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リンゴか、タケノコか

(あぐとしこでらんとしこ。R18。不倫/レイプなんかいろいろ注意。としこは男です)

民法233条
「隣地の竹木の枝が境界線を超えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」
「隣地の竹木の根が境界線を超えるときは、その根を切り取ることができる」


 黒板に書かれた文字を見ながら、俺はため息をついた。法律は難しい。レジュメに目を落とし、黄色いマーカーで、線を引いた。
「えー、つまり......。自分の家にせり出してきた枝を勝手に切るのは法律違反ですが、根っこは切ってもいい、ということになります。しかしながら、枝がせり出してきたということ自体は不法侵入に当たりますので、話し合いで解決するのが一般的です。また、自分の家に敷地内に入ってきたとからといって、成っている果実をとれば窃盗罪で、落ちた実を拾うのも占有離脱物横領罪になりますので......えー、」
 座りが悪くなってスカートの裾をなおすと、俺はレジュメの端に窃盗罪、占有離脱物法両罪、と書きつける。そこでチャイムが鳴って、出席代わりの感想ペーパーを前の席にまわす。最低限の荷物しか入っていないトートバッグに、今日のレジュメを入れると立ち上がった。
 今日はもう授業はない。スマートフォンを確認すると、ランスロットからのメッセージが入っていて、思わずほほが緩む。
「ランちゃんはもう寝るとこかあ」
 ニューヨークの夜景を想像しながら、おやすみ、といういぬのスタンプを送る。画面をオフにすると、バイトの連絡を確認する。サークルや友達とつるんでいる人波をかき分けながら、正門を抜ける。春めく新学期の楽しそうな雰囲気がうらやましいとは別に思わない。興味はあるけれど、そんなことよりお金が必要だった。
 過保護のきらいがある幼なじみは、自分がいくらでもだすなんて言うけれど、俺は対等でいたかったし、隣に胸を張って立ちたかった。たいそうな夢があるわけではなく、ただ、身寄りのない自分を支えてくれたたった一人の幼なじみの厚意に報いたい、と思うだけ。
 就職を急いだ俺に、大学を出て職に就くことを強くすすめてくれたのはランスロット。海外勤務になってからは会うことも少なくなったけれど、それでも俺の面倒を見てくれる。
「でも、俺だってやればできるんだから」
 ブラウスの襟をひっぱって、しわをのばす。これからバイトだから、しっかりしないと。


