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ヘドロの憧憬

(もしゼ○サムが成人向け雑誌だったらこうなるなっていう監禁陵辱ネタ。完甘先生が独歩を陵辱します。辱めることが目的で、少々やさしくないです。拘束・スカ・玩具責め・薬物など。挿入はありません。気分の問題でそこまで振り切れなくて手ぬるいですすいません)


 見下ろされるのが嫌いだった。何もかも見透かすような、神宮寺寂雷の冷たい視線を思い出す。完甘は、まだ若かった頃のことを思い出して舌打ちをした。
「完甘先生はすごいですね」
 オペの後、そう褒められてもあとに続く言葉のことを完甘はよく知っていた。でも、神宮寺先生は格が違いますよ、と。誰かに直接、面と向かって言われたことはないが、ひそひそと噂をされるので自分が周りにどう見られているか、そしてどういう存在なのか完甘は理解した。
 自分は物語の主人公ではない。
 そして、神宮寺寂雷の引き立て役という、屈辱的な役目を押しつけられているのだ。
 シシカイ、という植物がある。それは、インドでは美髪を保つためのオイルとして使われるのだという。テレビのワイドショーでそれを知ったとき、まるで俺みたいじゃないかと完甘は自嘲した。神宮寺寂雷のつややかな長い髪を思い出して、どうしようもなく憎いと感じた。
 どんな手を使ってでもいいから、寂雷より上に立ちたかった。そのためならプライドも、倫理も投げ捨てて汚い真似をしても構わなかった。もはやそこには医師として人を助けたいという志はなく、ただただ寂雷への妬みがあるばかりであった。
 完甘はまず、オペのミスを寂雷になすりつけることを計画した。職員を賄賂で買収し、偽の証言をさせて寂雷の権威を失墜させようとしたのだ。
 けれど、完甘は寂雷のたぐいまれなる人徳の前にあっさりと敗北することになった。あんなに金を握らせたのに、あいつは一切なにもしていないのに、どうして皆俺を裏切るのだ、と嘘の証言を頼んだ人間たちが次々と完甘を見限って寂雷の味方をするのを見て人間不信に陥った完甘はますます寂雷への怨念を募らせた。
 職場を首になったあとしばらく完甘は無職だった。ぼんやりと、ゴミ袋でいっぱいになった部屋の床に転がって、進退のことを考えた。今更ほかの職なんかにつけるとも思わなかったし、医者である自分がコンビニのアルバイトなんかすることは完甘のプライドが許さなかった。医者という身分は彼の誇るべきステータスだったのだ。高慢で執着のつよい完甘は、なんとかコネと金を使って、医者として再就職した。二度目の職場のリョウゴク総合医院は、完甘にしばしの安寧をもたらした。そこには神宮寺寂雷がいなかったからだ。
 寂雷のいない生活は心地がよかった。自分がもてはやされ、認められる。完甘先生はすごい、と言われると胸がすっとした気持ちになった。
 だのに、なぜか満たされなかった。どんなに褒められても、すごいと言われても、寂雷の方が、という幻聴が耳から離れないのだ。電気を消した暗い自室で完甘はガリガリと爪を噛みながら、くそ、と悪態をついた。こんなの、どこにいっても同じじゃないか。
