オンリー・マイ・ディテクティブ
(ジュエルリゾート後、バロワアビフェイト後くらい。シャノ→バロ)
さて、犯罪組織の追っ手から無事逃れて、優秀なる助手の推理力とグランサイファーの団員たちの健闘、そしてバロワの腕力によって組織は壊滅。事件は解決!
......と、なったわけだが、探偵事務所に戻ったバロワとサーヤを出迎えたのは、数ヶ月にもわたって滞納していた家賃であった。
犯罪組織を壊滅させた恩賞金はすべてその返済に充てられ、名探偵バロワとその助手サーヤは元の貧乏暮らしへと逆戻りしたのであった。
はじめは手柄を立てた探偵と、依頼が次から次へと舞い込んでいたが、元々推理を放棄する癖のあるバロワであったから、依頼人に愛想を尽かされてしまうことがほとんどだった。
推理のいらない場面でも、なぜかいつも依頼は失敗。一度得た名声も、七十五日も保たす失墜したのであった。
・・
「ああ、どうしろっていうんだ!」
サーヤに渡す給料明細に並ぶゼロのすくなさに、バロワは頭をかかえてデスクに突っ伏した。
かわいそうなサーヤ。どうしていいかわからず、バロワはリフレッシュのため残り少ない粉のインスタントコーヒー(泥のようでとてもまずい)を茶渋のついたカップに入れて一気にすすった。
「質の悪いコーヒーは胃を悪くするよ」
突然、背後から甘くささやくような男の声が聞こえて、バロワは反射的にカップを背後にむかってぶん投げた。
「シャ、シャノワーーーーーールッ!!!!!」
カップの割れる音はしなかった。
シルクハットにモノクル、黒いマントといった仰々しい格好をした男――怪盗シャノワール――が、カップをいとも簡単に受け止め、もてあそぶように指に取っ手を引っかけていたからだ。
バロワは突然の侵入者に大声を上げて、ライバルたる怪盗をいざ捕まえんと麻酔弾の入ったデリンジャーの引き金をひいて、パン! パン! と2回撃った。
「君、客人に対して失礼じゃないか」
「貴様を客に呼んだ覚えはないっ!」
バロワは再度デリンジャーから再度麻酔弾を撃つが、どんな記述を使ったのかそれはマントのなかに消えると、ラクリモサになってぽたりと地面に落ちた。
バロワの銃の腕が悪い? そうではない。
彼は元軍人であるからして、十分に銃の腕を磨いてきている。
つまり、怪盗が一枚上手をいっているのだ。
「今日は、君に仕事をあげにきたんだよ。名探偵。最近、振るわないようじゃないか」
シャノワールはスタフをくるくると回すと、反対の手にいつもの予告状が現れた。
ふわりと嗅ぎ慣れた香水のかおりが部屋に漂う。
「う、うるさいッ! 少し調子が悪いだけだ。少しな!」
「頼むから、私の挑戦には、絶好調で挑んで貰いたいものだね。名探偵」
そう言うと、シャノワールは予告状をバロワに投げつける。
「君の敗北を予告しよう! 名探偵バロワ! 次に会うときは、その場所だ。逃げてくれるな」
「誰が逃げるものか! なんならいますぐとっ捕まえて......、うわっぷ!!」
不敵に笑うシャノワールに飛びかかったバロワは、突如立ち上った煙幕にやられて地面に倒れ伏すこととなった。
「君がくることを楽しみにしているよ! 唯一にして最高のライバル君」
シャノワールの声が――声だけが部屋に響く。
バロワはまたかの怪盗を取り逃がし、悔しさに顔を歪めるのであった。
・・
「嬢ちゃん、危ないよ」
「いえ、大丈夫ですの!」
人混みに紛れてちょこちょことあるく、かわいらしいハーヴィンの娘は、あどけない顔立ちからは想像も出来ないような、妖しい笑みを浮かべ、町の外れへと向かいながら独り言をこぼした、
「――そう、君はそうして私の事件(こと)だけ追っていればいいんだ。名探偵」
欲をもったウィスパーボイスは、喧噪のなかに消え、そして娘のすがたもやがて見えなくなった。