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嫉妬のかいぶつ

(天草四郎×シェイクスピア カルデア R18)

みどりいろのめをしたかいぶつが、ぱくんとわたしをのみこんで、はらをふくらませてねています。
 わたしはどうしようもなく、うごけず、かいぶつのいうなりになってしまいます。
それをみただれかがいいました。
 ――ああ! 尊いひと! あなたがそんなものに身をおとすなど!
 

・・


「キャスター」
 天草四郎時貞は、カルデアの通路をを歩くシェイクスピアに声をかけた。シェイクスピアは振り返ると、おおげさに身ぶり手振りをして、笑顔でそれを迎える。
「なにをしておいでで?」
「いやあ、天草殿。それがですな。吾輩、マスターに呼ばれておりまして。役立たずの、働く気などないサーヴァントだと何度申し上げても、レイシフトに連れ回すのです」
「おやおや、それは大変ですね」
「マスターも、面白い方ですな! 人柄は実に愉快。旅は痛快。となると吾輩の執筆も進むというものです!」
 舞台役者のように、声を張り上げてシェイクスピアは言う。天草は、それをにこにことした顔で聞いて、相槌を打った。
「キャスター、あなたが変わらず楽しそうで、私も嬉しい」
「そうですかな? 吾輩は、残念ながら他の聖杯戦争の自分のことはしっかりとは『覚えて』はいないのですが。昨今の天草殿は実に少年らしく、この霊基に刻まれたいつかのあなたとはまた別人のように感じられます」
「そう、思われますか?」
「ええ、そうですとも! 特にサンタアイランド仮面! あれはかなり愉快でしたなあ! 吾輩の『知って』いるあなたでは、思い付きもしないようなことですから、とても筆が進みました」
「それはよかった」
 年かさのすがたにみあわぬ無邪気なこどものような反応を見せるシェイクスピア。それはいつかどこかの世界の彼の姿に重なった。「マスター」と呼ぶ相手が自分だった頃のことを、天草は思い出す。自分を「シロウ殿」と呼んだシェイクスピアのこと。人類すべての救済を願った自分に、自分の望みを捨て、すべてをなげうち侍ってくれた同士のことを。
「あ! いや、すみません。それでは吾輩急いでますので。歓談はここまでにして。マスターが待ちかねてしまいます」
 しかし今の彼は自分の「キャスター」ではない。彼と繋がれるは一人の凡庸な少年である。そして、それは天草も同じであった。シロウ・コトミネでない、天草四郎時貞としてのむきだしの自分を、召喚し、パスを繋いだマスター。それが藤丸立花という少年である。
「おうい、シェイクスピア。行くよー!」
「はい、マスター。ただいま!」
 呼び声がかかると、シェイクスピアはあっさりと天草を見捨ててマスターへの元へと向かった。天草は、どこか取り残された気持ちで遠くなる背中を見ていた 。
 ああ、この気持ちはなんだろうか。天草は、一人になった廊下で思う。持つべきではない、持ってはならないそれ。自分の根源的望みには不要なそれ。天草は、どうしていいかわからず、胸に下げたロザリオを握った。
 神よ、主イエスよ、どうか許しを。彼の前で俗物と成り果てる自分を、未熟な己を。


