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あのころ

(黒龍騎士団時代のジクヴェ+ランスロット。ご飯くってはなしてるだけ)

 黒龍騎士団団長、ジークフリートは、ヴェインにとってどういう存在かというと、説明がしづらい。片や騎士団の団長、片やただの一兵卒ということで、関わりはほとんどないと言って良さそうなものだが、意外とそうでもない。
 というのも、ヴェインの幼なじみであるランスロットが、彼の弟子であるからだ。ランスロットとジークフリートの訓練は大概が夜遅くまで続く。そうなると、団員の夕食の時間に間に合わず食いっぱぐれるのが当たり前で、そうすると幼なじみであるヴェインがランスロットのために夜食を持って訓練場までやってくるというのが常となっていた。
「おお、やってるやってる」
 ヴェインは大剣と双剣をうちかわす幼なじみと騎士団の団長を見ながら、草の生えた土手に腰を下ろす。
「ランスロット、よそ見をしている暇があるのかッ!」
「は、はいッ!」
 ランスロットは、容赦なく振り下ろされる大剣の一撃を受け流すので精一杯で、一向に攻勢に立てそうもない。それどころか、だんだんと力負けして受け流すことさえできなくなりつつある。ランスロットが弱いわけでない。それだけジークフリートが強い、ということだ。
 夜もふけた訓練場には、鋼と鋼のぶつかる音と、二人の会話しか聞こえない。ヴェインは訓練が終わるまで、その音を聞いているのが好きだった。ヴェインは、ニコニコと笑って、二人がぶつかり合うのを見る。もうすぐ決着が付きそうだった。
 甘いッ! というジークフリートのかけ声とともに、ランスロットが大剣の背でなぎ払われ吹き飛ばされた。受け身をとってごろごろと転がり、地面に這いつくばるランスロットを見て、ジークフリートは、今日は終わりだ、と立ったまま見下ろして言った。
 ヴェインは、やっぱりうちの団長はカッコイイ、と思いつつ、二人におおいと手を振った。腕にさげたバスケットの中には、保温鍋に入れたシチューと、パンが二人分入っている。勿論、ヴェインが用意したものだ。
「ヴェイン!」
 ランスロットは飛び起きると、鎧をきしませながらヴェインの待つ土手まで駆けてきた。その後ろを、ジークフリートはゆっくりと歩いて着いてくる。
「ランちゃん、おつかれさま。ジークフリート団長も」
 いつもの、もってきたんでよかったら食べてください、と言うヴェインに、ジークフリートは、ちょうど腹が空いていたところだ、と返してヴェインの隣に座った。
 訓練のあとの、汗臭いにおいがかおる。ジークフリート団長も汗をながすのだなあ、などとヴェインはどうでもいいことを思った。
 これは訓練に夜食を持ってくるようになってから知ったことだが、ジークフリートはよく食べる。ランスロットも健啖家だが、それ以上に食べるものだから、ヴェインは多めに料理を作るようになった。
「ジークフリート団長は、本当によく食べますね」
 ヴェインは、あまりに彼が食べるものだから、そう聞いたことがある。すると、ジークフリートは何でもないことのように、お前の作る飯は美味い、とだけ言った。
 なんであれあのみんなの憧れであるジークフリートに褒められたものだから、ヴェインは顔を紅潮させて、ありがとうございます! と大きな声で言ったのをよく覚えている。
 幼なじみが腹を空かせてはいけないと始めたことだったが、普段は背中を見るばかりのジークフリートが、こうして自分と食事を囲んでくれるのが、ヴェインにはどうにも嬉しくて、欠かさずランスロットの訓練の日は顔をだしてしまう。
 さすがに、ほとんど面識のないもう一人の弟子、パーシヴァルのときにまで顔をだすことはしなかったが。
「ジークフリート団長、今日もすごかったですね」
 ヴェインがそう言うと、ランスロットがジークフリートさんなんだからあたりまえだろ、と、なぜか自分のことのように返した。ジークフリート自身は、そうか、と軽く笑う。
「ほんと、ジークフリート団長はめちゃくちゃカッコイイですよ。〝竜殺し〟なんて二つ名もあるし」
「自分で名乗ったワケではないんだが」
 そんなことを言ってジークフリートは、パンをちぎって口に放り込む。ヴェインには、そういう人間じみた仕草さえいつになってもおもしろい。ヴェインがジークフリートの食べる姿をじっと見ていると、食べにくいんだが、と照れくさそうに言われてしまう。
「あ。すいません! 俺、そんなに見てましたか」
 シークフリート団長のこと、と聞けば、見てた見てた、とランスロットが茶々を入れる。そうして、笑い声が起きて、そういう、あったかい食事がなぜだかいつか昔の家族団らんの風景を思い出して、ヴェインは好きだった。
 あのときみたいに、また食卓をかこめたらいいのに、とヴェインは黒龍騎士団が白竜騎士団となり、ジークフリートが大罪人とされる今でも、たまに思っては渡す相手のいないシチューをかき混ぜている。

 

 

end

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