花はやさし、人はきびし
(植物をそだてるジクヴェ。シリアス気味)
花が枯れてしまったと、ジークフリートが持ってきた植木鉢を受け取ったヴェインは、もうこれはなおらないだろうなと思った。
なんせ花だけじゃなく、茎まで茶色く枯れてしまっているので、栄養剤をまいたところで焼け石に水だ。
「毎日水をやっていたが、急な用事で二日水をやれなかった。そうしたら、しばらくして枯れてしまった」
ジークフリートは、悲しげな表情で言った。自分にはやはりものを育てるのを向いていないのかもしれないとも。
「なに言ってんのさジークフリートさん。ジークフリートさんは、ランちゃんやパーさんをすっげえ騎士にそだてたじゃねえか。向いてないことないって」
ヴェインは猫背になったジークフリートの背中をばしばしとたたいた。ヴェインにとっては偉大な幼なじみを育てた偉大な師である。そして、今では自分もその末弟子だ。
「しかし、花は儚い。お前たちは放っておいても立派になったが、これはずっと面倒を見てやらねば、枯れてしまう」
人の手によって生死が簡単に決まってしまう花の、なんとか弱いことかと、ジークフリートは言った。
「でも、ずっと面倒みてやれば、寿命が続く限りずっと花をさかせてくれるのも、植物のいいところだぜジークフリートさん」
ヴェインは、枯れた花を触って、笑った。
ジークフリートは、ヴェインのこの笑い方は好きではないと思った。なにか、よくないことを言う前触れの笑みだったからだ。
「俺は、花よりもっと複雑だぜ。ジークフリートさんがどんなに手をかけたって、きっとあんたの知らないとこで死ぬよ」
「それは......。それも、そうか」
ヴェインは、白竜騎士団の副団長だ。だから、きっとしぬなら国か、それとも団長のランスロットを守って死ぬだろう、とジークフリートは思った。
彼は自分とは生きてくれまい。自分も、騎士団に戻るつもりはない。だから、ヴェインはそんなことを言うのだろう。
そうかんがえると、自分の手の中で枯れてしまった花のなんと優しいことか。
「そうか、お前は俺の手の中で枯れてはくれんか」
「そうだよジークフリートさん」
残酷に笑う青年を、ジークフリートはどうにもできない。
おわり