・・・


 力持ちだったり、背丈の高いハウスキーパーは意外にも需要があるらしく、派遣会社に登録したら結構な申し込みがあり、俺はいろんな家で日替わりに便利屋さんのようなことをして金を稼いだ。
 風呂やレンジフードの分解掃除、家具の移動や、組み立て。エアコンのクリーニング。ランスロットにもらったフリルのついたエプロンを身につけ、おなじみの三角巾をかぶって掃除を済ませる。掃除や料理は趣味なので、そんなに苦ではなかった。
 自分がしたことが、誰かの役に立つというのはやはり気持ちの良いことだったし、「としこさん、いつもおつかれさま」と労われるのはほんとうに嬉しい。やりがいのあるアルバイトだ、と思って積極的にいろいろな家にシフトを入れた。
 そのなかで、一番高いお給金で俺を雇ってくれているのが、アグロヴァルさんという資産家だった。彼は諸事情で療養中で、身の回りの世話と掃除などをしてほしいという、簡単な依頼でぽんと札束を渡されてしまうので、はじめはなにかだまされてるんじゃないかと受け取るのを断ったくらいだ。 それならと加えられたのが、彼の話し相手になるということだった。俺はあんまり頭がよくないし、難しい話なんかできないと言えば、なんでもいいから聞かせてくれと言われるしまつ。「退屈しているのだ」と東京の空が映る窓を見ながら言われれば、「俺なんかでよければ」と返すことしかできなかった。きっとこのひともさみしいんだ、と、共感したからかもしれない。
 アグロヴァルさんは、冷徹そうな雰囲気とは反対に、とぼけたジョークも言えば、笑いもするひとだった。俺のしらないことでもばかにしたりせず教えてくれたり、逆に自分の話をしっかりきいてくれたりと、彼の寝所の横にすわって言葉を交わすのが楽しかった。
 俺は料理や、幼なじみのランスロットのこと、学校のことなどを話した。彼は、たまに弟の話をしてくれた。けれど、家族の話はしてくれなかった。左手の薬指にはめられたシルバーリングが、彼を既婚者だと示しているのに。
「いつも、おなじブラウスとスカートだが。としこ、服はあまり持たないのか?」
 さらりと触られたAラインスカートの裾にふれられると、「あんまり頓着しないっていうか、まあ、サイズあうのあんまりないし。ほとんどおなじの使ってます」と笑うしかなかった。女物の服は結構高い。サイズも、いかにも男性的な体型の俺にあうのはあまりない。
「でも、それでも着たいんですよね。男でも、かわいい格好したいって思ってもいいんじゃないかって俺、思ってて。としこって偽名までつかって買ったりとか......。似合わないのは分かってるんですけど」「いや、とても似合っていると、我は思う」
「ほえ? ほんとかあ?」
「本気だ」
 アグロヴァルさんは、真剣な目をして俺をみた。金髪が、解放された窓からそよいだ風に揺れる。二人の手が触れあうまで、さほど時間はかからなかった。
 こつん、と彼の左手に輝くシルバーリングに、「奥さん、いらっしゃるんでしょう」と言って、触れた。今まで会ったことはなかったが、いるということは知っていた。その薬指のリングが結婚指輪だとわからないにんげんはいないだろうから。
「妻か......。別居している」
「子供は?」
「息子がひとり。でも、政略結婚で、好きで結婚したわけではないんだ。としこ」
 我を慰めてくれ。懇願するようなひとみだった。ダメだ、と思いつつも、その手を払いのけられない。
「こういうのって、ばれたらだめなんじゃないですか......?」
 声が震えた。いけないことを始めようとしているのは、分かっていた。それでも、アグロヴァルさんから目が離せない。
「貴公がだまっていれば、誰もきづくことはあるまい」
 秘密の抜け道を見つけた子供のようないたずらっぽさをみせて、彼は言う。「さみしいんだ」とも。
 このままではよくないのでは、と頭の中の冷静な自分が警鐘を鳴らした。援助交際とか、不倫とか、いろいろなことがあたまにうかんでは、消えた。けれど、やはりこの男にはどうしてもさからえそうになかった。なぜなら、彼がひどくさみしい人間だったっから。そのさみしさを埋められるならば、それがセックスだってかまわないと思った。
「不倫だなんて、ランちゃんに言ったら怒られるかなあ」
 俺はそういいながら、アグロヴァルさんのベッドにするりと足をあげ、彼の頭を抱いた。まだ本来なら勤務中で、真昼の日差しが寝室にさしこんでいた。
「キスをしても?」
 アグロヴァルさんが、そうやって確認をとるのがなんだかおかしかった。どうぞ、と首を折れば、細い手のひらがほほに当てられ、触れるだけの口づけをされた。
 離れると、俺のつけている口紅がうつっていた。たったそれだけなのに、俺はどこか興奮していた。昔、なぜ悪いことをしたらすこし楽しいんだろう、と幼なじみのランスロットに聞いたことがある。彼はなんといったんだっけ。
「アグロヴァルさん」
 声は震えていた。女装はしているけれど、性的嗜好が男性というわけではない。まったくの処女だ。経験がないことを伝えようとすると、すでに男の手はブラウスのボタンを器用に外していた。あらわになる質素なベージュのブラジャーが、ばばくさくてはずかしい。ば、と前をかくそうとすると、「よくみせてくれまいか」と言われてうめき声をあげるしかない。
「だって、かわいい下着とかじゃなくて。ほんとにすいません......サイズなくて......」
「我がこんどオーダーメイドの下着を用意させよう」
 するりと頭をなでて、アグロヴァルさんは俺の脇腹をなでさすり、そこから胸を愛撫される。とがった二つの乳首は、初心で感じることはなかった。当たり前のことだった。そんなところ、意識してさわったことなんかないのだから。
「こっちは、また今度にしよう」
「また今度があるんですか」
「貴公も。きっとまた来たくなる」
 ストッキングをずらし、ローションでぬるついた指が、下着をずらしてすぼまりから侵入して内臓をぐじゅぐじゅと音をたてて這い回る。直腸なんかだれにも触らせたこともないのに、なぜだかとても気持ちがよくて、俺はぶんぶんと首を降って、快楽を逃した。
「我が、お前の服も面倒をみよう。口紅も、もっとすてきな色があるはずだ。なあ、としこ。貴公は、我を受け入れてくれるか?」
 すがるような目線だった。後肛に当てられた熱が何なのかとわかったとき、ひ、と思わず悲鳴がでた。ぐ、と胎内にはいっていく熱く滾った陰茎が、隘路をわりいって、ぬちぬちと音を立てて動いた。粘膜を擦られれば、苦しさのなかにも気持ちよさが芽生えてきて、とくに、ある一点をかすめるときなんかは、しびれるような衝撃に見舞われた。
「前立腺だ」
「う、ぜっ、ん......ッ、りつ、せん......? う、あ、あ!」
 内臓を押しつぶされると、媚びるように肉壁はアグロヴァルさんの陰茎に吸い付いた。俺には子供を成す器官なんてありやしないのに、からだはどうにもほしがりだ。うめき声はだんだん甘く切ない響きをもってゆき、これが自分の声なのか、と俺は揺さぶられながら思った。
 やがて、腰を何度かうちつけたあと、アグロヴァルさんは射精した。俺も、初めてのくせになかにほとばしる精液におしだされるようにして、達した。これがセックスっていうものか、と客観的に見る自分と、きもちがよかった、としか考えられない自分とがいた。
 俺を抱き終わると、アグロヴァルさんは丁寧に後始末をして、すまない、と頭を下げてあやまった。
 不倫をじぶんがするとは思っていなかった。自分は、フツウにいきて、それなりに死ぬのかなと思っていたし、このとしになってランスロットに言えないことができるなんて、思いもしなかった。
「......アグロヴァルさんは、お嫁さんとうまくいってないんですか」
 俺が聞くと、彼は「ああ」と返した。もともと恋愛結婚ではなく、政略結婚で、跡継ぎがいるからこどももつくったようなものだ、とやはりかれは青の目を曇らせて言った。
「それが不倫をしていいなんて理由になるとは考えられないが、すまない。としこ、いやヴェインというべきなのか......?」
「あやまらないでください」
 俺はスカートをなおし、ブラウスの前をとめながら、「俺も共犯者ですから」と言った。
 まだ退勤までは30分あった。


