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ヴェインはねこが飼いたかった

(じくねこさんとヴェくん ぱぱさんのツイートより。珍しくほのぼのしているぞ!!!!!!!!!!)

 ヴェインの故郷の村はそんなに広いものではなかったので、誰が何をしただとか、どこでなにが起きただとかはすぐに広まった。
 なので、ヴェインの祖母が病気で亡くなったとき、村中から多くの同情が寄せられた。しかしそのころのヴェインというものは、祖母からの教えや隣人であるランスロットの一家の支えもありすっかり自活できるようになっていたので、特に誰の世話になるということもなく暮らしていた。
 そんなある日、確か大雨の日で、畑を見に行った帰りだった、とヴェイン本人は言う。彼が焦げ茶色の薄汚れたねこを拾ってきた。怪我をしていて、きっと魔物に襲われたのだ大泣きで訴えるヴェインと一緒にねこを家に迎えたのだと、彼の幼なじみランスロットは懐かしげに言った。
「モフモフで、ちっこい子どもくらい大きくてさ。一緒に寝たんだよ」
「そうそう。でっかいねこで。ヴェインにしか懐かなかったな。俺が触ろうとするとさ、ヴェインの後ろに逃げたんだよなあ」
「隠れてなかったけどな!」
 わはは、と昔の話をして笑い合うランスロットとヴェインを、ジークフリートは金の目を細めて楽しそうに眺めていた。
「おいおい、竜殺しさんよ。あれ、俺の丸薬の話だろ。一回誰かが使ったって聞いたが......。ふうん。運命は数奇なものだな」
 そこに、手すりの上からふわりと可憐な美少女が、ドスのきいた声を出して現れた。いわずもがな世界一かわいい美少女錬金術師カリオストロである。
「............ああ、これか。あまり使う機会がなくて、あれきりだ」
「え~~? この美少女天才錬金術師カリオストロちゃんが直々に作った便利グッズだっていうのに、こどもの家にあがりこむくらいにしか使ってないの心外~~~~!」
「頻繁に使うものでもなかろう」
「ま、それもそうだけど~」
 カリオストロは、ジークフリートが懐からだした、古びた袋を取り上げるとにまりと笑う。
「そっくりさんに感動の再会! なんていうのも、味があるぜオニーチャンよお」
 そしてどうなったか、誰が言わずとも分かる話だ。

・・・


「わ、コレ本当にジークフリートさん!?」
「そうだよ。ごめんねえ、カリオストロ、ちょ~っと失敗? みたいな? のしちゃってえ~。でも、カワイイでしょ」
 なおん、とカリオストロの腕の中で抗議めいた声を上げたのは、どこからどうみてもただのねこであったが、ジークフリートなのだという。
「カリオストロ、本当に治るんだろうな」
 ランスロットは、尊敬する師がねこに変えられてしまったことに怒ったが、カリオストロもプロである。自分の研究が失敗するわけがないだろと尊大に切り返し、二、三日の辛抱だと告げた。
「数日そのままなのかジークフリートさん。大変だな。......俺が面倒見てもいいかな」
 ヴェインはというと、すっかりねこに夢中で、カリオストロから受け取ったジークフリートを慣れた手つきで抱き上げ、その長い毛並みを梳くように撫でていた。
 ヴェインはずっとねこが飼いたかった。騎士という身ではかなわぬことであったが、幼い頃面倒をみていたあのねこや騎士団にいたムートが、ヴェインの生活の支えになっていたこともあり、ねこを前にして構いたくて仕方がないといった風だった。
「ジークフリートさん。腹減ってねえ? 猫用のおまんま作るからさ。さすがに人間用っていかないだろうし」
 腕の中のジークフリートをゆさゆさとあやしながら、ヴェインは話しかける。
 その姿がいやに楽しそうなので、カリオストロに詰め寄っていたランスロットも毒気を抜かれたような顔になった。
「ヴェインも楽しそうじゃねえか。俺様の秘術も悪かねえだろ」
 カリオストロは勝ち誇ったような顔でランスロットに言う。
 ランスロットは、師の身を案ずる思いと、幼なじみの笑顔を天秤にかけ、しばらく唸っていたが、カリオストロに
「三日経っても音沙汰がなかったら、そのときこそきちんとなおしてもらうからな」
 と言い置いてヴェインを追いかけて行った。
 カリオストロはメンドーなヤツ、とくあああと大きなあくびをして、昼寝でもするかと自分の部屋に戻った。


・・


 ねこのジークフリートは、驚くほどグランサイファーになじんだ。
 大抵はヴェインと一緒に居たが、空釣りに興じるヨダルラーハの横でつれた魚を見ていたり、触りたがるルリアのされるがままになっていたりした。
 ねこというものは気ままと相場が決まっているが、根無し草であちらこちらとどこかへ行ってしまうジークフリートも、まあそのようなものだった。
「なうん」
「ちょっと、ちょっとジークフリートさあん。俺今洗濯物たたんでるから!」
 ヴェインが洗濯物(そこにはランスロットの服も含まれる)をたたんでいると、ジークフリートが構えと言わんばかりにその腕に絡みついた。
 ヴェインはたたんでいるからと言いつつも、邪魔されるのすら楽しいらしく、まともな抵抗をしなかった。
 師と分かっていてもかわいいものはかわいい。
 ヴェインは家事を中断して、ジークフリートをなで回したりして構った。
 そして、夜は一緒に眠った。猫用のベッドを用意したにもかかわらず、ジークフリートがヴェインのベッドに潜り込んでくるからだ。
 潰してしまうと危惧したヴェインも、そのあたたかさに、小さい頃一緒に眠ったあのぬくもりを重ねて、されるがままに寄り添って眠った。


・・


 三日目にもなれば、ヴェインとねこのジークフリートは船内の名物コンビと化していて、ねこの兄ちゃんと呼ぶものも多かった。
 ヴェインの横で香箱座りをしているのをかわいいと女性陣がはやしたてられたり、ランスロットの部屋から出てきた古いカッターシャツでフレーメン反応を起こしたときはランスロットを大いに赤面させたりするなどした。
 ヴェインはねこが飼いたかった。
 だから、この三日間は夢のようでありながら、途中から夢とは覚めるものだということをすっかりわすれていた。
「おはよう、ヴェイン。楽しかったか」
 したがって、四日目の朝、優しげな低音によって起こされたとき、ヴェインは飛び上がって(文字通り本当に飛び上がった)驚いた。
「じ、じ、ジークフリートさん!」
「そうだが」
「え、あ、そっか、ねこがジークフリートさんで、だから、えっと、あの、すいませんでした!」
 ベッドサイドで、びしりと気をつけをして頭を下げるヴェイン。この三日間、かわいいかわいいともてはやしたねこが、師そのものであるということを、今まさに実感したからである。
 考えてみると失礼なことばかりしていたきがする、と固くなるヴェインに、ジークフリートはゆるりと笑って、
「いやあ、楽しかった。誰かに面倒を見て貰うのも、悪くなかった。ところでヴェイン。今日の朝ご飯はなんだ?」
 と、聞いた。ついでにわざとらしくにゃあと鳴けば、ヴェインは「かんべんしてください!!!」と大げさに反応するものだから、面白がってジークフリートはにゃあにゃあないてからかった。

 

 

 


特に伏線も回収せずおわる

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