 完甘は、なんとしても寂雷に勝たなければならなかった。そうしなければ自分がかわいそうではないか。勝たなければ自分が救われない。勝利の味をしらない完甘は、苦悩のなかディビジョンラップバトルの予選報道を見た。
 テレビが出場者をぱっ、と代わる代わる映し出す。その、バトルにエントリーしているチームのなかに、よく知った顔があった。相変わらずすました顔で、取材を受けている。神宮寺寂雷、お前は医者だけでなく、ラップバトルでも頂点をとるつもりなのか。完甘は、はは、と乾いた笑いを浮かべてニュース番組をじっと聞いていた。こいつをラップでたたきのめせたら、きっと気持ちがいいだろうなあ、と夢想した。自分の恨み辛みをリリックにのせ、ぶつけてやりたい。そう思った完甘はすぐに裏のルートからヒプノシスマイクを取り寄せた。
 完甘が幸運だったのは、彼の取引先の大手医療機器メーカーの担当営業が寂雷のチームメイトである観音坂独歩だったということだ。長く伸びた前髪で顔がよく見えない、ひょろっとした冴えない風体の男だ。
「神宮寺寂雷先生と同じチームなんだろう。観音坂くん」
「あ、ええ。はい、先生にはとてもよくしていただいて。本当は俺なんかがチームに入っていいのか迷ったのですが。先生が強く希望なさって」
「素晴らしいじゃないか。寂雷先生が認めたラップスキルを、僕も見てみたいものだよ」
 営業でやってきた彼にそれとなく探りを入れると、独歩は少し声を弾ませて、寂雷先生は俺なんかに優しくしてくださる本当にいい方です、と言った。その発言は完甘をいらだたせた。ほら、みんなそう言うのだ。あいつはあのときから何も変わっていないのだと思い知らされて、笑顔の裏で舌打ちをした。
 それから完甘は機器の点検の仕事を終えた独歩が帰ったあと、いらだちのあまり心電計をガン! と蹴飛ばした。
「くそ、くそ、くそ! なんであいつが! あいつが寂雷と同じチームなんだ! 優しくされた? 俺は一度もそんなことされたことない、あいつにはひどい目にあわされてばかりだ。あいつが、あいつさえいなければ俺は、俺は......」
 独歩のうれしそうな顔がしゃくに障った。完甘たまりにたまった怒りを爆発させ、何度も何度も心電計を蹴り上げる。大切な機器が壊れてしまうことなんか頭になかった。医師としての矜持もなにもかも忘れて、ただただサンドバッグのように蹴りつけた。しまいには両手でひっつかんで思いっきりなぎ倒す。ガシャン、とそれは大きな音をたてて床にぶつかったが、それでも少しも彼の気持ちは晴れることはなかった。
 憎い、神宮寺寂雷が憎い、寂雷に大事にされている観音坂独歩が憎い。めちゃくちゃにしてやりたい。あの寂雷の顔が憎しみにゆがむところが見たい――。
 寂雷をただたたきのめすだけでは、もはや足りないところまできていた。寂雷のだいじなものをぶち壊して、絶望するところが見たいと思った。
「絶対に許さないぞ寂雷......。自分が死んだ方がましだってくらいの地獄を見せてやる。覚悟しろ。はは、ははははッ!」
 完甘は、違法マイクを握りしめ、計画を練り始めた。ぎらぎらと復讐の炎で目を光らせながら。


