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あるエルーン女の災難とそれとは関係のないバカップルの朝

(グラサイ搭乗設定.。モブでます。すまた)

 ポート・ブリーズ群島の中心となる主島・エインガナ島には、今日も緩やかな風が吹いていた。
中心市街は空の住人で賑わい、野菜だ薬だとマーケットの店主が声を上げている。
 エルーンの女、シーラは慣れた足取りで人混みをすり抜けると、三叉路の正面にある簡易食堂「ベネディクト・ダイナー」の戸を開けた。
 騎空士が集まり交流を図ることが多いこの群島には、こうした手軽にものが食べられる軽食屋が数多く存在する。
 ここのフレッシュな野菜がつまったクラブサンドがシーラの気に入りで、ここではもう常連であった。
「かっっらッ!!!!」
 カウンターで、店主のベネディクトにいつものそれを注文して、空席に座ると、近くのボックス席から大きな声が聞こえた。
「ランちゃん、何すんだよっ!」
 その声に、シーラは食べるのをやめ、そちらに目をやった。
 そこには、どこかの騎空団の騎空士と思われる武装した男性二人が向かい合ってすわっていた。
「ひー、辛え! 確かにマスタード足しといてって言ったけどさあ!」
 これはひでえよ! 濃い金髪を借り上げた青年が、光の具合で紺にも見える黒髪の青年に文句を言っていた。
「ハハハ、ヴェイン! 顔が真っ赤だぞっ」
「ランちゃんのバカ! こんなに入れることないだろ!」
 『ヴェイン』と呼ばれた金髪の青年は、大きな目に涙をためて、サービスの水をごくごくと飲んでいる。
 『ランちゃん』とニックネームで呼ばれた方は、腹を抱えて笑っていた。
「いや、昔はこういう悪戯もしたろ」
「だからって。二十七になってもすることかよっ。次やったら絶交だからな、ランスロット!」
 ひいひいと舌をだして怒るヴェインも、くしゃくしゃにして笑うランスロットも、どちらも驚くほどの美丈夫だった。
 ヴェインはたくましいがかわいげのある青年で、ランスロットは端正な顔立ちをした文字通りの『美青年』だった。
「はは、ヴェインは小さい頃から怒るとすぐ絶交っていうのは変わらないな」
「も~、ランちゃん。聞いてんのかよ」
 シーラはサンドイッチを飲み下して、二人は兄弟だろうかと思った。
 昔から、といっているし、この空には似ていない兄弟というのはまあ珍しくもない。
 けれど、そうでもないようだ。
 すっかり彼女は食べることも忘れ、二人の姿に見入っていた。
「あーあ、外食なんか久々だったのに」
「俺はお前がグランサイファーで作ってくれる料理の方が好きだけどなあ」
「こら、褒めたって許したりしないし、何も出ねえよ」
「悪かった。このためにロングを買ったんだ。俺のを食べて良いから」
 ランスロットは、食べかけのビーフサンド(顔に似合わず健啖家らしい)をヴェインの口に向けた。
 ヴェインはごく自然に、「じゃあ、半分な」と言ってそのままがぶりとてづからかぶりついた。
 どう見たって、兄弟でも友人でもない。イケメンを見てうっとりするつもりが、恋人同士のじゃれ合いを見せられてしまっった、と独身のシーラはため息をつく。
 むしゃむしゃとハムスターのように頬を膨らませてサンドを咀嚼するヴェインを見る、ランスロットの愛おしそうな顔と言ったら!
 すっかりバカップルの空気に当てられて、食欲もなくなったシーラは、テイクアウトに切り替えて店を出た。
 ああ、私も彼氏が欲しい。

