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竜が足から上る

(じくべ りゅ~かん(人×竜) 黒木さんと約束したやつ こまかいこと気にしない人向け あんまりエロくない 捏造がやばい 書いた人の睡眠時間もやばい すりっとかんです)

 その日、ヴェインはドラゴンになった。
 雄々しいことや、勇敢なことを表すなにかの比喩表現とか、そういうポエムみたいなものじゃない。本当に、頭の先からつま先までまるっとドラゴンになってしまったのだ。
 鮮やかなオレンジ色の輝かしい太陽のような皮膚に、瞳はブルースカイ。大きさは多分騎馬くらい。
「確かにヴェインだ」
 くちなわをつけられジークフリートに引かれるそのドラゴンを見て、ランスロットは言った。
「どうした、この駄犬――――犬じゃなくなったが――――またうっかりスペルサークルにでも入ったのか?」
 次いでパーシヴァルがジークフリートに聞けば、彼はすまなそうにそうだと返した。古い時代の魔術らしく、縁ある騎空艇グランサイファーの団員、カリオストロやマギサにシェロカルテを通してディスペルの依頼をしたのだが、返事は芳しくない。しばらくこのままだろうという手紙が渡されたのみだ。
「俺がついていながら、罠に気づけないなど」
 ヴェインには申し訳ないことをした、とジークフリートはしおらしい態度で自分がとった行動を責めた。
 すると、ヴェインはギュウと鳴いて、鼻先でジークフリートの頭を擦った。それから、ギュ! と元気そうな鳴き声を上げた。なぐさめているのだろう、と皆が思った。ヴェインはそういうやつで、それは人間だろうと魔物になろうと変わりがない。
 ランスロットは、なんだか笑いがこみ上げてきて、はは、と笑うと、ヴェインのきらびやかに光る鱗で包まれたからだを撫でた。
「ああ、ヴェイン。俺はお前がなんでも構わないさ。お前がずっとそうでも、親友には変わりない」
 ヴェインは、きゅう、と子犬のように鳴いて、とがった爪の生えそろった前足でランスロットの手をとった。その仕草といったら、まったくのヴェインそのもので、ランちゃん、という幻聴すら聞こえるほどだった。
「確かに、お手をするドラゴンなど聞いたこともない。駄犬はどう転んでも駄犬のままか。しかしまあ、一生そのままで居ればうるさい声を聞かずにすみそうだ」
「パーシヴァル、そう言って心配なくせに」
「なぜ俺が駄犬の心配などせねばならんのだ」
「心配なことがあると、腕組んで足をぱたぱたやるのお前の癖だぜ」
「やかましい」
 ランスロットがいたずらっこの目をして言うと、図星を突かれたパーシヴァルは顔をしかめて(そして少し赤面して)舌打ちをした。
 ピュウ、と併せてヴェインがはやし立てるものだから、すっかりパーシヴァルは怒ってしまって、一足先に駐屯中の王城へと戻っていった。
「それで、ヴェインのことなんだが」
「ああ、ヴェインのことはジークフリートさんに任せます。竜種のことは俺より詳しいでしょう。それより俺は、今から図書館のほうでディスペルの方法を探します。まあ、そばに居たいのが本音ですけど、さすがに、俺だって身分くらいわきまえてますから」
 そばにジークフリートがいるべきだ、と決めつけたような口ぶりだった。それからランスロットはヴェインの首を撫でて、ジークフリートがなにかを言う前に去って行った。


・・


 思えばあれはランスロットなりの、気遣いと嫌味だったのかもしれない、とヴェインの背中に乗って町外れにあるコテージにゆっくりと向かいながらジークフリートはぼんやりと思った。
「ヴェイン」
 ジークフリートが呼ぶと、ヴェインは歩みを止めて、なんでしょう? というふうにブルーの目をしぱしぱさせて振り向いた。
「すまなかった。お前をこんなふうにして」
 謝罪するジークフリートに、ヴェインは戸惑って、地面を後ろ足でひっかいた。ヴェインにとっては自分のミスであり、そう周りに深刻にされると困る、という気持ちがあった。
 しかしそれを伝える言葉はなく、口から出るのはぎゃうぎゃうという鳴き声か、ぐるぐるといううなり声だった。もどかしさに、ヴェインは尻尾をたしたしと振った。
 それでもジークフリートは察してくれた。
「ああ、では言い換えよう。〝すまなかった。お前が困っているだろうに、嬉しいとさえ思ってしまって〟」
 冗談じみた口調だった。罪悪感が、ジークフリートにそうさせた。人間と竜の血の狭間で生きるジークフリートは、すっかりドラゴンになってしまったヴェインに――もしかしたら人間であったときよりも――親しみを感じたという、罪悪感。
「お前がこういうふうになって、きっと誰より喜んだのは俺だろう」
 そうジークフリートは自嘲する。ヴェインはまた鳴き声を出し、首を背後に向かってひねると、ジークフリートの頬を舐めた。言葉にできない彼なりのなぐさめのつもりだった。
 誰だって、独りはいやですよ。俺だって、独りはいやだ。もしいましゃべれたら、こう言ってやれたのに、とヴェインはそれだけが口惜しかった。
「あのサークルに気づけなかったのか、気づかなかったのか。分からないほどだ」
 自分はわるい人間だ、とジークフリートは思ったが、思っただけだった。これではあの女――イザベラ――を笑えない、とも思ったが、それもまた思考の渦のなかに消えて秘匿された。
 コテージはもう少し先にあった。無言で一人と一頭は獣道を歩いた。


