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星のないよる

(ぱぱさんの4/22のツイートより。いっしょにかえるジクヴェ)

「今日もよく頑張ったな」
 ジークフリートは、訓練を終えたヴェインをねぎらうようにいった。「ハルバードの扱いも、ずいぶん多彩になった」
「ありがとうございます! へへ、うれしいぜ。ジークフリートさんに褒められんの」
 ヴェインは装備品を外しながら、人なつこくへらりと笑った。
 ハルバードというのは扱い方が多様な武器だ。斧としてだけでなく、槍の部分もうまく扱えるようになってきているヴェインの成長は、めざましい。男子三日見ざれば刮目して見よとは言うが、訓練を重ねるヴェインはまさにそれである、とジークフリートは思っていた。
「ああ、もう暗いなあ。あんま良い天気じゃなかったし」
 窓の外を見ると、星ひとつない暗い夜空が広がっていた。
 まだ夜もたけなわとはいえ、子どもを歩かせたがる親はいないだろう。そうヴェインは思う。
「じゃ。俺雨が降る前に帰ります。ジークフリートさん、ありがとうございました! またよろしくおねがいします」
 ヴェインが頭を下げると、ジークフリートは「もう遅い。近くまで送ろう」と言った。ヴェインは、なんだかこども扱いされているようでむずがゆく、う~んと唸って頬をかくと、
「だいじょ~ぶだよ。俺、子どもじゃなくて、一応騎士で白竜騎士団副団長だぜ? ひとりでくらい帰れるって」
 とニコニコと断った。ジークフリートさんも心配性だなあと続けるヴェインに、ジークフリートは、いや、その、と少しどもる。
「違うんだ。心配しているわけではない......。もう少し、お前といたいだけなんだが、ダメだろうか?」
 遠慮がちに小さく放たれたその言葉に、ヴェインは、え、と固まった。ジークフリートさんが、俺と? そう考えると、じわりじわりと照れくさくなって、顔を真っ赤にしてしまう。
「あ、あ~。うん。俺も、話とかもっとしたかったし......。だってジークフリートさん、いつ会えるか分からないだろ。それで、いっつも訓練だけして終わりだったから、うん、その、えっと」
「だめか?」
「だめじゃない、です」
 そう答えたヴェインの声は、ジークフリートだけに届いてあとは暗い夜空に吸い込まれていった。

・・


 ヴェインが住んでいる貸家は、いつでも駆けつけられるように騎士団の施設からはそう離れていない。本当にすぐの距離なのだ。
 それなのに、きょうはやけに道のりが遠く感じられた。それもこれも、となりにいるのがジークフリートだからだ。
「星が見えないのはさみしいな」
 ジークフリートが、そんなことを言う。お前と帰りながら見たら、きれいに見えるだろうと思ったのに、とまで言う彼に、ヴェインは首まで真っ赤になった。ああ、この人と言えば、本気なんだか冗談なんだか分からないトーンで、そういうことをいうのだから、たちがわるい。
「あ! そういえば、星っていうのは、ぐるぐる回ってて、そんで、絶妙に離れてて絶対一緒に見られない星とかがあったりするんだって。ランちゃんが昔教えてくれたなあ」
 ヴェインがわざと話をそらそうと、つとめて道化のように振る舞うと、ジークフリートは「では、離れないように手をつなぐか」と聞いているんだか聞いていないんだか分からない返事をした。
「え、ジークフリートさん。本気で言っちゃってる......?」
「だめだろうか」
「う、それずりいよ」
 ん! とヴェインはぎこちなく手をだした。それを包み込むように、大人の手が握る。あたたかな手だった。「どうせだれも見ていまい。月も星も」ジークフリートは機嫌良く言った。ヴェインはさっきから負け通しで、この人にはかなわない、とぐっとうつむいた。
 家はすぐそこに近づいていた。

おわり

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