・・


 寂雷のチーム・麻天狼は順調に予選を勝ち進んでいた。それに比例するように、完甘の計画も驚くくらいとんとん拍子で進行していた。独歩の会社の上司は、賄賂を渡せばすぐに独歩を陥れる計画に賛同した。大事な取引先の医師と、凡百といる一社員を天秤にかけて、社員を守ることを選択するやつなどひとりもいなかった。そんなやつがこの荒れきった社会にもし居るのなら、それはただのお人好しだ。
「可哀想なやつだ」
 完甘は、床に横たわり気絶している独歩を見た。護身用のスタンガンを改造したもので、普通ならこのご時世手に入らない。正直威力があるのか半信半疑だったが、ヨコハマ・ディビジョンでスタンガンを売ってくれた残閻という半グレの男の言うことを信じてよかったと完甘は笑った。
 ぐったりとした独歩を、完甘は病院の使われていない倉庫に運び込む。体躯のわりには痩せているようで、ばかみたいに軽い体をしていて、運ぶのは苦ではなかった。
 それから、ふとももにに拘束棒をくくりつけて開いた状態で固定し、腕をたたませ拘束用の黒ベルトで腕を後ろで拘束した。あらかじめ設置しておいたつるしの縄のフックに、ベルトの穴を引っかける。つま先立ちになるように、長さの調節をしてぶらんと吊した。てきぱきと作業を行う完甘は、案外簡単にできるものだなと感想を漏らした。今行ったこれらすべては、独歩が容易に動けないようにするため。そして、これから行う陵辱に必要だからだ。完甘は無表情で倉庫に転がるアダルトショップで調達したどぎついピンクのディルドや、バイトギャグを見た。同性愛者でもSM愛好家でもない完甘はそれを薄気味悪い物体としか思えなかったが、これを使えば目の前の男のプライドはズタズタになるだろうと思うと心が弾んだ。
「スーツを脱がす前に縛ってしまったな......。まあいい、これがある」 
 完甘は極めて冷静にことを行った。まず、よく切れるハンティングナイフで独歩のスラックスの腰をざくざくと切り裂いた。ビリビリと音をたてて服が剥ぎ取られ、上はきっちりと着込んだままなのに下半身が露出されている格好になる。無様だな、と完甘はあざ笑いながら独歩の首に、SM用の大きな赤い首輪を取り付けた。
「おい、犬。起きろ」
 そして完甘は、未だ目覚めない独歩の頬をバシンとたたいて目覚めさせた。うう、とうめき声を上げて独歩は目を開けしばらくぼんやりとしていたが、体が自由に動かないことに気がついてがちゃがちゃ音を立てあばれた。
「な、俺、なに。うっ、なんで、いたッ、あ......? な、なんだこれッ! なんで!?」
「目が覚めたか?」
 ほとんど狂乱状態になりながら独歩は顔をあげると、そこにはいつも営業で担当しているリョウゴク総合医院の医師・完甘がいたため、驚きに目を見開いた。
 昼間に会う姿とは違う邪悪な表情をした男に、独歩は「完甘先生、どうしてこんなことを」とにらむ。拘束を解こうとじたばたともがく彼を完甘は見下ろして、にこりと営業スマイルを見せると、「お前を奴隷にするためさ」と言った。
「は?」
「きみは自分の立場が解っていないようだ。観音坂くん、今からきみは犬で、俺が主人だ。いいかい?」
「いや完甘先生、なにを......。これなんですか、変な冗談ですよね。俺なにかしましたか、俺のせいなら謝りますから。まだ引き返せます、ね、先生。あの、やめましょう」
