top of page

泣く子のゆりかごを壊す

(リクエスト:迷子のヴェインを迎えにいくパーシヴァル でしたが、またも暗い。グラサイ搭乗設定)

 ヴェインとはぐれた、とグランが言った。
 魔物の討伐を、シェロカルテの仲介で受けた街から、少し外れた森の奥のことだった。
 ここ数日の干ばつで、食料を失った魔物が近辺の村を襲うのだという。死人は幸い出ていないらしいが、時間の問題だろうとのことだった。
 なんてことのない依頼だった。いつも通り、魔物を片付けて終わることだ。
 だというのに、駄犬が、どこで油を売っているのやら、パーシヴァルはこめかみをおさえる。
「ええ、それじゃあ、迷子ってことかあ。ネモ姉、心配だなあ~」
 様々な魔物が出るとの報告を受けてグランサイファーから呼び出されたのは、普段なら扱う武器の属性が違うがゆえに、組むことなどないものたちだった。
 パーシヴァルは、このネモネというエルーンのふざけた態度がどうも苦手だった。意図的だとわかるだけに、疲れる。
「あいつもやわじゃない。小隊とはぐれたときの生きるすべは身につけている」
「ありゃあ、騎士ってのはすんごいねえ。ネモ姉、驚きだあ」
 くるん、と大斧を回して、自称武術家は笑った。緊張感のないところは、だれかさんに少し似ている。
 魔物を排除しながら、三人が進んでいくと、ヴェインのブーツの跡が苔むした地面にのこっているのを見つけた。方向を見れば、ぽっかりと岩の洞窟の入り口が開いている。
 どう見ても魔物のねぐらだった。
「チッ、あいつ、一人で......」
 パーシヴァルは、舌を打つと走って洞窟の中に飛び込んだ。ネモネとグランも、それにつづく。


・・


 洞窟の中に入ったパーシヴァルを迎えた二体のケイブバットを長剣でひと凪ぎして蹴散らす。ケイブバットは壁にたたきつけられ、べしゃりと肉塊と化した。
 こんなもの、障害にすらならない。だが、奥にはまだまだ多くの魔物の影が見える。どうやら、ここが本拠地のようだった。
 切りがない。ぐっと顔をしかめたところに、のんきな声が響く。
「なにさあ。このネモ姉を置いてくなんて、白状なお兄さんだね~」
 ネモネが、ガイアスィーモース! と言いながら大斧を投げれば、パーシヴァルの行く手を遮る魔物はたちまち一掃された。
 言われなくても、先にゆけということをパーシヴァルは理解して、全速力で駆け出した。
「さあて皆さん、団長とネモ姉の、息の合ったコンビ技をとくと見よ~~~ってああ~~~っ!! 喋ってる間に、攻撃しなああい!」


・・


 向かってくる魔物の攻撃は激しくなっていた。ソレをなぎ払い、奥のどんづまりまでくると、ようやく視界が開けた。
「ヴェインッ! 単独行動するなこの阿呆!」
 そこにヴェインはいた。パーシヴァルが怒鳴ると、ヴェインはごめんと素直に謝った。
「ここさ、魔物がずっと守るようにしてたから、気になってさ。先回りしちまった」
 はは、と言うヴェインの手の中には、ホークの大きな卵があった。何をしようとしていたか察したパーシヴァルは、ありったけの威圧感を込めて、どけ、と言った。
「さっきさあ、子どもが生まれるとこだったんだって。小さかったな」
 しかし、ヴェインはどかなかった。ただ、そう言って手の中の卵を撫でた。
「いつかは育って、俺たちに害を成す存在だ。お前がやらなくても、俺がやるぞ」
「......はは、パーさんおっかないの。そうだよなあ、俺がお父さんもお母さんも、生まれたばかりの子も、殺しちまったもんなあ」
 手の中のまだ生まれぬこどもと、そばで血を流して倒れているホークを口語に見ながら、ヴェインは苦笑した。
 急に年寄りのような顔をする、とパーシヴァルは思った。
「一人で生きるのは、しんどいもんなあ。今、楽にしてやるから」
 ヴェインはそういうと、ホークの大きな卵を置いて、ハルバードでかち割った。
 ぐしゃ、という音がして、卵白だろうか、どろりとしたものが地面に広がった。
 パーシヴァルは結局のところ、ヴェインがすべての卵を割り終えるまで見ているだけだった。
 手出しをするなと、背中に書いてあったからだ。
「はい! おしまい! 帰ろうぜ、パーさん」
 すべてがおわり、振り向いたヴェインはいつものばか正直そうな笑顔に戻っていた。


・・


「たとえさ、こどもでも、魔物は魔物だ~ってさ、俺、忘れてたよ」
 迷惑かけてごめんなパーシヴァル、と洞窟の中の帰り道、ヴェインは言った。
「でも、こんなことしちまったら、俺はばあちゃんと同じトコにはいけねえかもなあ」
「............俺と同じところに来れば良い。それに、なにもかも今更だろうが」
「はは、ちげえねえや」
 どうにも言葉がかけづらく、パーシヴァルがぐりぐりと頭を撫でると、ヴェインはそれならさみしくないなと笑った。


おわる 

©2019 by NEEDLE CHOO CHOO.com。Wix.com で作成されました。

bottom of page