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弟子をとった探偵

(リクエスト・変装して探偵の臨時助手になる怪盗)

 キャンドル探偵団の一件があってから、バロワは自分(とあの忌まわしき怪盗)に少なからずファンというものが存在するということを知った。
 怪盗と、ソレを追いかける探偵というものは、自分が思っているより存外ロマンあふれるものらしい。
「先生は、すごい探偵だって、ぼく聞いたんです。あのすごい怪盗シャノワールを追い詰めたんだって」
 まだ十歳くらいだろうか、エルーンの少年は、はぐはぐとバロワが出してきたバームクーヘンを食べながら言った。
 弟子にしてください! と、突然バロワの探偵事務所を訪ねてきた少年の名前は、カルトと言う。
「僕も、立派な探偵になりたいんです。それで、たくさんの事件を解決するんだ。お父さんやお母さんにも先生のところにいくって言って、出てきたから大丈夫!」
 だから、弟子にしてというカルトをどうにもバロワはむげには出来なかった。というのも、ベイカの探偵が弟子を取っていたのを見て、弟子も悪くないかもしれないと思っていたからだ。
 しかし、こんな年端もいかない少年を預かっていいものか、とバロワは悩む。下手したら誘拐だのなんだの言われるのは自分のような気がする、とバロワは感じた。
 しかし、両親の『息子をしばらくよろしくお願いします』という手紙つきであれば、断りにくく、結局バロワは少年カルトの熱意に負けてイエスと言ったのだった。

・・


 カルトはよく働く少年だった。十だというのに、しっかりとしていて、依頼人のもてなしもよくやったし、推理のいろはを勉強しようと、バロワが買うだけ買って読まなかった本もよく読んだ。
 助手のサーヤは、なんだか弟が出来たみたいだと嬉しそうに彼に構った。バロワも、弟子と言うよりは家族が一人増えたようなものだ、と感じていた。すっかり二人とも、このカルトという少年に骨抜きにされていたのだ。
 カルトは、寝る前によくバロワと怪盗シャノワールの話を聞きたがった。バロワも、寝物語にはなるだろうと、少年を寝かしつけるついでにしてやった。ジュエルリゾートの事件、パラパゴ島での一件、そして、キャンドル探偵団の件............。
 特に、カルトが聞きたがったのは怪盗シャノワールとの最初の対決の話だった。それは、まだバロワが軍人だったころの話だ。
「俺は今でさえ、探偵というものをやっているがな、昔は軍律と上司に従う、真面目な軍人だったんだ。ドラフ型ゴーレムだ! なんて笑われたりしたがな、まあ、それでも充実した毎日だった。任務も失敗なんてしたことがなかったしな。そこに現れたのが怪盗シャノワール! あいつが俺の初めての失敗で、最後の失敗だった! 宝石の護衛任務で、すんでのところで逃げられってしまった! 周りは追い詰めたと褒めたが、俺は納得いかなかった。それで、一転、探偵になったんだ」
「先生、負けず嫌いなんですね」
「そうかもしれんな。あのいまいましい探偵め、絶対に捕まえてやる」
 そう言いながら、バロワはぽんぽんとベッドに横たわるカルトの背中をたたく。もう子供は寝る時間だった。
「おやすみ、カルト」
「おやすみなさい、先生」


・・


「名探偵、君はきっと勘違いをしている。君はほんとうは退屈だったんだ。危険とスリル、そしてとびきり謎が大好きな、バロワ」
 バロワが明かりを消し、部屋をでると、カルトはうっそりと猫のように笑って、言った。それは十歳のこどもがしていい顔ではなかった。
「バロワ。私が世界で一番、スリリングで謎めいたショウを見せてあげよう。君が追う謎は、私だけで十分だ」
 次の日、カルトは忽然と消え去った。怪盗シャノワールの残したメッセージカードだけが、ひらりとベッドの上に落ちていた。

おわり

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