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ココナツ・ジャグジー

(リクエストの不可抗力でいっしょにおふろに入るパーヴェ。水着でおふろ

「あ~~~ッ!?」
「なッ!? が、ふッ!」
 夏の浜辺、デッキチェアで日光浴を楽しんでいたパーシヴァルだったが、そこに、急にたくさんの砂がふりそそいだ。
 それから、ガコン、と隣に空のバケツが落ちる音がした。


・・


「駄犬ッ! よくも俺を砂まみれにしてくれたな......!」
「いやほんとパーさんごめん! ごめんって!」
 頭から腹にかけて浜の砂まみれになったパーシヴァルは、鬼の形相で現況たるヴェインに詰め寄った。
 同じように砂まみれになっているヴェイン曰く、ジークフリートを砂で埋めようとバケツいっぱいに砂を運んでいたところ、石に躓いてバケツを投げ出してしまったのだという。
 くんくんと鳴き声を上げて謝るヴェインとかんかんになって怒るパーシヴァル。遠くで見ているランスロットが爆笑しているのが見え、パーシヴァルは少し落ち着き、はあ、とため息をついた。
「............とりあえず、俺はこの砂をどうにかする。駄犬、貴様の処遇はそのあとだ」
「ど、どうかお手柔らかに......」
 そう言いながら二人が向かった海水浴場専用のシャワー室は故障の文字。これにはさすがのパーシヴァルも困ってしまった。びきびきとひきつるこめかみをもみながら、どうするかと考えあぐねていると、ヴェインが手をポンとたたいて、そばのリゾートホテルを指さす。
「あ! グランが言ってたんだけど、あそこに水着で入れるお風呂あるからシャワーの代わりにそこ使えって......ぎゃん!」
「それを早く言え!」
 砂だらけのヴェインのあたまを、パーシヴァルはぐりぐりとやった。ヴェインは、ごめんって、と繰り返し謝った。


・・


 しかしてパーシヴァルの不幸は続く。
 フロントに言うと一室しか風呂場が開いてないというので、ヴェインと一緒に入ることになってしまったのだ。
「なんで駄犬なんかと......。俺の休日が」
 と憤慨するパーシヴァルを、ヴェインは何でもするからと言ってなだめる。
 二人が案内されたのは、オーシャンビューのジャグジーで、浴槽が一人用なのかやたらとせまかった。洗い場もひとつしかない。
 更にイライラを加速させるパーシヴァルだったが、怒ってばかりいてもしかたがない。開いていないのだから、入るしかないと従業員から鍵を借りた。
「パーシヴァル、ほんとごめんな~」
「いい。先に俺が洗うから、貴様はその辺で待ってろ」
 シャワーのスイッチを入れて、温度の調節をしていると、待ってろと言われたヴェインが横になぜかやってきた。
「じゃあ俺、パーさんの髪洗うな。待ってても暇だし、汚くしたの俺だし」
 そう言って、シャンプーをしゅこしゅこと手に出して、椅子に座るパーシヴァルの後ろに立った。パーシヴァルは当然、拒否しようとしたが、ヴェインなりの償いらしく、犬の垂れた耳の幻覚が見えてついつい許可してしまうのだった。


・・


「かゆいところはありませんか、なんて。へへ」
 泡だらけになっったヴェインの両手が、パーシヴァルの髪をわしゃわしゃとなぜる。これが存外上手かった。頭皮をマッサージする手の力は決して強くなく、気持ちが良い。
 駄犬のくせに生意気な......、とパーシヴァルが言うと、風呂入るの忘れたランちゃんの頭も良く洗ってたからと得意げに返された。
 あいつ、そんなことまでやらせてたのかとパーシヴァルはあきれる。この幼なじみは距離が近すぎるのが問題だ。
「ぱーさん、あたま流すから、目をつぶっててな~」
 体を洗っていたパーシヴァルの手からシャワーノズルを取ると、ヴェインはそのまま洗い流しを始めた。
 アーサーやモルドレッドに向けられるような優しい口調に、まさか子ども扱いしているのではあるまいな、と思うも、口に出すことはかなわない。
 そうしてきれいに洗髪されたパーシヴァルは、ジャグジーのなか、やけにここちがよかったというもやもやを抱えて、体を洗うヴェインを見ていた。
 がさつなように見えるが、ヴェインはパーシヴァルの知り合いのなかで一等繊細だ。頭を洗う手つきにも、それが現れていた。
 気持ちが良かった、また洗って欲しいと考える浮ついた自分に、どう頼めと! と冷静な自分が突っ込みをいれた。


おわる

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