公園のねこ
(リクエスト:じくねこさんとう゛ぇわんちゃん。現パロ。ランスロットとパーシヴァルが小学生)
ランスロットは赤信号が変わるのを待っていた。同級生のパーシヴァルが、ランスロット、と彼の名前を呼んで隣に立った。
「またお前は駄犬を連れてるのか」
早朝ランニングを欠かさないパーシヴァルと、ランスロットの飼い犬ヴェインの散歩コースは似ていて、ここでよくかち合う。ヴェインは見知った少年――――パーシヴァルが来たことで興奮したのか、わんわんと吠えて彼の足にまとわりつき、ちいさな膝小僧を舐めた。
「うわ、やめんか! ランスロット、おとなしくさせろっ」
「はは、ヴェイン。すごいしっぽ振ってる」
「笑ってないでなんとかしろ!」
ラブラドールレトリバーであるヴェインは、子犬といっても小学生のパーシヴァルには大きくてあぶない。出会うたびにじゃれつきわふわふと尻尾をふるヴェインのことを、彼は駄犬と呼んだ。
「こら、ヴェイン。おすわり」
ランスロットがリードを引っ張ってそう言うと、ヴェインはおとなしくすっと地面に座った。パーシヴァルの言うことは聞かないヴェインだが、飼い主のランスロットに対しては非常に聞き分けがいい。
「全く、あしがべとべとだ」
ふんと怒って(本気で怒っているわけではない。パーシヴァルもこの子犬のことを内心かわいいと思っているからだ)、パーシヴァルはハーフパンツからハンカチを取り出して舐められた場所を拭いた。
「ごめんごめん」
と言うランスロットが言ううちに、赤信号が青になり、二人は手を上げて横断した。
「また公園か」
と、パーシヴァルが聞くと、ランスロットは笑って、「あそこ、ねこが待ってるんだよ」と返した。じゃれあうのがかわいくて、と続けるランスロットは首からインスタントカメラを提げている。写真をとるつもりなのだろう。こいつはいつもそうだ、とこの前家にあがったとき、ヴェインのアルバムがまた増えていたのをおもいだし、あきれる。
土手に二人はあがると、パーシヴァルはそのまま土手走へ、ランスロットは近くの公園へと別れた。夏休みになってから、毎日がこうだった。
・・
ランスロットがヴェインを連れて公園に行くと、そば木の上から、なおう、という鳴き声がした。
それを聞くと、ヴェインがぱたぱたと尻尾を振ってぐいぐいとリードをひっぱった。首輪からリードを外してやると、ヴェインは一目散に木にかけより、ぐるぐるとその周りをまわった。
夏休みになってから見かけるようになったその茶色いねこは、人になれたようすで、黒いスカーフがついていた。金糸でジークフリート、と英語で書いてあるのでそれが名前だろうと思われた。
もふもふとした長い毛並みに、子犬のヴェインと同じくらい大きねこだった。図鑑でしらべたが、おそらくノルウェージャンフォレストキャットという猫の種類らしい。どこかで外飼いされているねこだろうとランスロットは勝手に思っていた。
ジークフリートはヴェインの姿を認めると、ひょいと木の上から降りてきて、尻尾を振りっぱなしのヴェインのそばに伏せた。
すると、ヴェインはぺろぺろとその毛を甲斐甲斐しく舐め出すので、ランスロットはパシャリと写真を撮った。いつもの光景だったが、かわいいものはいつ見てもかわいい。
ヴェインがけづくろいをおこなうと、ジークフリートはヴェインのにおいをかいで、体をすりつける。それがマーキングという行為だとランスロットは最近書店で買ったねこの飼育雑誌で知った。
オス同士なのになんでマーキングなんかするのだろうか、とランスロットははじめ不思議に思ったが、小学生の頭ではよくわからず、じゃれあいみたいなものかとにこにことそれをいつも見ていた。
ヴェインは活発な子犬だったが、ジークフリートがいるときは別で、どしりと伏せる大きなねこに、ひっつくようにして団子になっていた。
ああ、かわいいとランスロットはまた写真を撮る。現像したらパーシヴァルに見せてやろうと、ヴェインアルバム第十刷に思いをはせた。
おわり