・・


「なあ、今出てったエルーンの女の人、ずっとランちゃんのこと見てたぜ。いいなあ、ランちゃん。すげえモテるんだもん」
 シーラが去った後、ヴェインは食堂の入り口に目をやって、言った。
 確かに見られていたのは知っていた。けれど、ヴェインがそういう風に思っていたなんて。ランスロットはムッとして、食べていたサンドを皿に置くと、
「俺はヴェインだけにモテてればいいし、それにお前も見られてた」
「え、そうなの? って、うわっ」
 と言って武装したヴェインの左肩から垂れる浅黄色の布をぐいとひっぱると、そのまま色気もへったくれもなく食べかすのつくヴェインの口に自分の口を合わせた。
「ん、ランちゃ、ここ、外」
「いいだろ」
「よくな、ん、やだって」
 ヴェインはキスに弱い。それをよく知っているランスロットは調子に乗って、息継ぎに開いた口の隙間に舌をねじ込んだ。
 ここがどこかとか、突き刺さる視線がどうとか、ランスロットはどうでもよかった。
 ヴェインが自分の恋人である、ということを見せつけてやりたかった。さっきのぶしつけなエルーン女がいれば良かったのに、とそんなことを思う。
「ん、ん......!」
 舌を絡め、歯列をなぞると、ヴェインはもう抵抗を諦めたのか、ランスロットの暴虐をけなげに受け入れていた。
 サンドの味がするロマンチックでもなんでもないキスだが、それで十分だった。なんなら、ヴェインとは血と泥の味のするキスだってしたことがある。
 ぷちゅ、じゅる、といやらしい音が聞こえるころには、すっかりヴェインもとろんとしてしまって、ランスロットが口と手を離せば、へたりとテーブルに突っ伏した。
「ら、らんすろっと、......やっぱ、ぜっこう......」
 はあ、はあ、と荒く息を吐いて、口元を唾液で汚したまま文句を言う姿は、はっきりいって扇情的で、端的に言えばエロかった。
 ランスロットが口元を拭いて周りを見渡せば、誰もがすっと目をそらした。
 これでこいつが誰のかわかったろ、と満足げにふんと鼻を鳴らして、とろけたスライムみたいになっているヴェインの手を取ると、「艇に戻ろう」と言った。
 ランスロットの瞳には欲が燃えていた。自分に見られて興奮するシュミがあるとは思わなかったな、と自分でも思いながら、ガチャリと音を立てて立ち上がった。
「うわっ、ぷ」
 待って待ってと言いながら、手を引かれるままにヴェインはランスロットに引きずられていった。
 そういえば会計をしていなかったが、誰もなにも言わなかった。