・・


 泉のほとりに、ランスロットに与えられたというコテージがあった。大きいとも小さいともいえない、至ってふつうの山小屋だった。
 ジークフリートはヴェインの背中から降りると、ヴェインにコテージのなかに入るよう促した。ヴェインは首を縮め、羽を折りたたんでぶつからないように気を遣って入っていった。それはどこかおかしみがあった。
 中になにも家具らしきものはなかった。持ち込んでないのだろう。使っている様子もなかったから。ジークフリートはヴェインの蛇と鞍を外して、入り口のところに放った。ヴェインはうんとのびをして、のそのそと歩いて部屋の隅に丸まった。
 ジークフリートはそれに自分の纏っているマント(ぼろきれという者もいるが)をかけてやって、鎧を脱ぎ、ラフな格好になった。
 それから、ヴェインにもたれかかるように、ジークフリートも床に腰を据えた。
 ヴェインの鱗に覆われた皮膚はひんやりとしていて、気持ちがよかった。恒温動物であるヒューマンの自分がもつ体温がドラゴンのヴェインにうつっていくのをただただジークフリートは感じていた。


・・


 いつの間にか眠っていた。ジークフリートが目を覚ますと、差し込む光は太陽のものから、月のものになっていた。
 は、と部屋に異変を感じ、ジークフリートはそばのヴェインに目をやる。
 すると、ヴェインはジークフリートのマントをかじりながら、苦しげに最初よりもより小さくなるように丸まっていた。ぐるぐる、という、辛そうなうなり声が口から漏れ出している。
「ヴェイン」
 ジークフリートが声をかけると、ヴェインは大げさにびくりとからだを痙攣させた。それから、ギュウと助けを求めるように鳴いて、赤い目でジークフリートを――その背後にあるファフニールを――見た。
 ドラゴンは雌雄同位体と言われている。個体数が少ないため、少しでも生存確率を上げるためにドラゴン同士が出会うとどちらか一方が雌、一方が雄となって交配する。そのことは知っていたが、まさか、それが自分の血(のなかに含まれるファフニールの血)にまで作用するとは思っていなかったジークフリートは、想定外のことに面食らう。
 しかし、苦しんでいるヴェインを見て、すぐに思考が冷えた。
「今楽にしてやるから、待っていろ」
 そう言って、ジークフリートは、がうがう鳴くヴェインの下腹に手を差し入れた。比較的柔らかな表皮に包まれた腹の、鱗の隙間に隠れていたスリットが膨らんでいて、ヴェインが発情しているのは明らかだった。
 ジークフリートがずぶりとそこに手を差し入れると、グァ、とヴェインはぶるぶる震えた。中をジークフリートが探るようにかき混ぜていると、次第に子犬が甘えるような声に変わっていく。
「すまんが、辛抱だ」
 がじがじといじらしくジークフリートのマントをくわえてヴェインはくうんと鼻を鳴らした。ジークフリートは、目当てのものを見つけると、それを体外に出してやった。
 くたりと出てきたのは白い一対のヘミペニスだ。シリコンにも似たそれは、今のヴェインの性器。しかし、反応はない。
「ヴェイン」
 キュウ、とヴェインが返事をする。それで、ジークフリートは理解した。〝ドラゴンは強い方が雄として遺伝子を残す〟つまり、彼は、ドラゴンとして未熟な自分自身より圧倒的に強いファフニールの、ありもしない精子を求めて鳴いているのだ。
 そういうつもりはなかった、とジークフリートは自分で自分に言い訳をする。そういうつもりではなかった。ただ、手元に置いておきたいと漠然と思っていただけだ。
 しかし、こうなってしまったからにはしかたがない。すまない、とまた声に出さずに謝罪して、ジークフリートはヴェインを仰向けにした。
「悪いが、こうするしかない。分かってくれ」
 分かってくれ、と諭すジークフリートの目も、真っ赤に光っていた。
 ジークフリートは下履きをずらすと、陰茎を取り出した。固くなったそれを、ジークフリートはヴェインのスリットに添えて、ドラゴンの腹にのしかかるようにして挿入した。
 ヴェインは首を丸めてひときわ高い、それこそ甘えるような鳴き声を発して、ジークフリートの暴虐を受け入れた。
「動くぞ、ヴェイン」
 ジークフリートがそう言って、腰を動かすと、ぐちゅぐちゅと濡れた音が夜のコテージに響いた。ヴェインは尻尾を震わせ、マントをずたずたにしながら全身を駆け巡る熱い快楽を享受した。
 抜き差しをするたびにくうくうと鳴くので、大丈夫だ、すぐ終わるとジークフリートは余裕のない声でなだめた。
「くっ......、うっ......」
 欲しかった雄の遺伝子を求めて、ヴェインの性器はぎゅうぎゅうと搾り取るように収縮した。そのたびにジークフリートも射精するのだが、天井知らずの性的欲求が次々とあふれすぐに固さをとりもどした。ジークフリートの中のファフニールが、完全に孕ませるまでやめるものかと雄叫びを上げているかのようだった。
 人間ではありえないむさぼるような性交を、二匹は朝日がのぼるまで続けた。