「ああ!? てめえのせいだったらこんなことやるかよバアカ! 神宮寺寂雷のやつに思い知らせるんだよ、俺をないがしろにした罪をなあ」
 説得をしようとした独歩の言葉に完甘は腹を立てて、大声で罵り、その髪をつかんでひっぱった。それから思い切りぶってやる。バシン! バシン! とたたかれ、独歩は恨めしげに完甘を見た。
「こんなことしていいと思っているんですか」
「だからやるんじゃねえかよ。物わかりがわるい愚図だな」 
 独歩が何をしようと完甘はかえってかたくなになるばかりで、必ずこいつをレイプしてめちゃくちゃにしてやるという意志を強めた。  
「あんた、先生になにかしたらただじゃおかねえぞ」
「おいおい自分の心配をしろよ観音坂。寂雷のことは狙わねえ。あいつが一番苦しむのは、他人が傷つけられたときだって俺あ知ってるんだよ。とくにお前なんか、目えかけてもらってるだろ。はは、ぞくぞくするよ。あいつの大事なチームメイトをギタギタにできるんだからな」 
 そう言うと、持ってきていたボストンバッグの中から白いどろりとした液体のはいった大きなシリンジを出して見せつけた。
「これなんだと思う?」
「最悪だ......」
「なんだと思うって聞いてんだろうが馬鹿が!」
「ううッ! ぐえッ、あ......、それを尻の穴にぶちこむっていうことか......。趣味悪いな......」 
 首輪から伸びる鎖を引っ張り首をしめてやると、独歩は潰れたカエルのようなうめきをあげた。軽蔑のまなざしが、完甘に突き刺さる。お前までその目をするんじゃない、と完甘はすっかり頭に血が上り、独歩の下着を下ろすと露出された尻穴に無理矢理シリンジを差し込み、中の液体をそそぎこんでいった。
「ひっ、つめたっ、おいッ! なにすッ、うっ......」
「おーおー、暴れるなよ、薬だ薬。死にゃしねえ。それにしても、がんの診断で見慣れてるつっても野郎の尻なんか俺も見たくねえもんだ。はあ......、まあ、こっちも念のため打っとくか」
「なんだよ。完甘、はなせッ。はっ、やめろ!」
 シリンジの中身をすべて注入した完甘は次いで、白衣のポケットの中から小ぶりの注射器を取り出す。また薬か、と独歩は身構え顔を蒼白にする。
「安心しろ。さっきのもいまのも、違法なドラッグじゃないさ」
「安心なんかできるかよ......」
「ふん、手元が狂って刺した針を折ってやってもいいんだぞ」
 針の先を首筋の静脈に当てると、完甘は手際よく薬を打ち込んだ。人間の弱点である首に針を当てられて、得体のしれない薬をうたれるという、命を握られている恐怖に身をふるわせながら独歩は逃げることも隠れることもできずにただただ完甘の暴虐的行為を受けるばかりだった。
「......さて、観音坂。それじゃあ、いいこにしてるんだぞ。俺は明日も仕事だからな。殺したりしないし、素直に言うことを聞いてくれたらちゃんと食事もやる」
「お前の言うこと聞くくらいなら死んでやる」 
「生意気なやつ。お前を俺の言うこと聞かせたら気持ちがいいだろうなあ」
 気丈な態度を崩さない独歩に、最後にバイトギャグを食ませると完甘は彼を放置して倉庫を出た。しゃべれなくなり、むうむうとうなる独歩が滑稽で笑えた。明日には薬の効き目が出ているはずだと思われ、寂雷の仲間に陵辱のかぎりを尽くせることに完甘は胸を弾ませた。それは新しいおもちゃを手に入れた子供のような笑みだった。