・・


 騎空艇に帰るなり、ランスロットは自分の部屋にヴェインを連れ込んだ。
 艇内ですれ違ったファスティバ嬢が、「あらあ、お熱い!」ときゃあと声を上げていたが、真実そうなのでランスロットはなにもかえさなかった。
 それに、二人が恋人同士であるのはグランサイファーの中では有名な話だ。隠すこともない。
「なになに、ほんとにランちゃんスイッチ急だぜ。だめだって、朝っぱらだし、俺だって準備なんかなんもしてねえしッ」
 ベッドに転がして、ランスロットはヴェインの武装を手慣れた仕草で解いていくと、オレンジのシャツと黒のインナーになったヴェインは性急なランスロットに文句を言った。
「......ダメか?」
 ランスロットが自分の鎧もガチャンガチャンと床に落としながら、ヴェインを見つめて言うと、ヴェインは「あ~~~~~」とか、「う~~~~~」だとかうなり声を上げて、しばらく葛藤していたが、ランスロットがタートルネックと黒のベストになる頃には、すっかり観念してしまったようすで、
「さ、触るだけ......」
 とか細い声で言った。
 興奮していたのはランスロットだけではなかったようだ。
 熱っぽくベッドに転がって見上げてくるヴェインに、ランスロットはそれだけでは終わらないことを予感しながら、
「......ああ、うん。さわるだけ、触るだけな」
 と言って服ごしにヴェインに触れた。
 ヴェインは、戦闘で重い斧を使うこともあり、とても体が鍛えられている。
 特に、胸筋が。それが固いばかりではないことを知っているランスロットは、真っ先にそこにぺたりと両手を当てた。
 服越しからでもわかる発達した胸に手のひらをあわせると、むにむにと円をかくようにもんだ。
「ん、ランちゃん、ほんとそこ好きだよな......」
「お前の胸は気持ちが良いからな」
「はっきり言うよなあ。......あ、っ」
 服越しに乳首をかすめたのか、ヴェインは肩を跳ねさせた。
 ヴェインはランスロットが胸を愛撫するのがすき、というが、ランスロットにしてみればヴェインが『されるのが好き』といった心持ちだった。
 まあ、ランスロットがヴェインのこのたくましくいやらしい胸が好き、というのも嘘ではないのだが。
 形を確かめるように、何度ももむ。ハリがあって、弾力のある筋肉の感触が手のひらになじむ。そうしているうちにつんととがって服ごしでもわかるくらい(それはランスロットにしかわからない変化ではあった)、胸のとがりが主張を始めたので、撫でる振りをしてどさくさに紛れて指と指の間にはさむ。
「うあ、ランちゃん、さわり方やらし......」
「ここ好きだろ」
「す、きだけど、さあ、あッ。おんなじとこばっか、り!」
 とろんとした目で睨まれても全然怖くないし、むしろ下半身に血が集まる。つまり、ムラムラする。
 ランスロットはそのまま、ヴェインの服は脱がさず隆起したそれをぱくんと口にくわえる。
 すっかり興奮しているので、口内は唾液でいっぱいになっていて、ヴェインの服にはたちまちシミができた。そのまま歯をたてたり、舌先でねぶったりと遊ぶ。
「はは、ランちゃ、赤ん坊みたいで、かわい......ヴ、アッ!」
 かわいいのはお前だ! とランスロットは心中で憤慨して、情動のまま歯をたててじゅうと思い切り吸った。
「あ、ああ!? ん~~~~~~~!!」
 胸にあったランスロットの頭をぎゅうと抱きしめるようにして、ヴェインはぶるぶると震えた。
「す、っげ......。胸でイけそ......」
 はあはあと息を荒げて、ヴェインが言う。
 快楽にとろかされた恋人の、うっとりとした表情に、我慢できる者がいようか、いや、いまい。
「悪い、ヴェイン」
 ランスロットは、くたりとしているヴェインの下履きを取り払うと、上着の前垂れのスリットから出た足をぐいと持ち上げ肩に乗せる。
 そして、ランスロット自身もボトムの前をくつろげると、いきりたった性器を出した。
「い、いやいや本番はナシって!」
「ここまできてそれはないだろ、ヴェイン」
 お前だけ気持ちよくなるつもりか? と意地悪く責め立てるように言うと、うっと言葉につまってばつの悪そうな顔をした。
「で、でも、準備してないのはほんとだしさあッ。うう......す、すまたで、お願いします......」
 最後の方は消え入るような声だったが、ランスロットはすっかり勃起した自分のそれをしごいて更に固くして、ヴェインの腰を引き寄せた。
「しっかり締めてろ」
「あ、はい。りょーかい」
 恥ずかしげに、ピタリとヴェインは太ももを合わせる。
 自分から言い出したことなのに、照れくさいようだった。
 太ももの間に性器を挿入すると、むっちりと筋肉のついた肉壁がランスロットの性器を締め付けた。
 これはこれで、なかにいれるのと同じくらい持っていかれそうだ、とおもいながら、ランスロットはゆるりと腰を動かす。
 汗と、それから二人の先走りが香油の代わりになってぬるぬるとよく滑った。
「は、ふっ、ランちゃんと、おれの、擦れてきもちーね」
 へら、と笑って言うヴェインを、もっと乱れさせたくて、自分ももっと高いところに行きたくて、ランスロットはパンパンと強く肉がぶつかるおとが鳴るくらい腰を打ち付けていた。
「あ、あ。やばっ、いい、ランちゃ、気持ちいい」
「す、ご......。ヴェイン、もっと、強く、一緒に......」
 互いの性器が擦れるたび、ぐんと絶頂に近づいた。
 興奮したランスロットは、ぐっとヴェインを折りたたむようにして体重をかけ、シーツを這っていた彼の手を握った。
 震える手で強く握り返されて、ヴェインの限界も近いのだと、ランスロットは悟る。
「うあっ、ん、あ、あ、無理、い、イくっ」
「ふっ、ヴェイン、俺、もっ」
 パン! とひときわ律動を強めると、ヴェインは声にならない叫び声を上げ、背を反らして、絶頂した。
 ぎゅうと太ももが締まり、その締め付けでランスロットも精液を吐き出した。
・・
 ランスロットは、ぬれタオルで汚れたヴェインの下半身を丁寧に拭いていた。
 無茶を強いた責任から、やけに甲斐甲斐しいランスロットを見て、ヴェインは笑う。
「なんか、今日のランちゃん、余裕なかったな」
 そうこぼしたヴェインに、ランスロットは、
「お前があんなこと言うから」
 と返した。ランスロットは、ヴェイン以外にモテるのもうれしくないし、ヴェインが誰かに性的な目で見られるのも嫌だった。
 それを告げると、ヴェインは顔を真っ赤にして、「だからあんなとこでキスなんか」
 と言って、あ~~~~と顔を両手で覆った。俺ってば、メチャクチャ愛されてたりする? と言うヴェインに、当たり前だ、とランスロットは間髪いれず返事をした。
「お前は、俺の唯一の親友で、幼なじみで、恋人だから」
「ランスロットはすぐそういう恥ずかしいこと言う」
 ま、本当のことだけどな、とヴェインはけらけらと笑った。

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