top of page

ばけものとよばれて

(ジクヴェとシルヴァさん。ソーンちゃんについて話してるだけ)

シルヴァが銃の手入れをしていると、今日も精がでるなあ、となじみのある金髪の男――ヴェインが声をかけてきた。
「ああ。もう終わるところだがな。日々の調整を怠れば、弾は当たらなくなる」
「刃を研がないと、切れ味が悪くなるのと一緒だな」
「ああ、そうだ。私はこうしたメンテナンスをしないと、あの子の足下にも及ばない」
 シルヴァは表情を曇らせて、手入れが終わった銃を見つめた。ソーン、とこぼすシルヴァの声は力ない。
 ヴェインは、シルヴァに「ミルクは入れる? ブラック?」と聞く。サンダルフォンが入れたコーヒーがあるというので、シルヴァはブラックと返した。濃いコーヒーが飲みたい気分だった。
 だのに、ヴェインが持ってきたのは甘ったるい匂いのするカフェオレだった。
「私はブラックと言ったのに」
「ごめんごめん。でも、疲れたときには甘い方がいいと思ってさ。シルヴァさん、疲れた顔してたからよ」
 そう、叱られた子犬のようなしぐさで、ダメだった? と聞かれれば、シルヴァもむげには出来ず、つい大丈夫だ、ありがとうと返してしまう。
 彼は他人への思いやりが人一倍強い。戦闘でも、戦陣を切って味方をかばう行動をいつもとるような。自分が怪我をしていようと、他人の手当を先にするような。そんなヴェインは、何を言われても「したいからしただけ」と快活に返す。誰が彼の善意をむげにできよう。
「ソーンさんっていうのは、確か十天衆の一人だよな」
「ああ、私の親友だ。......たぶんな」
「そっか。すげーなあ。十天衆が親友だなんて。カッコイイ」
 ヴェインは人なつこい笑みを浮かべて、そう言う。シルヴァはそんなことを言う人間はあまりいない、と返して、カフェオレの水面が揺れるのを見ていた。
「化け物じみてる、というやつがほとんどだ。あの子はそれで傷ついた」
「そりゃひでえなあ」
「過ぎたる強さは、時に人を怖がらせるものだ」
 シルヴァが浮かない顔をした。自分が犯した罪を、思い起こしたからだ。ソーンを傷つけたこと。つまり、化け物と言ったこと。
「だから、私もあの子と同じになりたいんだ。同じになって、肩を並べて、私も化け物だと言いたい。まだまだ足下にも及ばないというのに。おかしいか?」
 シルヴァが自嘲気味に言えば、ヴェインは、ううん、と首を横に振った。
「やっぱすげえよ。隣に立ちたいって努力してるの、偉いと思う」
 俺なんか、まだまだだもんなあ。ヴェインは、そう言って眉を下げて微笑んだ。その微笑みが意味するところを、教えてもらえるほどシルヴァは彼に踏み込めない。そういうところの線引きは、厳しい男だ。
「ヴェイン」
 気がつくと、フルフェイスのアーマーをかぶったままの男が器具庫の扉の前に立っていた。
「あ、ジークフリートさん。お帰りなさい。ずいぶん汚れてるなあ」
「ああ、すまん。留め具がとれなくなってしまってな。工具を見にきた」
「了解。今、タオルとか撮ってくるから!」
 どたどたと、ヴェインは部屋を出て行った。気まずい空気が、部屋の中に流れる。どうしたものか、とシルヴァが考えていると、ジークフリートが、俺だったら、と口を開いた。
「俺だったら、ヴェインにこちらに来て欲しいとは思わん」
 化け物の気持ちだ、と続けるジークフリートは、どうやら先ほどの会話を聞いていたようだ。趣味の悪い男だ、とシルヴァは思う。
「それでも、私は彼女と同じになりたい」
 シルヴァはそれだけ言うと、ぬるくなったカフェオレをぐいとのんで、愛銃を担ぐと器具庫を後にした。甘いはずのカフェオレは、苦い味がした。

 


おわり

©2019 by NEEDLE CHOO CHOO.com。Wix.com で作成されました。

bottom of page