捏造ハーゲンルート
(捏造にもほどがあるけどヴェインくんの人生の岐路【両親の死】で分岐するひとつの可能性ハーゲン√)
コツ、コツ、コツ、という足音がして、少年は弾かれるように素早くベッドの下に隠れた。
足音は少年のいる部屋の前で止まり、やがてドアが開く音がした。少年はぶるりと震えて小さな体を丸めてうずくまる。ベッドの隙間から靴を履いた大きな足がゆっくりと近づいてくるのが見える。そして、その足は息を殺して隠れる少年の目の前で止まった。
「おや、ここに居たのは猫か何かだったかな......」
足の持ち主は、おどけた調子で大きな独り言を言うと、「出ておいで。恐くないから」と少年ーーヴェインに語りかけた。
「おかあさんと、おとうさんは」
ヴェインはぎゅうと手を握りしめ、震える声で言った。血だまりが広がっていて、返事のないリビングが思い出された。
「ああ......、お母さんとお父さんは、魔物に殺されてしまっていたよ。ひどい事故だ......」
「本当に......?」
世界は少年の思うより残酷だ。足の持ち主は、本当に残念そうな声色で少年を諭した。それが真実かどうかを少年が確かめる術はない。嘘だ、と少年は思った。けれど、大人がひどい嘘を平気でつくことが出来るなんて知らない幼い少年は、疑うそばから信じてしまいそうになる。
「でも大丈夫。お兄さんが、どうにかしてあげよう。秘密だけど、お兄さんは人を生き返らせる力を持ってる」
力強い口調だった。おびえは、もうなかった。もしかしたら、本当なのかもしれない。ずるい大人には、少年にそう思わせるだけで十分だった。そろり、とベッドの下から恐る恐る顔を出した少年が見たのは、恐ろしさなど全くない、優しさの仮面を被った男の姿見だった。もしかしたら、と思っていた少年の心は、今、この時男の望む通りの方向へと転がり落ちようとしていた。
「そうだ、安心してくれ。今日からお兄さんが家族だ。ハーゲンとよんでくれ」
「ハーゲン」
「そうだ、それでいい。名前は?」
「......ヴェイン」
そうか。じゃあ、おとうさんとおかあさんを生き返らせに行こう。男は笑って、ヴェインの頭を撫でた。