下町ラーメン旅情
(ぱーさんとヴェインちゃんが屋台でラーメンすするだけ)
俺パーさんといきたいところあるんだ、と駄犬――――ヴェインに連れてこられたのは、フェードラッヘ城下のさらに下町にある屋台の通りだった。
黒竜騎士団に在籍していたころも、抜けてからも、パーシヴァルはこんなところにはきたこともない。ここを利用するのは仕事帰りの鍛冶屋だとか、騎空士だとかであって、騎士であった自分とは縁遠いものだったからだ。
様々な人種でごったがえすそこを、パーシヴァルの手を引いて、ヴェインはすたこらと器用に抜けていく。
「よく来るのか?」
「え? ごめんパーさん聞こえない!」
「お前はここによく来るのか、と聞いているんだ駄犬!」
ざわざわという喧噪に紛れて、互いの声がよく聞こえなかった。ヴェインは、そういうわけじゃないけど知り合いがいるといって、人をかき分けずんずん進んでいった。こういうときの遠慮のなさというか、堂々とした振る舞いは見習うべきところがあるな、とパーシヴァルは思う。
たどり着いたのは、もくもくと水蒸気の上がるひとつの屋台だった。そこは大人気のようで、ちょうど端の二席しか空いていなかった。
「イッパツさん~! 俺俺、ヴェイン! 来たぜ!」
ヴェインは親しげに、奥にいた店主に声をかけると、額に手ぬぐいを巻いた眼鏡の店主が、おお、と手を拭いて、
「ヴェインさん~。来てくだすったんすねえ。僕のラーメン、食べてってください。野菜マシマシ! メンマ! ハリガネ豚骨! おすすめですねえ!」
と、けだるげな見た目からは想像出来ないような、活気のある声を出した。「じゃあそれで!」となつこく返すヴェインにならって、パーシヴァルは若干店主の覇気に気圧されながら、木で出来た丸椅子に腰をかける。
「誰だ、あの店主は。知り合いか」
「あ~。パーさん、グランサイファー乗ったことないんだっけ。団長のとこにいたイッパツさん、っていう人なんだけど、すげーラーメンっていうジャンクフードに情熱があってさあ。それが高じて最近開業したらしくて。騎空艇の行く先々で屋台だしてるんだぜ。すごいよなあ。面白いし」
ああ、あそこの団員だったのか、とパーシヴァルは納得する。あそこは特徴的な人物がたくさんいるから、こんなやつもいてもおかしくないだろう、と乗ったことがないなりに思った。
「はァい、イッパツ特製、ハリガネ豚骨二丁あがり! それと、ヴェインさん。ラーメンはジャンクフードじゃありませんよォ。天下の愛すべき主食! これなり!」
「あはは! ごめんごめん! な、面白い人だろ」
「この......物体は......食えるのか......?」
「それは食べてからのお楽しみってことで!」
ヴェインが渡された鉄の箸を持って、いただきまあすと湯気の立ち上る椀にふうふうと息を吹きかけた。
パーシヴァルも、習ってこのラーメンなるものを口にする。ぎこちなくすすると、塩気のあるスープに、小麦の麺が絡んで口いっぱいに出汁の味が広がる。茹で野菜も、スープを吸っていて独特の臭みがなく食べやすかった。
「......うまい」
パーシヴァルがそれだけ言うと、ヴェインが自分のことのようにわあっと喜んだ。
「イッパツさあん! パーさんがうまいって!」
「なんですとお? またラーメンを愛する者がここに、ひとり......ああ......」
店主は、なぜか手ぬぐいを取って胸に抱き、天を仰いでひとすじの涙を流した。麺に生きて麺に死ぬ......ラーメン道......とつぶやくさまはやはりこの男は変人だとパーシヴァルに思わせた。
「へへ、よかった。俺このラーメン好きなんだよ。だからパーさんにも食べてほしくて、自分で作ろうとおもってイッパツさんにならったんだけど、全然うまくできねえの。麺を打つのが難しいのなんのって! だから連れてきたんだよな」
にこにこと笑って、言って、器用にはふはふとラーメンをすすっていくヴェイン。パーシヴァルは、それを真似するも、どうもうまく食べられない。
くそ、俺に刃向かうとはなんという食べ物......。駄犬はあんなに上手く食べているというのに!
難しい顔をしているパーシヴァルに、パーさんかわいい~とヴェインがちゃちゃをいれる。ムッとしたパーシヴァルはやけくそになってがつがつと勢いよくラーメンに食らいついた。
すると、それが良かったのか、ずるずると音を立てて口の中に麺が吸い込まれた。
「ふん。俺に出来ないことなどないな」
湯気にあてられて汗をかきながら、パーシヴァルが言うのを、ヴェインはやっぱりかわいいなあと笑った。
「汗かいて一生懸命食べてるパーさん、こどもみてえ!」
そういうお前は、汗をかいて、顔を赤らめてまるでセックスの途中だという言葉を飲み込んで、あとで絶対泣かす、鳴かすとパーシヴァルは思いながら、はふはふとメシをすするのだった。
らーめんおいしいえんど