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Mr.Thunderbolt

(ジクヴェ。書きたいとこだけ書いたのでエロくない)

 ロドニー号の事件があったろ、とヴェインが何気なく口にした。それはジークフリートもよく知っている一件だ。というよりも、この空に居を構えているものなら知らない者はいないといっていいものだ。
「それがどうした?」
 ジークフリートが問うと、ヴェインはう~ん、と唸って枕を抱えて起き上がり顎を乗せて、「いや、どうもしないんだけど」と返した。
「俺が騎空艇だったら、とっくにロドニー号みたいになってたな~って思っただけ」
 ヴェインの真意が分からず、ジークフリートはきょとんと(それはほとんどの人間には分からない微細な変化であったが)した顔をする。
「それは......、」
 ベッドの上でする話か? とジークフリートはハイティーンの子どものようになって聞いた。それか、餌を前にお預けをされた飼い犬。
 ヴェインは枕をお気に入りのテディベアのようにぎゅうと抱きしめ、それでさ、と続ける。この年下の恋人は、たまにジークフリートの思考の範疇外のことを言う。ロドニー号が、と語るヴェインは、これからセックスを始める恋人というよりも、作り話を聞かせてこどもを寝かしつける乳母のようだった。
「うんと、なんか、恥ずかしいな。ほら、いっつも、ジークフリートさんと......。そう、こういうことをさ、すると思うんだよな。ロドニー号になったみたいだって」
「ヴェイン」
 ジークフリートは、ヴェインの言葉を遮るように、彼の腕をぐっと引いた。うわ、とヴェインは声を上げて、ジークフリートの胸板にもたれかかる格好になる。
「もう、ジークフリートさん。俺が話してるっていうのに」
 すねた顔をして、ヴェインはジークフリートの顔を見上げた。それと同時に、ジークフリートが首を折る。さらりと長い髪が垂れ、ヴェインの頬に当たった。くすぐったいと笑うヴェインの前髪を上げると、ジークフリートはそこに軽く口づける。
「俺は悪い子だから、寝る前のお話は必要ない。分かるだろう?」
「ジークフリートさんてば、そゆとこ即物的だよな」
「良い子は、夜中のおやつは食べないな」
 ヴェインはどくどくと鳴るジークフリートの心音を聞いていた。早鐘を打つそれが心地よくて、いつまでも聞いてられそうだとヴェインは思った。その〝いつまでも〟はすぐに別れを告げてどこかへいってしまったのだが。
 ジークフリートは抱き寄せたヴェインの服のすそから中に手をしのばせた。ヴェインが文句を言う前に、そのまま頭に空いた手をやり、ベッドに倒れ込んだ。ミシ、と成人男性二人分の重さを一気に受けた木製のベッドは、もっと優しくしろ! ともの言いたげにきしんだ音を立てた。
「あ、ちょっと」
 続く言葉はジークフリートの欲情した双眼の前に裸足で逃げていった。逃げた先はジークフリートの口内で、ごくんと飲み込まれて胃の中に消えた。あとに残ったのは、二人の唾液が混ざり合う水音だけだ。
 まったくのしらふだったヴェインも、何度も角度を変えて口づけられるうちにとろりとあめ玉のように緑の両目が溶けて、ねだるようにジークフリートの舌に己の舌を絡めた。息継ぎに口を離せば、銀糸が伸びてぷちんと切れる。
 くたりと首を反らして、はあ、はあと荒く息を吐くヴェインのむきだしの喉元をジークフリートはべろりと舐めた。
「すまない」
 ひっ、と本能的に悲鳴を上げるヴェインに、ジークフリートは近くにあったものだからつい、と言い訳をした。謝りつつも、首筋から肩へとジークフリートの唇は降りて、鎖骨のうえあたりに甘く噛みつくので反省はしていないようにヴェインの目に映った。
 肩に噛みついたまま、ジークフリートは脇腹をなぜていた手を下に伸ばす。尻、太もも、膝を繰り返し上下に撫でると、ヴェインはいやらしい思惑をもったおとなの手のひらにはふはふと耐えるような息を漏らした。
「脱がすぞ」
 ジークフリートはそう言って、ヴェインのズボンのすそにてをかけた。そのまま器用に下着ごと取り払ってしまう。すうすうと冷たい空気がヴェインの下半身を通る。ただ、自分に触れたジークフリートの手ばかりが熱かった。
「準備、してきたのか」
「そりゃ、ま、いちおう......」
 期待してたから。と、ヴェインは続ける。準備がしんどくても、苦しくても、痛くても、抱き合うのはやっぱり最終的にはバカみたいに気持ちが良い。それをヴェインはよく知っている。からだの水分が汗になって全部蒸発してしまうかのように、激しく交わるのだって、しっかり体が覚えていて、想像するだにペニスは硬くなりさえする。
 ジークフリートは、手早く自分のズボンの前をくつろげると、そこからすっかり立ち上がった長大なものをとりだして、ヴェインのすっかり準備の整った尻にぴたりと当てた。
 入れてもいいか、と聞くだけ無意味なことを言って、ジークフリートは一気に挿入した。腰の肉に指が食い込むほど強く握られ、強く奥まで穿たれたヴェインは、ぎゅっと強くシーツを握って声にならない悲鳴を上げた。びりびりと、背中から脳髄まで快感が駆け巡り、目の前にちかちかと光がほとばしった。
「あ、は、じー、くさ......。はあ、きゅうに、すっげ」
「......待たされたぶん、我慢がきかなくてすまない」
「はあ......、死ぬかとおもった」
 ヴェインは、ジークフリートのものが入った腹を軽く撫でた。しっかりついた筋肉の上からでも、確かに彼の存在を手のひらで感じ取れる。すると、無言で律動が始まる。へ、と間抜けな声がヴェインの喉から飛び出して、それからは全部あえぎ声に変わった。
 ごんごんとからだの奥のずんどまりを突かれるたびに、バチバチと頭の中で何かがはじける。今にも体が壊れて、ばらばらになってしまいそうなほどの快楽だった。
 気持ちいい、とうわごとのようにヴェインは言った。朝起きたら、自分はきっと死んでいる。気持ちが良すぎて。そんなことばかり考えた。
 ちょうど、いつかのロドニー号のマストみたいに。

END

 

 

捕捉
※ロドニー号:雷に打たれてマストが大破した実在する船。

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