かくれんぼはガキ大将がだいたい勝つ
(ランヴェ。隠し事をしているヴェインくんと、ランスロットさん)
隠し事をしたり、嘘をついている人間というものは、例えば鼻をさわるだとか、目が右上にいくだとか、色々言われるものだ。しかし、そんな仕草なんていちいちみてもいられないし、むしろよく言われるからこそ、だます側のほうは意図的にそういう仕草をしないきらいがある。
しかし、ここにひとつだけ確かな嘘発見方法が存在する。それは、ただ一人に関してしか通用しないが、とてもわかりやすいものだ。
「今日はやけに豪勢だな」
「あ、ランちゃん。ごめん、なんか作り過ぎちゃって」
へへ、と済まなそうに笑うヴェインを見て、ランスロットは、ああ、またヴェインがなにか隠し事をしているに違いない、と察した。
親友兼幼なじみ兼相棒兼恋人(そう、恋人なのである!)の俺に隠し事だなんて水くさい、とランスロットは思い、もじもじとするヴェインを眺めた。
ランスロットになにか隠し事をしているヴェインは、まさにお手本のようにそわそわとせわしなく手遊びをし、ちらちらと何度も視線をランスロットとたくさんの小鉢に盛られたフルコースディナーともいえる夕飯とを行き来させていた。
ヴェインは正直者で、ひみつにしていることを、聞かれれば素直に人に明かさずには居られないたちだ。とくにランスロットとの間には絶大な信頼関係があるため、その信頼を重んじてめったに隠し事なんかしないし、したとしてもこんなふうになってしまう。
つまり、隠し事があると、どうしようどうしようと考え事で手一杯になって、料理を作りすぎてしまうのだ。ヴェインは。
「大丈夫だ。俺もちょうど腹が減っていたところだし、ちょっとぐらいなんてことないさ」
ランスロットは平然としてそう返事をすると、ヴェインは、だよな! さすがランちゃん! と、明らかにから元気を出した声で言った。それから、落ち着かなさそうにエプロンで手を拭くと、ランスロットの向かいの席にそろりと座った。
隠し事がばれないか、不安なのだとランスロットは察した。しかし、ここで「なにか隠し事をしているんだろう」なんて聞くのはナンセンスだ。どこかの天司のようなことをランスロットは思う。
なんせ嘘つきのヴェインは途方もなく、いじらしくて、かわいいのだ!
ランスロットはそんな自己中心的きわまりない理由で、居心地悪そうにしているヴェインをにこにこと眺めた。
どうせ、取るに足らないことに違いないのに、話せないというだけでこんなふうにおびえた小動物じみた仕草をするヴェインがかわいくてしかたがなかった。
意地が悪い、とパーシヴァル辺りなら眉をひそめて言いそうだが、そんなことはランスロットの知ったことではない。そういつだって、ヴェインをからかうのもランスロットであり、それを慰めるのもランスロットの仕事なのだから。
目の前のかわいいヴェインをおかずにして、この料理を食べ終わってしまってからでも遅くはないだろう。「どうかしたのか?」なんて白々しく聞くのは。
そうランスロットは思って、目の前のローストビーフにフォークを刺した。
おわり
ヴェインくんが隠していたのは、単にランちゃんが楽しみにしていた大好物のチーズケーキを近所のこどもにあげちゃったとかそういうやつです。