・・


「完甘先生、おはようございます」
「はい、おはよう」
「今日はお早いですねえ」
「ああ、ちょっとね。心電計の調子が悪いんだ。メンテナンスに来てもらったはずなんだけどなあ」
 次の日、完甘は何事もなかったように平然と病院に出勤した。適当に看護士に挨拶をしながら、例の倉庫に向かう。今頃、観音坂独歩はどうなっているだろうかと、そればかり考えた。薬は死ぬようなものではないけれど、完甘はその道のプロではないから、吊るし方や縛り方が悪くて死んでいたら困るな、と思った。死なれたら、寂雷に見せられない。
 倉庫の扉を、管理室からくすねてきた鍵で開けると、暗い部屋に光が差し込んだ。まだ中のようすはしっかりと解らない。ただ、もぞりと動く影が見えたので生きてはいるようだった。
「うう......」
 完甘が中に入り、橙色の明かりをつけると、独歩はくぐもった声をあげて侵入者を見た。未だ拘束を解かれず、つま先で立つように強要されている独歩は、疲労がつよいようすだった。時折びくびくとからだをふるわせていたが、薬をいれられ一晩放置されたらそうなるのも無理はない。
 独歩の足下はかるく水たまりになっており、ぼたぼたと先走りが勃起した陰茎から垂れ、尻からはごぽりと緩んだ薬液が流れ出していた。まるで洪水だ、と完甘は顔をしかめる。
「きたねえな。薬はそんなによかったか?」
 引きつった表情で、独歩はうーうーとうなる。口からも粘ついたよだれが垂れており、発情しているのは明らかだった。これはかなりエンドルフィンが分泌されているだろうと思われた。人間が自己防衛のためにつくる、痛みを快楽に変える物質だ。殴っても蹴っても喜ぶに違いなかった。
「オナニーしたくてたまらねえって顔だなあ」
 おそらく夜の間ずっと、自身を慰めたくてしかたがなかったのだろう。開かれた足が、なんとか陰茎に触れないだろうかと無意識にもぞもぞ動いている。独歩はそれを認めたくないのか、首を激しく左右に振って答えた。嘘なのは明らかであった。
「どろどろにしやがって、説得力がないんだよ。しごいてやりたいのは山々だが、男のちんこを握るなんて俺はごめんだからな。」
「ウーッ、ふっ、んーっ、ん!」
「聞こえねえよ」
 バイトギャグを噛まされ、声にならない声をあげる独歩を蹴りとばすと、足がふらついてぶらぶらと吊された体が揺れた。
 完甘はおいておいたボストンバッグから、紫色のアナルバイブを取り出す。子供のおもちゃみたいなそれは、ぐねぐねとしていて芋虫のようで気色が悪い。こんなもので果たして気持ちがよくなるのだろうか、と疑問だった。
 びちゃびちゃとローションを雑にまぶして、完甘は独歩の菊門にアナルビーズを一つづづつ押し込んでいった。薬で弛緩しているのか、小さい玉はするりと入っていく。裂けるのではないかと心配したが、意外と入るものだ。
 半分押し込めば、そのまま中に吸引するようにすぽんと入っていく。ごつごつとビーズが中でぶつかって、不快感でたまらないと独歩は身もだえる。
「もう三つはいったな」
「ン、ン~!」
 抜いてくれ、と言いたげにしているが、そんなことをしてやるほど完甘は優しくない。それどころか、反抗的な態度をとり続ける独歩に対していらだっていた。未だにどちらが上なのか解っていないらしい。惨めに懇願する姿が見たいのだが、そうもいかないようだ。
 とはいえ変態趣味があるわけではないので、男のアナルを責めるのは気乗りがせず、そのまま完甘は乱暴に残りの玉を勢いよくぶちこんだ。
「~~~~~ッ!!!!」
 ずちゅん、というえげつない音がして、奥までアナルバイブが挿入される。独歩は突然のことに目をぐりんとむいてのけぞった。 
 黄色の液体がももを伝ってしたたり落ちる。我慢していたのが押し出されたのだろう。もわ、とアンモニアの独特の匂いがじわりと倉庫に広がる。そういえば、ペットシーツくらい買ってやらないといけない、と完甘は思い至る。メモ帳を出すと、胸ポケットに刺さっていたボールペンで、ペットシーツ・介護用消臭剤と書き付ける。なんだか、監禁するにも手間がかかるな、と見当違いな感想を抱いた。
 暖かい水たまりを見下ろして、それから失禁した独歩に視線を移すと、羞恥で顔を赤くしてふうふうと息を吐いていたいた。
「あーあー、観音坂よ。派手にやってくれたなあ。お前のせいで俺の白衣にはねたじゃねえかよ」
 尻をつよく叩いてやると、中のバイブが動くらしくひどく嫌がった。そこでふと時計を見れば始業の時間で、完甘はためらいもなくスイッチを最大にするとそのままリモコンを置いて「また終わってからな」といって部屋を出た。