・・・


「あのひと――アグロヴァルさん、かわいそうだったんだ。俺はさ、こんなんでも、誰かに必要とされるのが嬉しかった。不倫だとしてもさ」
 俺は、ぽつぽつとことの次第をかたると、家のソファに座った。
「だめだってわかってたよ。きっとランちゃんは怒るだろうなってのも」
 ランスロットは、震えながら、拳を握りしめて俺を見ていた。そりゃそうだよな、信用していた幼なじみが、ニューヨークから帰って再会したら、不倫なんかしていたんだから。
「じゃあ、俺がお前を欲しいっていったら、くれるのか」
「はは、冗談キツいぜ~。ランスロットと俺は、そういんじゃないだろ」
「そういうのって何だよ。その、あぐなんとかさんってやつとできて、俺とできないことがあるのか?」
 顔をあげたランスロットは、悲しいと怒りがないまぜになって、マーブル模様を描いたようないびつな表情をしていた。
 いつかバレるだろう、と思って、また、ランスロットなら許してくれるかも、と思って先に話したのはよくなかったのかもしれなかった。「あるぜ。エッチなんて、できないだろ。親友なのに」
「ふうん、そういうことを言うのか、お前。俺がいるのに、俺じゃないヤツでも、そうやってするんだろ、なあ。今日みたいに、ホテルで」
 これは、相当、怒っている。咄嗟に逃げようとした俺を、ランスロットはひっ捕まえてからだに乗り上げる。
「なにが、必要とされたら嬉しいだ。お願いされたら、誰にでもそういうことするってことか? それなのに、俺が必要としたら、応えてくれないってどういうことだよ」
「そういうことじゃなくて......、なあランちゃん、しっかりしてくれよ。おかしいって。ランスロ――ッ、ひぐぅッ!!!」
 びりびりとタイツを乱暴にやぶかれ、パンツをずらされると、ぐち、と度重なるアグロヴァルさんとの行為でやわらかくなってきている尻の穴に指を遠慮なくぶちこまれた。
「が、はあッ、......ッ!」
「なあとしこ......。俺がだめなことなんて、ないはずだろ。ほかのやつにできて、幼馴染の俺にできないことないよな。だって俺たち、ずっといっしょで......それで......」
「あ、アッ、......ランちゃん! ヤダッ、だめだって、......ッ!!!!」
 あいてのことを考えないような乱暴な律動に、俺はぜえぜえと息をはいて耐える。ぐちゅん、ぐちゅん、とだめな音が部屋に響いていて、俺は泣いていた。だいじな親友とセックスしてるだなんていやなのに、それでも、体は快感を拾ってしまうのが卑しくて、かなしかった。
「なんで、なあ、俺なにか間違ってたか? 知らないうちにほかの男に盗られて......。としこ、お前は俺のだって......思っていたのが......」
 ぽたぽたと、涙が落ちる感触がした。ランスロットの汗なのか、それとも、涙なのか。俺にはわからなかった。


あとがき:当社比でつたない。としこにくるわされましたね

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