・・


 カルデアに召喚された英霊、シェイクスピアと天草四郎時貞。記憶と違うその、あまりにもフラットすぎる関係は、天草に持ってはならない卑しい欲を、人間らしい感情を、罪をもたらした。
 ――嫉妬。独占欲。敬虔なるキリスト教信者であり、人類の救済を聖杯に願う天草四郎時貞に不要な、人間らしい感情。そういったもの。
 天草は、ソファに組み敷いたシェイクスピアの顔を見る。余裕をたたえた、劇作家の顔がそこにあった。
「随分、余裕そうですね。キャスター」
「いやはや、天草殿が余裕がないからそう見えるのですぞ――ンッ」
 天草は、迷わずその口に自分の唇を寄せた。迎えるように開く口に、舌をねじ込む。舌を絡め、歯のならびを確かめるように、上顎の感触を楽しむように天草は舌を動かした。
 何度も角度を変えて、くちづけを重ねる。シェイクスピアの口ひげとあごひげが無毛の自分の口に当たってくすぐったかった。
「ん、ちゅ、ぷは、あ、あまくさどの、今日は一段と激しいで――――んん、」
 天草は、息継ぎで口をはなすとすぐ喋りだすシェイクスピアがうっとおしく、またその口をふさぐ。
 今日はその声を、言葉を、聞きたくなかった。「天草殿」と呼ぶそれを。
 あの戦争で、シェイクスピアとシロウ・コトミネに肉体関係があったことを知るものは少ない。
 セラスミスはこのカルデアにはいないのだから、あのことをすっかり覚えている天草を除けば、記録として霊基に残りかすをもつシェイクスピア当人だけ。
 それがどんな行為だったか、天草はシェイクスピアに伝えない。ただ、それが主従としての、上下関係を決めるようなものだったなんて、戯れのようなそれだというものだっただなんてことを、ただの十七歳の少年としての自分が言いたがらないのだ。
 カルデアに召喚されてから、どうにも調子が悪い。いらないものが、胸のうちにどんどんと重なっていって、自分がただの人の子であるかのように天草は感じる。
 このシェイクスピアは、自分をけして「マスター」と呼ばない。マスターは藤丸少年であって、自分ではないのだ。
 そして、それはシェイクスピアにとって自分が特別でないということだ、と天草は感じる。
 そう、嫉妬している。嫉妬だ。醜い、愚かな、人間の感情。
 ちゅ、くちゅ、といやらしい水音をシェイクスピアの書斎に響かせながら、空いた手で天草は彼の股に手を当てた。
「ンン!?」
 びく、と跳ねるいやらしいからだ。ズボンごしからわかるほど、口づけだけでシェイクスピアの魔羅は固くなっていた。
「はあ、キャスター。もう、こんなに大きくして。口吸いだけで、達してしまいそうですね」
「それは、ん、あ、まくさどのがッ、しつこいから......ッ、ふ」
 すりすりと、形をたしかめるように触るだけで、シェイクスピアはびくびくと震えた。アームレストに足を突っ張って快楽から逃げようとするのがかわいらしい。とろけきった顔を、うっとりと、うら若き少女のごとき表情で天草は見つめた。
 この顔は、自分だけのものだ。そう、自分だけの、わたしだけの、かわいいキャスター。
 天草は焦らすようにして、シェイクスピアの下履きのベルトを外し、ボタンをはずした。そして、下着ごと足首までずらす。
「ふふ、ぜんぶ丸見えですよ、キャスター。はずかしいところ」
「いちいち、言わなくても分かりますから......! はやく、お願いですから」
「お願いですから?」
 天草は、シェイクスピアの膝を割って、その間に体を滑り込ませる。兆した魔羅は期待に先走りをこぼし、後ろの穴はひくひくと動いている。
「貴方は、生殺しが得意なのですね、天草殿。いじが、悪いですぞ」
「ふふ、そうやって、我慢しているあなたを見るのが楽しいのです」
「後生ですから、勘弁してください......。こんな、恥ずかしい格好......」
 心底恥ずかしい、と言ったふうにシェイクスピアは袖で顔を隠した。上半身はきっちりと服を身に付けているのに、下半身はなにも着ていないというのが嫌なようだった。
「マスター」
「は、」
「そう呼んで下さい。今だけ」
 震えてはいないか、自分の声は。欲にまみれた願いを、神はお許しになるだろうか。 こんな、自己中心的で、みっともない、ただ目の前のサーヴァントを自分だけのものだと感じたいという願い。
「ま、マスター、吾輩に、お慈悲を」
 天草の熱がぐっと高まる。ああ、その声が、その言葉が。シロウ・コトミネだった自分のこころを、愚かしいおさなき十七歳の少年のこころを揺さぶる。ああ、シロウ・コトミネはこの己をみて、嘆くだろう。大義を、聖杯に託す願いを忘れ、ただ一人の男に執着するなど。
 そんな自分を、シェイクスピアはどうおもっただろうか。
 面白くない、と思われては嫌だと、天草四郎のなかのちいさな子供が泣いた。