・・


 「ヴェイン、すまなかった。俺もこうなるとは予想外だった」
 朝起きると、ヴェインは部屋におらず、泉のなかにもぐってしまっていた。
 ジークフリートが声をかけると、ヴェインは縁に頭だけを出して、がう、とすねたような返事をした。ジークフリートが悪いわけではないことは、ヴェインにもよくわかっていた。事故のようなものだ。ただし、三トントラック同士がぶつかるようなひどい事故。
 ヴェインは、しばらくつんとしていたが、もう一回潜って顔を出すとジークフリートにむかってピュウと水をふきかけた。
 わかってるぜそんなこと、という返事の代わりだった。  


・・


 機嫌を直したヴェインが泉から上がり、一頭と一人はまたコテージへ戻った。
 一晩経ったくらいでは、誰からの連絡もなければ訪問もなかった。夕方にはランスロットが様子を見に来るかもしれないな、とジークフリートは思った。ヴェインは、伏せの姿勢でおとなしくしていた。さすがに昨晩の疲れがあるのだろう、とジークフリートは把握し、持ってきた麻袋からフルーツを出してヴェインの目の前に置いた。
「食べるか?」
 その問いに対する答えはノーだった。ヴェインはなにかもの言いたげな視線をジークフリートに寄越して、クルルと喉をならし首を振った。
「食欲がないのか、それはいけない」
 ジークフリートは言うが、ヴェインはそのままうとうととして眠ってしまった。くうくうと寝息を立てるヴェインの頭を撫でて、ジークフリートも彼にもたれかかって寝た。寝ようとした。
「ヴェイン」
 名前を呼ばれてぱちり、とヴェインが目を覚ます。眠たげで、不満そうにグウと鳴くヴェインの腹をすかさずジークフリートは触った。
 それは思った通り固かった。ヴェインの皮膚がでなく、〝ヴェインの腹の中にあるものが〟だ。
「お前、本当に孕んだのか」
 ジークフリートに言われ、ヴェインはきょとんとした顔をした。腹の中にある卵の存在を、ヴェインは感知していなかったらしい。どういうこと? という声が聞こえてくるようだった。
 ドラゴンは受精してからの産卵が早い。長く胎内に置いておくと、鈍った自分の身が危険だからだ。このままだと、ヴェインは魔物を――――フェードラッヘにあだなすファフニールの子を産むことになる。ぞっとする話だ。
 このままではまずい、とジークフリートは思ったが、親ごと殺すワケにもいかず、歯がみした。どうしようもない。産ませて、殺すしかない。
 そうこうするうちに、ヴェインの様子が変化した、ガウ、ギュウウウウウウとヴェインが咆吼する。苦しげなそれに、ジークフリートは産卵が始まったのだと察した。
「大丈夫だ、ヴェイン。俺がついている」
 ギギギ、と鳴くヴェインの首筋を、ジークフリートは撫でてなだめた。
 ややあって、みちみち、とスリットから卵がはみ出た。グアオ、とヴェインがひときわ大きな声で鳴くと、ずる、と音がして、粘液にまみれた白いおおきな卵が、慣性に従ってごとんとコテージの床に転がった。
 ばたり、とヴェインが倒れる。ジークフリートは、まだ殻の破られないそれを今のうちに壊してしまおうと手を伸ばしたが、ヴェインの尻尾にはたかれた。
 ヴェインは、その卵をそのまま抱き寄せて、キュウと小さな鳴き声を出した。ジークフリートが何をしようとしたのか、分かっているふうだった。
「いいのか、化け物の子だぞ」
 ヴェインは、真剣な目つきでジークフリートを見据えると、大丈夫という風にジークフリートの顔を舐めた。舐められたのは二度目だった。
 ああ、そういえば、ヴェインは自分のことを一度だって化け物などと呼んだことはなかったな、とジークフリートはいつかのことを思い返していた。
 ヒーローじゃないですか、という言葉が脳内をハウリングする。自分がどうすべきか、ジークフリートは分かっていたが、どうにも体が動かなかった。
 いいのだろうか、とそればかり思った。立ち尽くすジークフリートに、ヴェインは頼もしそうにがうと吠えた。いいんだぜジークフリートさん、とヴェインがいったように聞こえた。

 

 

 


おわる
エロくなくてすまん

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