ZOO CITY
(パーヴェ。パーシヴァルが鳥で、ヴェインが人間。パロです)
羊の角がまるまっているのをなぜ丸まっているのか、と道ばたの人に聞くくらい、やぼなことはない。そして、道行く人に、なぜ動物を連れているのですか、と聞くことも、ここフェードラッヘでは同じくらい野暮なことだった。
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「スベスベマンジュウガニっていうのは、名前ほどかわいいもんじゃない。毒をもっているしな」
フェレットをつれたエルーン男サイモンが、そんなことを言う。エルーン男は、フェレットに肉をやりながら、自分はパエリアをつついていた。
ヴェインは向かい合って、自分の分のオムレツをスプーンで切り崩す。一口食べると、とろりとした食感と卵と香辛料の風味が広がって、気分が良くなる。自分でも作れないだろうか、と考えていると、髪をぐいと引っ張られた。
「いたた、ごめんってパーさん」
ヴェインの肩に乗っていた大型の鳥――名前をパーシヴァルという――が、自分の分はまだかと言わんばかりに髪を引っ張ったのだ。真っ赤な炎の色をしたその鳥は、動物には魂があるのだという国王のことばを信じさせるほど動作が機敏で、信念を持っていた。
パーシヴァルは、クルルと鳴くと、イチゴを器用についばむ。猛禽類かなにかかとおもわせるような見た目をしておいて、主食はフルーツというのがおもしろいところだ。はじめて彼の――パーシヴァルはオスだ――食事風景を見た者は、意外だと言う。
しかしサイモンは、特に驚いた様子もなく、「猛禽類かと思わせておいて、こうしてフルーツを食べる鳥もいる。世界はギャップだらけだ」と続けた。
「それで、ハッピーバースデーの話なんだが」
「そうそう、それが聞きたかったんだよ」
「ハッピーバースデーは、カワイイ名前をしているが、コレが強力な魔術薬だ。しかも、禁止されてるハッパが調合に含まれてる。ひとつかめば、気分は誕生日パーティ。ヘヴンに行ける。まあ、麻薬だな。本当に天国に行っちまう位、中毒性が高い毒薬だ」
サイモンの言うことを、ヴェインは真剣に聞いた。魔術薬『ハッピーバースデー』は最近フェードラッヘの裏町を騒がせる麻薬で、その取り締まりと流通経路の把握根絶が白竜騎士団に与えられた任務だった。騎士団の仕事は、魔物と戦うばかりじゃない。こうした治安維持も役目のひとつだ。
「はずれの西区15番街倉庫。あそこはさる蒐集家の貴族の持ち物だって話だが、嘘だね。そこにやつらがためこんでんだ。俺とこいつが言うんだから間違いない」
「サイモンさんありがとよ。それだけで十分。あとは俺たち騎士団がやるよ」
「がんばりな兄ちゃん。騎士団の皆さんにはよくして貰ってんだ。俺もこのノストラダムスも、協力を惜しまんさ」
サイモンは、皿にのこったパエリアをさらうと、席を離れようとしたヴェインを呼び止め「だが」と言った。
「情報をくれよ兄ちゃん。こいつの予知魔法を使うには、情報を食わなきゃなんねえ。使うたび俺は情報をポカン! と忘れる。俺も痴呆にはなりたかねえんだ。なにかとびきり面白いのをくれよ。兄ちゃん自身のがいいね」
うろんげな目で、サイモンは笑った。ヴェインは、そんな裏の人間にもからりと「いいぜ」と返して、肩のパーシヴァルを引き寄せてそのトサカにキスをした。
「この鳥が俺の彼氏、なんていうのはどう?」
ヴェインがニカッと笑うと、サイモンはそりゃ傑作だ! と手を叩いた。
「いいね、ギャップがある。副団長が動物性愛! 意外でいい」
からかうように言うサイモンに、ダシにされたと理解したパーシヴァルは怒ってヴェインの耳を噛んだ。
「痛いってパーさん! ごめんってばあ」
ぐいぐいと耳を引っ張って、トサカを立てるパーシヴァルをなだめるようにヴェインは優しく撫でた。
end