・・


 完甘はしばらく奴隷の飼育を続けたが、観音坂独歩は思っていたより辛抱強い男だった。度重なる肛虐にも、飢えにも屈することはない。尿道カテーテルや、エネマグラなどいろいろな器具をつかって責め立てたし、浣腸液をぶち込んで排泄の強要をし、プライドを折ろうともした。言うことを聞かない日や逃げだそうとしたときはスタンガンで電流を通して、してはいけないことを教え込んだ。
 完甘は一切手出しをしなかったが尻穴にはつねにふとくて長い電動のディルドが填められており、戯れにスイッチをいじって動かしたりしてあそんだ。自分の与える快楽にもだえ、それでも逆らうようにこらえるすがたは、ゲイではない完甘もさすがに気分がよかった。あとは従順になって従うようになれば重畳だったが、足をなめてみっともなく懇願すれば食事も水もやるというのに、独歩はほとんど脱水症状にも関わらず拒否を続けた。
 ぐったりと天井に吊されている今にも死にそうな男をみながら、うまくいかないことにすっかり完甘は腹を立てていた。もういっそ殺してしまって、死体の一部を寂雷に押しつけようかとも思ったが、小心者の完甘がそれを実行するには至らなかった。殺してしまったら処理が大変だし、グロいのはすきではない。
「舌噛んで死ぬなんてこと考えるなよ」
 バイトギャグを外してやって、口を自由にしてやっても反応は薄かった。これでは食わせようにも食わないだろう。そこで、完甘はブドウ糖の点滴を持ってきて、独歩に打ち込んだ。なんだか、ペットかなにかの世話をしてやっている気分だった。
 そうなればと清潔なタオルで体をきれいにしてやって、入院患者用の服をきせた。完甘はまめなところがある。厳しくしたなら、今度は甘やかす番だろう。ペットのしつけの項目を見ながら、そんなことを考えた。
 ところがいくら優しくしてやっても、独歩は一向に完甘に懐かなかった。病院食をくすねてきてやっても、傷の消毒をしようとしても嫌がって言うことを聞かせるのに手を焼いた。スタンガンの使いすぎで、独歩の腕にはひどいみみずばれが数本はしっていた。痛いのはいやだろうと、使ってほしくないだろうと脅しても、独歩は電流を流されるほうを選んだ。すでにもう感覚器官が命を守るために仕事をしはじめ、エンドルフィンの分泌は加速していた。独歩はそのうちスタンガンをあてられても絶頂するようになった。これでは仕置きにならない、と完甘はスタンガンを捨てた。
 こいつが懐いたら寂雷に見せてやろうと思っていたのに、まったくその兆候はない。完甘が独歩をさらってもう五日も経っていた。隔離された孤独のなかにそれだけいれば、ふつうならおかしくなってしまうだろうに、現実はうまくいかない。
 くそ、なんでうまくいかなんだ。そんなに寂雷がいいのか? 操立てしやがって、くそが。気づけば、完甘は独歩をしたたかに殴りつけていた。
「お前がさっさと言うこときけば、俺もこんな苦労してないんだよわかるか愚図が! 生ぬるいってか、俺が、支配者としても無能だって? おい聞いてんのか観音坂ァ!」
 完甘は独歩を吊るしから下ろして床になぎ倒すと、何度も何度も蹴りつけて、罵った。それでも独歩は生意気にも何も言わずに完甘につばを吐きかけるだけだった。態度を変えて手当をしてやっても、無反応だ。
 完甘は陵辱者としてあまりにも未熟で、やりかたが下手くそだった。おまけに日に日に元来の迂闊さ・ずさんさが顔を出し始めており、あちらこちらにほころびが出ていた。様子がおかしい、と看護士が噂をしているのを完甘は知っていた。はやくこいつをどうにかしなければならないのに一つも思い通りにならない苛立ちが、完甘の注意力をさらに散漫にした。そしてとうとう、独歩に暴力を振るっているのを誰かに見られていることすら気づかないで居たのだ。
「また、ひどいことをしてくれたものですね」
 地を這うような低い声が、倉庫に響く。長い影が入り口から伸びて、完甘の全身をぱっくりと食った。振り向けば、さらりとした長い髪をなびかせて、巨躯の男が立っていた。寂雷がとうとうきてしまったのだ。
「寂雷、遅いじゃねえか」
