セクシャルハラスメント
(アイドルパロディ ヴェインくんがパーさんのためにセクハラ接待する話です。ぱべ前提のモブヴェ。クロイデ監督とかいう謎モブがいます)
「社長、コレはどういうことなんだ!?」
ヴェインが渡された資料をバン! とたたきつけると、社長は困ったような顔をして、「仕方ないんだよヴェインくん。みんな一生懸命やってくれてることは分かっている。でも、仕方ないんだ。あの監督なんだから......」
「でも、でも......。パーさんが降板だなんて、絶対におかしい!」
今度パーシヴァルが主演する映画のクロイデ監督が、気分屋なのは聞いていた。しかし、アイドルであるパーシヴァルを起用するのもオーディションで決めたことであって、彼の努力の成果だ。それを監督が気分で降板しましたなんていうのは、理不尽きわまりない。
ヴェインがそう訴えると、社長はしかたのないことなんだ、と再度言い聞かせるように言った。
「それに、パーシヴァルくんが一番スキャンダルも多いし......」
「それだって週刊誌のでっち上げだろ! パーさんはそんなことするやつじゃないって、社長が一番わかってるはずだ!」
「でもねヴェインくん。ドラゴンナイツ以外の若手がそれぞれ勢い付いている中、こういった話は事務所にもあまり良くないんだ。しばらく彼には海外留学ということで謹慎してもらおうかと思ってさえいる」
「パーシヴァルはなにもわるくないのに!?」
「しかたないんだよヴェインくん......。僕にもどうしようもないことで......」
社長は、本当にすまなそうに言った。それは、この決定は覆らないということの裏返しでもあった。ヴェインは、わなわなと震えた。グループの仲間が、芸能界から追放されるかもしれない。どうしてもそれが許せなかった。
「なんでも......。俺にできることなら何でもするから......。だから......パーシヴァルにアイドルを続けさせてやってください!」
絞り出すようにヴェインが言うと、社長は手で顔を覆い、小さな声で、一つだけ、と言った。
「一つだけ手がある。しかし......それは...僕もおすすめしないし、君に覚悟をしてもらわなくちゃならない......」
「そんな覚悟ならとっくに出来てる! 俺、どんなことでもやるから、社長!」
そうヴェインが立ち上がって言うと、真剣な顔つきで、社長は「待っててくれ、今監督と......連絡をとるから......」と返して事務所の電話の受話器を取った。
監督は、意外にもヴェインの話を聞いてくれると返事をくれたらしい。ヴェインは喜びいさんで、監督が来ているというホテルの住所を書き留めたメモを握りしめた。
社長には、別部屋も取ってあるから、これを持っていって着替えてから監督の部屋に入ってくれ、といつものアイドル衣装を持たされた。ヴェインはそのことになんの疑問も持たずに「りょーかい!」と満点の笑顔でそれを抱えて飛び出した。
・・
ヴェインが社長室を出ると、ちょうど後輩のグランが社長室に走ってくるところだった。
「ヴェイン! パーシヴァルが降板するかもしれないって、本当!?」
「ああ、グランか。だいじょーぶだぜ! お兄さんが今社長にお願いしたところだからな。心配ないって。俺がなんとかしてみせる!」
ヴェインが力こぶをつくってみせると、グランはほっとしたような顔をした。
「僕、ドラゴンナイツに憧れてこの事務所にはいったから、みんなには絶対苦しい思いなんてして欲しくないんだ。ヴェインも、あんまり無茶しないでね」
グランがそう言うと、ヴェインはにっこりと笑って、「お兄さんに任せておけば、大丈夫!」と返した。
・・
「ドラゴンナイツなら、だれでもいいって言ったんだが......。まさか、君だったなんてね」
ヴェインが失礼します、と入ったホテルのスイートルームのベッドに腰掛けて、監督は待っていた。近くにテーブルもソファもあるのに、なぜそこで待っていたのか、その意図はヴェインにはわからなかった。
「へへ、張り切って衣装にも着替えたんだけど、......ですけど、ええと、俺じゃダメ、だっ、でしたか?」
たどたどしい敬語でヴェインが言うと、クロイデ監督はにこりと人好きのする笑みを浮かべて、「そんなことないよ。ヴェインくん。ボクはドラゴンナイツなら君のファンなんだ」と言った。クロイデはスマートそうな印象を受ける、監督というよりゼネラルマネージャーと言った方が納得されそうな壮年の男性で、初めて会ったヴェインは、シュッとしてるな、と心のなかで思った。
「あ、ありがとうございます!」
「ステージ衣装も、間近で見られてうれしいよ」
ヴェインは、褒められて顔を紅潮させて頭を下げた。そんなかしこまることはないよ、とクロイデ監督はヴェインに向かって言った。
「まあ、ボクの横にでも座ってくれ。話したいことがあるんだろう?」
クロイデ監督がぽんぽんとベッドの横を叩くと、ヴェインは、はい、と返して、言われるままそこに座った。
