俺がまだ青い子どもだったころ
(人が死にます。ランスロットが騎士になりたてのころの捏造。暗い)
魔物を殺すのは慣れていた。
言葉は通じず、襲いかかってくる相手を前にして迷っている暇などなかった。
だから、地面に倒れ伏したスリーピイの死骸を見ても、どうも思わなかった。騎士になるというのはそういうことで、そうせねば守りたいものさえも失うとランスロットはわかっていた。
ランちゃん、と最近声変わりをして低くなった声が頭に響く。金髪のはねっけがかわいい二歳年下の幼なじみ。明るく、誰からも好かれるこどもに育った彼――――ヴェインは、推薦で騎士として王国に召し抱えられたランスロットに向かって「俺も騎士になるから」といっていた。
「ランちゃんの力になりたいんだ。それで、すげー強くなって、国もランちゃんも俺が守る」
純粋な夢に水を差すことをだれができようか。
俺が守りたいのはお前だと言って、あの村に押し込めておけば良かったというのか。
それはヴェインに対して不誠実だ、と思ったし、なにより彼を信用していないみたいで嫌だった。
・・
やめておけばよかったのに。
もうひとりの自分がさげすむように言う。
ランスロットの目の前には、腹部を剣で斬られて内臓がはみでた男の死体が転がっている。
しゃがみこんで、様子を見ると、目が大きく開かれ、恐怖の色をしていた。まだ若い、ランスロットと同じくらいの騎士だった。
殺すのをためらったかどうか、といわれると、ランスロットはためらわなかったと答えるだろう。
しかし、両手剣を引き抜いてから残った血が、切っ先からポタポタとたれるのにすうっと顔は青ざめた。
大丈夫か、と聞いてくる仲間に――――いや、目の前のソレも仲間だったが――――――表面上は冷静さを保って、ああ、と返事をした。
騎士団と言っても一枚岩ではない。こうして、裏切った不届き者もたびたび出る。
「仕方がない。ランスロット、気に病むな」
部隊長が言う。任務中、突然ランスロットに襲いかかってきた『元』仲間を反射的にそうしてしまったのも仕方のないことだ、魔物と同じだ、と周りはランスロットをはげました。
しかし、ランスロットはそれを気に病んでいるのではなかった。自分のように、ヴェインもいつかこうなると思うと、心底恐ろしかったのだ。
それは彼が絶対にやるべきではない――――いや、ランスロットがただやってほしくない、それを見たくないというただのエゴだった。
「ランちゃん!」
脳に、底抜けに明るい声が響く、
太陽のようなそれが、血で曇るのがいやだった。けれど、いつかそうなるだろう。ああ、来て欲しくない。ここまで来てくれるな。
ランスロットは、今もなお自分を追いかけてきているだろうヴェインに対して祈るように思った。