「全く、君は変わりませんね。そんなに私が憎いなら、私に直接むかってくればいいでしょう」
 床の上でぼろぞうきんのようになって、もはや指一本も動かせまいという風体の独歩を見て、寂雷はその柳眉をひそめた。そして「殺していないようでよかった」と言った。
「そうしたら、私も、君をどうしてしまうかわからないですからね」
「そんなに犬がお気に入りか? いいなあ慕われるやつは。誰も彼もお前を盲信しやがる。反吐が出るよ」
「こちらの台詞ですよ。私も君のような人間は、許しておけない」
 寂雷が怒りに震えている。それだけで完甘は心が躍った。自分を虫けらのように扱っていた人間が、ようやく認識してくれたのだから当たり前だった。その、ちっぽけな望みのためだけに、寂雷に見てもらいたいがために、完甘は観音坂独歩という人間をここまでめちゃくちゃに陵辱しつくしたのだ。
「観音坂、起きてやがるだろ。お前がどんなことをされたか、寂雷に見せてやろう」
「......は、やめろ。冗談じゃない、ほんと、それだけは」
「お前に拒否権があったことが、一度でもあったか?」
 完甘はにやりと笑うと、手の中のスイッチをカチカチと上に押し上げて、出力を最大にした。独歩の尻にぎちぎりに入れ込まれ、貞操帯で固定されたディルドが彼の直腸内であばれまわり、醜い喘ぎ声をあげて尊敬する寂雷の前で惨めな姿をさらす、はずだった。
 カチカチ、と何回動かしても、それは訪れない。よりにもよって電池切れとは、運が悪かった。無様なのは自分ではないか。完甘は恥ずかしさのあまり日本語とは言えない叫びを上げてリモコンをたたきつけ、独歩をの尻を踏みつけた。
「あ、あっ、ぐ......、はあッ」
 踏むと、直腸奥にぐいぐいとディルドが食い込むのか、淫らな声をあげる。
「踏まれて喜ぶマゾ奴隷になっちまった仲間をみた感想はどうだよ」
「君をどうしてくれようかと考えていたところだよ」
 寂雷は、すたすたと優雅にあるいて、踏まれている独歩の顔を見るようにしゃがみ込んだ。
「独歩君、すこし休んでいなさい」
「はい、せんせい」
 とん、と寂雷が独歩の額に指を当てると、独歩はたちまち眠るように気絶をした。それを確認すると、寂雷はすっと立ち上がり、高いところから完甘を見下ろした。
「君はほんとうに変わらない。正々堂々やるのが恐ろしいから、私が怖いからこんなことをするのでしょう」
「――ッ、うるさい、うるさいうるさい! 俺がお前を怖がるわけがあるものか!」
 ずれた眼鏡を直しながら、完甘はわめく。威圧感に押し負けそうで、なんとか踏ん張るものの、今にも足をついてしまいそうだった。
 その、高いところから虫けらをみるように見下ろされるのが嫌いだった。それは、断じて認めたくはないが、やはり彼がどうしようもなくおそろしいからなのだった。
「強がりはよしなさい。君にはもはや、勝ち目はない」
 哀れみを帯びた目で見下ろす寂雷は長い手をのばし、おびえる完甘の頭をちょいと小突いた。たったそれだけ。寂雷がやったのは本当にそれだけなのに、ただそれだけで完甘は腰が抜けて地面にぺたりと座り込んでしまう。じわ、と股間が温かいもので湿った。からだが恐怖に耐えかねて、小便を漏らしたようだった。
「あ......、あ、あ」
「それでは失礼。警察を呼んでおきました。牢の中で反省することですね」
 淡泊にそういうと、寂雷は倒れている独歩を持ち上げてその場を去った。遠くで地面にころがる、ついぞ使われることのなかった違法マイクが、さみしげだった。俺のリリックは聞いてもらえなかったな、と完甘は去りゆく寂雷の背中を見ながら変なことを考えた。
 パトカーのサイレンが近づいている。完甘はどうにもできず、あたたかい水たまりにすわって呆然とするのみだった。

 

おわり

 


 苦手な題材なので書いてる途中ほんとに死にたくなりました。独歩殺害ルートもあるんですがそっち書かなくてよかったと思います。完甘先生のことほんとに大好きなので、ゴールデンレトリバー飼って、こたつでおでんとか食べてほしいです。

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