・・


「あっ、あ、あっ、ま、マスター! はげし」
「はあっ、は、キャスター。キャスター! もっと、足りない」
 ぱんっぱんっと裸の下半身がぶつかる音がシェイクスピアの書斎に響く。上ずったシェイクスピアの声と、熱のこもった天草の声に混じって、ずちゅずちゅというねばっこいピストン音が聞こえる。
「わ、アッ、わがはいっ、としですから、そんな! たいりょくっ ありませんので、あああっ」
「でも、ぜんりつせんっ こすったら、きゅって、締め付けて。わたしのまらをはなそうと、しない、でしょう!」
「ヒ、イッ! あ、あ、マスター! マスター、あ、い、イきます、イきますからあ、あ、――ッ!!」
 びゅる、とシェイクスピアが射精する。精子は、シェイクスピアの肉のついたやわらかな腹にべしゃりとはりついた。
「キャスター、あ、んっ、そんなにしめた、らっ! わたしも、あっ、あっ!」
「で、出てるっ! あ、あつい......」
 突き抜けるような感覚と共に、天草はシェイクスピアのなかに射精した。余韻冷めやらぬなか、天草はまた律動を開始する。  
 チカチカと目の前に星が飛んでいた。ただ、高められるままに腰を動かす。気持ちいい。
「マスター! ま、わがはいっ、イったばっかで!」
「すみません、もう少し......んっ、お付き合いください、キャスター」
「ひっ、あっ、やだっ、あああっ!」
 キャスターが、マスターと呼んで、【わたし】を見ている。シェイクスピアと、天草四郎時貞ではなく、キャスターと、そのマスターに戻った心地だった。愚かな少年が、嫉妬にのまれて見た夢だ。分かっている。それでも、天草はやめられない。
 目の前にぶらさがった人参を追いかけて、ただ快楽を追って、奥へ、奥へと腰を進める。
「あ"、あ"っ!?」
 そこで、こつんと当たる気配がした。天草がこつ、こつ、と内壁を擦ると、シェイクスピアがワッと声をあげて身をよじる。
「ここ、いいんですか?」
 直腸奥の、わっかのようになったそこは、きゅうきゅうと天草の亀頭に吸い付くように収縮している。試しにそこを何回か突いてやると、シェイクスピアはぎゅうううとなかをしめてよがった。
「あ"、だめっ、だめです! あまくさどの!」
「戻ってますよ、キャスター」
「ま、マスター! そこは、いや......っ、あ"、あ"~~~っ!!!」
 天草殿、という言葉に反射的いらついて、にぐり、とそこに侵入しようとすると、シェイクスピアははしたなくよだれを垂らして悲鳴をあげた。
 それを無視してぐぷ、とさきっぽを挿入すると、さらにぎゅうううと締め付けがつよくなる。
「うっ、キャスター、すごい......」
 シェイクスピアは、敏感すぎるそこに侵入され、ガクガクと全身を震わせていた。断続的に喃語のような喘ぎをあげている無様なすがたが、どうしようもなくいたいけでかわいかった。
「一番ふかいとこに、子種あげますからね。キャスター」
「ひっ、ぎっ、むりっ むりですっ! むりですからあ! もう、ずっといきっぱなしで、わがはいっ、あまくさ......」
「マスター」
「ますっ、たあ"っ............~~~ッ!!!」
 逃げようとする体を縫い止めて、ぐぷぐぷと出し入れをする。そのたびに面白いほどシェイクスピアのからだは跳ね、汚いあえぎ声をだした。
「出る、出しますよっ............!」
「だ、だしてくらさっ あ"、ぎっ、はやく、おわらせ......」
「――ッ!!!」
 激しい締め付けにさそわれるまま、奥の奥に、天草は射精した。
「......はあ、はあ......。キャスター......、大丈夫ですか?」
「あ、......あ、......?」
 ぐぽん、と抜くと、シェイクスピアの後ろの穴はぽかりとあいて、貯まっていた精液をだらだらと垂れ流した。
「はは、天草殿。きょうは、いちだんと、手酷く抱かれましたな」
 かすれた声で、シェイクスピアが天草をからかう。
「緑の目の化け物が、あなたにとりつきでも、しましたか?」
「は、はあ......そう、かもしれません」
「誤魔化さなくても、吾輩、分かっていますので」
 シェイクスピアは、うっそりと笑う。天草の白い髪をするりと撫でるさまは慈母のそれにも似ていた。
「ずっとあなたの後ろに、見えていました。感情というかいぶつが。天草殿。あなたのような方でも、愚かしい感情に、囚われることがあるのですなあ」
 さっ、と天草は血の気が引くのを感じた。ああ、すべて、自分の愚かな思いは、このサーヴァントには、ばれていたのか。なんて、恥ずかしいことだろう。
「私を、おろかと思いますか、シェイクスピア」
 天草は、こころのどこかで、このサーヴァントに失望されやしないかと、恐れていた。シェイクスピアが愛したのは、大望を抱くシロウ・コトミネであって、今の自分ではないかもしれない。そうも思った。
 だのに、天草の心配をよそに、シェイクスピアは彼をぎゅうと抱きしめた。
「いいえ、ちっとも!」
 その言葉が、いつかのシロウ・コトミネでもない、カルデアに召喚されても望みを捨てない天草四郎時貞ではない、ちっぽけで人間らしい十七歳の天草少年の心をすくったことだろうか。
「いつかの、吾輩を従えたあなたは、そうではなかった。まあ、固執するあなたと違い、吾輩にはぼんやりとしか、わかりませんが。でも、吾輩は、今の感情の奴隷と化した少年らしいあなたも、好ましく思いますぞ。吾輩はすべての人間の感情の機微、生き様、その物語を愛しております。吾輩にとっては、藤丸殿のサーヴァントとしての天草四郎時貞の物語も、おもしろい。大義を持ちながら、人間的感情にむしばまれる、かわいそうなあなたが、とてもいたいけで、かわいい」
 作家というのは、滑らかにこうも口上を述べるものだったか。ああ、そうだった。このサーヴァントは、いつもおしゃべりで、ひとを楽しませる。
 しかし、かわいいと言われるのは不満であった。いつもいつでも子供のようなシェイクスピアに、子供のように扱われてしまうのは、いささかプライドが傷つく。
「『かわいい』は怒りますよ、シェイクスピア」
「おっとすみません! 口が滑って」
 ふたりは、セックスの余韻がのこったままの体で、身を寄せ合っておしゃべりをたのしんだ。神が天上からそれを見たら、きっと、ただの人間の恋人同士のように見えただろう。

 


(はっぴーやおいえんど!)

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