた答えでも、この口下手な公爵がその口で語るのは嬉しいものだ。シェイクスピアはにっこりと笑った。
なんせ、告白の方法が手製のぬいぐるみを何も言わず送り続ける、という訳のわからないアプローチだった男だ。それだけでも聞けるのは僥倖といえるだろう。
「余とは異なるブラウンも、琥珀が填ったような瞳も、余の好みである。すべての造形が、整っており、黙っていれば彫刻のようでもある。黙っていればな」
だから、シェイクスピアは彼の続く言葉に面食らって、赤面した。大方、血に酔っているのだろう。ここまで直球に、ヴラド三世がシェイクスピアを褒めたことはしらふではない。
「しかしひとたび喋れば、心地よい声が耳を潤す。生意気な口ばかりだが、余は嫌いではない。我が恋人、ウィリアムよ」
「ああ、あ~~~~、あの、吾輩、それ以上は恥ずかしいので! あの、黙っていてくださいますか!」
「なにを、せっかく余が褒めているというのモガッ」
シェイクスピアはマントをその口に突っ込んだ。それをヴラド三世ははずそうとするものだから、ベッドの上はすったもんだとなったのだった。
(やおいえんど!)
シェイクスピア・ラ・カルト収録