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そこにて眠る

(人間と天使のランヴェ。キリスト教の話が出てきますが書いてる人は無知。
鬱です!!!!!)

 ヴェインのうちは敬虔なクリスチャンで、ランスロットのうちもまたそうだった。日曜日は一緒に連れ立ってランスロットとヴェインはミサに行ったし、村のちいさな教会のお手伝いもたびたびした。

 十二歳にして冷めたところのあるランスロットはとくに神を信じちゃいなかったが、十歳のヴェインは違った。
 本気で神様がいると信じていたし、天使が見守ってくれていると思っていた。
「どうか、ランちゃんにかみさまのご加護がありますように、アーメン」
 信心深いヴェインは、いつも教会のキリスト像に向かってそうやって言った。ランスロットが、「ヴェイン、そういうときは自分のことを願うんだぜ」と言っても、小さなヴェインは首を振った。
「だって、ランちゃん、かみさまを信じてないから。代わりにおれがランちゃんのぶんもお祈りしとけば、きっとかみさまはランちゃんを守ってくださると思って」
 信心深いヴェインの、心からの愛情に満ちた言葉だった。アガペーだ、とランスロットは思った。もし神様がいるとして、このかわいい幼なじみこそが神様とかいうやつの祝福を受けるべきだし、そうあって欲しいと願った。
「ありがとう、ヴェイン」
 ランスロットはふわふわの金髪を撫でると、笑った。そのありがとうにうそは一つもなかった。ランスロットはとくに神を信じちゃいなかったが、ヴェインのことはこころから信じていたのだ。
「ヴェインにも、天使の祝福がありますように」
 だから、ランスロットも続けてそういった。不可知の存在に祈るなんてばからしいこと、ヴェインがいなければしようともしないことだった。


・・


 ランちゃんへ
 てんしさまがやってきたんだ。うそじゃない。てんしさまが、おれがとくべつしんじんぶかいから、ごほうびにしゅくふくにきてくれたんだ!
 おれはてんしさまから、ランちゃんがとくべつなにんげんだっておしえてもらった。かみさまのこども! てんしさまはランちゃんをそうよんだよ。
 ランちゃんはほんとうにすごいや。おれびっくりして、ベッドのうえをとびあがっちゃった。
 それで、おれはとってもしんじんぶかくて、きよらかだから、てんしさまがおんちょうをくれるっていうんだ。おれはランちゃんをまもれるくらいつよくなりたいんだっていったら、てんしのちからをくれるっていうんだ。
 そのためには、てんしさまにおれのからだをかしてあげなきゃいけないんだって。てんしさまがおれのからだをつかって、ランちゃんをすべてのことから守ってくれるって。
 だからちょっとのあいだ、おわかれ。いっぱいのさよならをいわなくちゃ。
てんごくであえますように。かみさまのごかごを!
 ヴェインより


・・


 がん、とランスロットは他に誰も居ない―――そう人間は誰も――――教会で、教壇を蹴飛ばした。幼いランスロットの力ではおおきな教壇はびくともしなかったが、せずにはいられなかった。
「ヴェインはどこにいったっていうんだ!」
ランスロットは憤怒に満ちた顔で、目の前の天使に向かって言った。手には一枚の紙切れがくしゃくしゃにして握られていた。
「ここにいるよ、〝ランちゃん〟。あくまでも私は体を借りているに過ぎない」
「その名前で呼ぶな!」
 ガン、とまた強くランスロットは教壇を蹴った。ヴェインでもないのに、自分のことをそう呼んで欲しくなかった。
 たとえ、それがヴェインの姿をしていたとしても、だ。
「ヴェインは生きているし、私がいるかぎり、なにをされても死ぬことはない。そして彼の願い通り私は天使の力をすべて使って、君をすべての災厄から守る。それに、許可なくしたわけでもない。彼は私とちゃんと契約をしたんだ」
 ザカエルと名乗る天使は、幼い声に似つかわしくない口調でランスロットを諭した。しかし、それはランスロットのイライラを加速させるだけだった。
「天使? おまえが天使だって? 冗談はよせよ」
 ランスロットはぎろりと、少年がしていいものではない形相でザカエルを睨んだ。
 こんな、ひとのこころが分からない奴らが、天使だっていうならやっぱりヴェインの信じたかみさまなんかいないのだ。
「悪魔だろ、このクソ野郎」
 ぺっ、と吐き捨てた言葉は、教会にやけに大きく響いた。しかし、ランスロットの背後のキリスト像も、そしてヴェインの姿をしたザカエルも、びくともしなかった。

 

 


END

 

 

 

元ネタわかるひとは握手

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