怪我は男の勲章
(筋弛緩剤について。恋人同士設定)
「俺も俺なりに考えてみたんだが」
バロワはそう言うと、透明なケースに入った注射器を取り出した。
それはなんだい、などと野暮なことを聞くほどシャノワールの察しは悪くなかった。
「筋弛緩剤だね、バロワ」
「正解だ。......いつもと立場が逆のようでむずがゆいな」
「それを君に使えと?」
シャノワールが問えば、バロワは「そういうことだ」と言ってそれを放って渡した。
「その、セックスのたびに、魔術医の世話になるお前を見るのはごめんだからな」
バロワは、シャノワール腕のあたりを見ながら言った。それはこの前の性行為でバロワが力を入れすぎてシャノワールの骨を折った部分だった。
シャノワールは気にしてはいなかったが、バロワはそうではなかったらしい。これを購入するときどんな気持ちだったか、考えるだに愛おしい。シャノワールは、上がる口角を抑えきれなかった。
「わ、笑うなっ。こっちは真剣にな......」
「分かっているよバロワ」
君があんまりにもかわいいから、とシャノワールが言えば、バロワは顔を赤くして「な~にがかわいいだ! そんなことをいうのはお前くらいのもんだ!」と怒った。
「そういうところがかわいい」
「ぐぬ、とりあえずそれを使えば俺はお前に怪我をさせずに済むってことだ。以上!」
ふん、と鼻を慣らすと、バロワはさあ打てと言わんばかりにむき出しの腕を突き出してきた。シャノワールはいよいよ可笑しくなって、くすくすと笑った。
「君がそんなアブノーマルなことを提案するなんて思わなかったな」
「恋人を骨折させるほうがアブノーマルだろう!」
「君の気遣いはとてもうれしいし、弛緩した君とセックスするのは興味がある」
だけどね、とシャノワールは続けた。
「まだそんなものに頼ってまで、君とセックスをしようだなんて思うくらいには参ってないはずだよ、私はね」
シャノワールは、透明なケースを放り投げると、バロワの腕をぐっと引いて軽くキスをした。
おわり