「あの、そうなんです。俺、どうしても今度の映画でパーさん......パーシヴァルが降板っていうのに納得がいかなくて......」
「ああ、彼のことか。いや、ちょっとね。彼が演技力がないとか、魅力的じゃないとか、そういうのじゃないんだ」
「なら......!」
「ただボクが気に入らなかったから、やめてもらうことにした。それだけさ」
「そ、そんな......」
クロイデは悪びれもせずそういった。ヴェインは、本当にパーシヴァルがそんな理不尽な理由で降板させられてしまうなんて、と顔を蒼白にした。
「でも、君が頑張ってくれるっていうなら、考えを改めようかなって思ってるんだ」
「ほ、本当、ですか!」
「うん。ボクは嘘を言わないよ。ボクは君のファンだから、サービスしてくれるなら、言うことを聞いちゃうかもしれないね」
サービス、と言われ、ヴェインは首をかしげたが、すぐにするりとクロイデ監督の手が太ももをなでさするように、ヴェインの足の上に置かれて、「ひっ」と声を出した。
「この太もものベルトは、なんでつけられているんだろうね。君のたくましい足が、強調されてとってもセクシーだ」
「う、あの、その......。えっと......」
「ボクは君を褒めてるんだよ。お礼を言わなくっちゃ」
「こ、光栄です......」
すりすりと、性的な意図をもって触れられると、ヴェインはもじもじと太ももをすりあわせた。こういう接待があることは知っていたが、まさか、よりにもよってこんなときに、自分がなんて、ヴェインは思いもしていなかった。ここで逃げるのは容易だったが、パーシヴァルの芸能界残留がかかっている今、ヴェインは逃げるというカードをどうしてもきれなかった。自分さえ我慢すれば、という気持ちが大きかったのだ。
「あと、ボクはそのオレンジのベスト大好きなんだ。キミは、すごく腰がしまっているから」
ふとももと反対の手が、背中を回って腰に当てられた。胸から腰にかけてのラインをなでられて、ヴェインは「ふえっ」と泣き出しそうになったが、ぐっと我慢した。パーさんのため、パーさんのため、と何度も心の中で唱えて、クロイデのぶしつけな手に耐えた。
「ヴェインくん、胸にもたれても?」
「は、はい......。監督の、すきに、してください」
そう言うと、ヴェインはクロイデ監督に、トンとベッドの上に押し倒された。
「あの、おれ、こういうの、したことないから、その監督......」
「怖がらなくていい。取って食ったりしないよ。本番までする気はないさ」
たださわるだけ、と言うクロイデ監督に、ヴェインはこくこくと頷いた。さわるだけなら我慢できる。さわるだけなら。
「だけど、良ければキスも欲しいなあ。君からそれがもらえれば、ボクは君の言うことをなんでも聞いてしまいそうだ」
「や、やくそく、です、よ」
ヴェインはその言葉を信じた。そして、クロイデ監督のお気に召すままに、その頭に手をあてて、おびえを殺しながら口づけをしようとした。
が、そのときだった。
ガン、バリッ! とホテルの木扉がマスターキーによって勢いよくこじ開けられたのは。
「クソッ、開けろ! ここに居るのは分かってるんだぞ、このッ! 駄犬!!」
大斧をガンガンとぶつけて、そのままパーシヴァルは扉を蹴破った。クロイデ監督も、ヴェインも呆然としてそれを見ていた。
「パーシヴァル!?」
やっとのことで目の前の男が誰か認識したヴェインは、すっとんきょうな声を上げた。パーシヴァルは無言でかつかつと大理石の床を早足で歩くと、ヴェインに覆い被さっていたクロイデ監督を思いっきり蹴飛ばした。
「ぐ、あッ!」
吹っ飛ばされたクロイデ監督は、こんなことをして許されると思っているのか! とパーシヴァルに向かって叫んだが、「世界的監督とあろうものが、アイドルにセクシャルハラスメントをするなんて、許されると思っているのか?」とパーシヴァルに怒りの炎に燃える赤目ににらみつけられて、ひっ、とおびえた悲鳴を漏らした。
「パーシヴァル......、なんで」
「ふん、この、どこかの馬鹿社長が、馬鹿に馬鹿なことを吹き込んだと聞いてな。胸くそ悪いから、来たと言うことだ」
「でも、こんなことしたらパーさんが」
「駄犬、俺がもしこんなことでこんな下衆野郎の映画に返り咲いて喜ぶような人間に思えたのか?」
「う、それは。でも、だって.........このままだと海外謹慎って......」
しどろもどろになるヴェインの手を引いて、倒れたクロイデ監督を放置し、パーシヴァルは部屋を出た。ずかずかとあるきながら、パーシヴァルは「海外謹慎だと? ならブロードウェイのオーディションでもうけるかと思っていたところだ。舞台は、そうだな、ハミルトンか」と言った。
ヴェインはなんだか嬉しくなって、「俺、パーさんのキンキーブーツが見てえな」とその背中に向かって言った。
HAPPY END