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泣くな笑えよ機械の子

(暗いジク→ヴェ。しょたいヴェインちゃんがいます。死ネタ)

空は青く、晴れている。飛空艇が飛んでいて、ソレをみた子供は嬉しそうに笑った。
「いいなあ。おれもあれに乗りたいなあ。じーくんは、乗らないの?」
 子供はジークフリートのぼろきれのようになったマントを引っ張って、言った。ジークフリートは、自分は騎空士ではないから乗らないのだと言うと、子供はつまらなそうな顔をした。
「じーくんのけち。やっぱり、だんちょたちについて行けばよかったのに」
「だが、俺にはやることがある」
「知ってるったら」
 ジークフリートをちいさなからだで追いかける少年は、体に見合わぬ大きな斧槍を抱きかかえている。
 刃には打ち傷があり、柄にも欠けたところのあるそれは、いくつものいくさ場を乗り越えてきたことを感じさせる。七歳ほどの子供が持つべきものではない。
 名前をハルバードというそれは、本当の持ち主の形見分けのときに、ジークフリートが真っ先に希望したものだ。


・・


 いいやつほど、早く死ぬのが世の常だ。
 それはよく聞くことわざであり、実際そうだった。
 ジークフリートの弟子たちはそれはみなよく出来た「いい」弟子で会ったが、その中で真っ先に死んだのは末の弟子・ヴェインであった。
 エネルギーの塊のような、まぶしい笑顔がかわいい弟子だった。きさくで、周りのことによく気がつく気配りや。そういうやさしい部分に、他人とのコミュニケーションを得意としないジークフリートは助けられたと思う。
 だから、弟子をひとり連れて行くなら彼だと思っていた。それを本人に告げるには、ヴェインには守る者が王都に多すぎた。自分のような根無し草とは違う――いや、かつての己がそうであったかもしれない――生き方であった。
 しかし諦め切れんな、とジークフリートは思っていた。誰にも言わなかったが、パーシヴァルあたりには気づかれていたかもしれない。
 まあ、ジークフリートのささやかな願望は、本人に伝える前に潰えたのだが。
 彼の訃報を聞いたとき、ジークフリートは特に驚かなかった。死ぬならあれが一番先だと思っていたからだ。
 馬を走らせ、王都へとゆけば、カラッポの棺桶がジークフリートを迎えた。泣きはらした目で、「肉ひとつ残りませんでした」と彼の幼なじみ、ランスロットが報告した。
「あいつ、自爆寸前のエルステのゴーレムを一人で押しとどめてたらしいんです。みんなは絶対に生かして帰すって、そういって、あいつ......。そのままゴーレムと一緒に爆死したって聞きました」
 もう何日も寝ていないというほど彼の隈はひどかった。それはそうだ。人生のほとんどを一緒にした幼なじみが、姿形もなく消し飛んだのだから。
「それは、災難だったな」
 しかし、納得できる、と思いながら簡潔に言うと、あとからやってきたパーシヴァルに緊張感がないと叱られた。
 ヴェインの葬儀は行われなかった。普通、戦死した騎士の葬儀は国を挙げて行うものだが、彼本人が、自分が死ぬときはそういうことはやめて欲しいと生前カール王に直訴していたらしい。
 葬式は金かかるだろ、そういうの俺やなんだ。湿っぽいことに国のお金つかってほしくないってかさ、だからもし、俺が死んだら。そういうことにしておいてほしいんです。
 そんなことをいかにも言いそうだ、とジークフリートは感じた。
 ジークフリートがもった三人の弟子の中で、一番派手に戦う弟子だった。だから派手に死んだのだろう。
 形見はそれほど多くはなかった。ランスロットは、何もいらないと、本人でなくては意味がないと固辞し、パーシヴァルもランスロットがなにも貰わないならなぜ俺がなにかを受け取らなければならないのかと断った。
 ジークフリートもおそらく断るべき場面だったのだろう。しかし、視界の端に止まった黒いすすだらけのそれを見たとき、それを貰おうと口にしていた。
 それがハルバードだった。


・・


「じーくん、じーくんたら、置いてかないで」
 少年は、ついつい早足になってしまっていたジークフリートを走っておいかける。
 置いていったのはおまえだろう、とはヒヒイロカネや玉鋼で出来た少年にとてもじゃないがジークフリートは言えなかった。
「あ、あれも騎空艇......。じゃない。ロボミだ。いいなあ飛べるの」
 ジークフリートに追いついた子供は、空を見て、蒸気の筋を作って飛ぶ小さな影を指さしていった。
「お前も、飛べる方がよかったか」
「別に、飛んだらきもちいのかなって............」
 子供はそこでかくんと首を垂らして、ハルバードを杖にして眠った。子供は目を離せばすぐ眠ってしまう。
 というのも、ジークフリートがすぐねじまきを忘れてしまうからだ。
 ああ、ネジはどこへやったかとジークフリートは動きを止めた少年を見て少し笑った。


おわり

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